99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実るを読んでみた

本書は、東京でIT起業の社長をやっていた岩佐氏が、震災でゼロになった故郷に、最先端のIT技術を駆使した巨大イチゴ農園を建設したエピソードを追体験できる一冊となっています。

3年足らずで「一粒1000円」という高級イチゴのブランディングに成功。その後、その技術をインド、サウジアラビアに展開と、今もなお拡大し続けている岩佐氏。

ただの感動ストーリーにとどまらない。ゼロからアクションを起こしたことによる様々な課題、問題も多く綴られており、ビジネスで壁にぶつかっている人へのヒントにもなります。ただの震災本でもなければ、農業本でもない。多くの絶望を抱えた悩める現代人に贈る力強い「エール」をうけとってください。

■書籍の紹介

99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る
岩佐 大輝 著


「何もない場所」から全ては始まった


岩佐氏の実家は、宮城県山元町。妻の里帰り出産でちょうど帰省したタイミングで、震災の被害にあったそうです。被害が大きかったのは地震そのものではなく、津波。岩佐氏の実家自体は高台にあったため被害はなかったとのことですが、故郷の町は壊滅的な被害に見舞われました。

山元町の人口は15,000人~16,000人ほどでしたが、そのうち約600~700人ほどが震災による被害で亡くなりました。人生は1回。1日1日を100%の力で生きていかなければならないと、この時に誓ったそうです。また、本書のメインであるイチゴ農園ですが、もともと山元町はイチゴ農業が主要産業でした。しかし、津波の影響でその95%が一瞬でゼロになったことも語られています。

7割までは徹底的に知識を入れ込んで行動する

東京でIT企業を経営していたことで、自治体から復興支援を依頼された岩佐氏。そこで目を付けたのがイチゴ農園です。経営やマーケティングについては知見があるものの、イチゴづくりについては全くの経験がない状態でした。そこで津波で廃業を余儀なくされた生産者に話を聞く、全国の有名な生産者の元を訪れることで、知識をつけていきました。

その中で大事にしていたマインドが、徹底的にその分野について勉強してから会いに行くことだと語られています。もし、1しか知らなかったら、プロは3までしか教えない。しかし、7まで知っていたら、9までは教えてくれる。プロに合う上で最低限の礼儀であることは間違いないですが、それだけ1回1回のプロと出会うチャンスを大切にしていたということでしょう。

とにかくPDCAを回せ、「さっさとやれ」

岩佐氏が語る何かを成功させるための秘訣は、非常にシンプルです。それは「さっさとやれ」という考え方です。最初から完璧を求めすぎず、「7割くらいの準備」を終えた段階でスタートすることがちょうどよいと語られています。ものごとをスタートさせる時、必要なのは「やる」と決めることです。なるべく早く失敗し、改善することこそが、最短で事業を成功させるポイントになります。

また、「やるかやらないか」の時点で、勝負の99%は決まると語られています。どうしても一歩踏み出せないときには、「人生の一回性」を思い出すと、必ず行動に伴ってきます。一度きりしかない人生、そして心半ばで夢を断たれた人達がいる。大胆に飛び込まなければ、岩佐氏が求める結果には到底たどり着けることはできなかったのです。

勝てないゲームならルールを変える①:農業とITの掛け合わせ

イチゴ農家は産業として大きくなりにくい仕組みが出来上がっていいます。それは人件費の占める割合によるものです。ハウスを大きくすれば、それだけ人件費がかさみます。しかし、働く人の給与を下げるわけにもいかず、そして人を減らせば、今度はイチゴを収穫できなくなります。そこで、その問題を解決するために、岩佐氏はオランダ型の農業である「スマートオグリ」を学びます。

ハウス全体をコンピュータ管理し、日本の農業は広くても30アールくらいの規模が限界でしたが、オランダではハウスは、30ヘクタールほどになります。この規模を考えた時に、農業とITを掛け合わせ、新しいビジネスモデルを考案していくのです。

勝てないゲームならルールを変える②:PDCAを回す仕組み化

農業には「研究開発」「生産」「販売・マーケティング」と大きく3つの要素があります。既存の農家が関わっているのは「生産」だけで、他は国や市場に任せている体制なのです。そうなると、消費者が見えず改善点や評価が分からない。そして、必要な研究・開発も分からないため、PDCAを回すことができません。

そこで岩佐氏は研究開発、販売・マーケティングの全てを自社に引き受けることにしました。そうすることで、PDCAを回す仕組みを作り、品質も売上も担保できるようにしていきます。

勝てないゲームならルールを変える③:人件費へのメス

イチゴ農家にとって人件費が占める割合が大きいと上述しましたが、それは摘み取りからパック詰めの作業を、人の力を頼らざる負えない理由があるからです。なんと人件費の75%が栽培そのものではなく、「摘み取り~パック詰め~出荷」に占められているとのことでした。

そこで岩佐氏が考案したのはシンプルに「パック詰めをしないこと」です。①パックそのものをなくし、パックに入れなくても出荷できるようにするのと、②生のイチゴとして形が重視されるような売り方をしない、この2点を形にすることで、人件費の削減を実現しました。

生きている僕らはリスクは全部取っても進まないといけない

岩佐氏は、イチゴ農園のビジネスモデルが固まってきた時、最新技術を駆使したハウスを自社で建築することを決意します。しかし、そのためには合計5億円の事業費が必要でした。

3億は農業関係の補助金でまかなえるものの、2億は銀行から融資を受ける必要があります。成功しているビジネスに対して、融資を受けるのであれば、これまでも経験していたことです。しかし、未経験事業の2億円はリスクが高すぎます。

この時、岩佐氏は事業が失敗した時、最悪自分の家も、他に経営している会社も全て無くなるかもしれない。それでも志半ばで命を絶たれた2万人の犠牲者を思えば、「やるしかない」という覚悟が圧倒的に強かったと語っています。この覚悟こそ、事業が成功するために絶対に必要なものなのです。

リターンが返ってこない事ではない、変わらないことが最大のリスク

リスクというと、それに見合うリターンがあるかどうかで判断します。しかし、2億円の借金に対して岩佐氏は、リターンなど考えてもいなかったそうです。動かなければ町は主要産業を失って沈む、イチゴ農家の未来もありません。

そういう意味では、借金をしないことのほうがリスクだと語っているのです。震災を経て、いつ人生が終わるかどうかわからないということを身をもって体感した岩佐氏だからこそ、その判断に迷いがなかったと言えます。

面積や人を増やしてもお金がかからないビジネスモデルの完成

ITなどの先端技術を駆使した農場は、半年弱で形になります。これは、ビジネスモデルを一変し、人の力だけに頼るビジネスから脱却したことを指します。

研究、開発に投資したことで1.5倍の量が収穫でき、1.5倍で売れるようになりました。イチゴの生産からの流れを全て社内で賄うことで、戦略的にモデリングすることができます。面積を増やしても、人を増やしてもお金がかからない、固定費としてのビジネスができあがったのです。

そして出来上がったイチゴのブランド名として「ミガキイチゴ」という名称をつけます。ブランドに込められたメッセージは、ダイヤモンドの原石は石ころだが、磨けば磨くほど綺麗になっていく。山元町のイチゴも同じように、震災で一度は無くなりかけたイチゴ産業です。

復興を願った多くの人の想いで磨かれて、まるでダイヤモンドのような輝きを手に入れた唯一無二のイチゴ、そんな想いが込められているに違いありません。

マーケティング部門の仕組化「プロボノ」

岩佐氏はマーケティングについては、既存の農業では専門外だったため、プロボノ(各分野の専門家によるボランティア活動)という仕組みを採用します。素人が考えるよりも、専門家20人の力を5%ずつ出し合ったほうが効果的という理由からです。そして、プロボノ組織を可動させるために5つのポイントがあると語ります。

①離脱しても良いが戻ってきて欲しいと伝える
②その人のプラスになることをやってもらう
③誰が、いつまでに、何をやるかを決める
④リーダーを2名置き、メンバーの離脱に対処する
⑤人の気持ちに寄り添う

リーダーを2名置くなどはプロボノならではのポイントですが、他の項目については、どの組織でも同じことが言えるはずです。

本書では「独立は独り立ちすることを意味するが、一人で全てできる経営者には絶対になれない」という経営者ならではの目線で語られています。人の力を借りていることを自覚しているからこそ、経営が回っていくのです。

商品ブランディングの最高峰、伊勢丹へのこだわり

試行錯誤を重ね、ようやく完成したミガキイチゴですが、これをブランディングするにはさらなる一手が必要となります。ブランディングにおいて、どう売るか、どこで売るかは大切なポイントです。

岩佐氏が目指していたのは、日本一のイチゴ。そのため、目を付けたのは日本一の百貨店「伊勢丹」です。バイヤーもお客さんも超一流。一店舗で年間2,000憶円以上を売り上げるのが、伊勢丹なのです。

これまでのコネクションを使って、伊勢丹バイヤーとの接点を持った岩佐氏でしたが、ミガキイチゴを伊勢丹で取り扱ってもらうためには多くの課題がありました。

「味が薄い」「傷がある」2つの課題

伊勢丹の本店バイヤーにミガキイチゴを食べてもらうと「味が薄いね」とバッサリ言われます。被災地の人が懸命に作ったイチゴでも、最終的にジャッジされるのは、商品の品質です。

商品販売者からすると、どうしてもプロダクトアウトな考え方になってしまいますが、売る側はあくまでマーケットインの考え方になります。特に伊勢丹は完全顧客主義。このギャップを埋めなければ、取り扱ってはもらえないのです。

しかし、伊勢丹の商品への想いを直接受けることは、生産者にとってはチャンスです。ただショックを受けて落ち込んでいては、何も解決しません。岩佐氏は、バイヤーからの意見をもらえたことを力に変え、より高い品質の追及ができたと語ります。

また、出荷においてミガキイチゴは従来の流通ルートにすると、「宮城県産」の表記になり、「山元町」の名前は世に出ません。そのため、普通の宅急便で送っていました。その時の弊害が「商品の傷」です。

岩佐氏はこの問題を解決するために、市場のトラック運転手に片っ端から声をかけます。この行動により、運送会社との取引がスタートします。重要なのは、「コネクションがないなら、コネクションをつくればいい」という考え方。行動を起こさなければ何も始まりません。

ミガキイチゴ一粒1,000円の革命

こうした課題を解決し、ミガキイチゴはとうとう伊勢丹新宿本店の店頭に並びます。商品を価格を決めるのは生産者ではなく売る側。実際に岩佐氏が伊勢丹に赴くと、販売価格は一粒1,000円と表示されていました。一粒1,000円という触れ込みはインパクトがあったため、テレビや雑誌などのマスコミでも報じられれるようになりました。

高級路線は万人受けする商品ではなくなるデメリットもありますが、それでも山元町=良いイチゴの産地という印象を与えることができれば、山元町のイチゴがブランド化されます。

もともと、山元町の復興、活性化を掲げ、取り組みを始めたイチゴ農園です。そういった意味では岩佐氏も一粒1,000円の価格は大きなプラスに働いたと語ります。

批判は新しいことが起きるシグナル、あえて批判を浴びる

新しい事を始めれば、当然批判的な考え方をする人が出ます。しかし、やっかみを受けるくらいのことをやらないと、新しい変化をもたらすことはできないのです。

何か批判を浴びたら「これは新しいことが起きるシグナル」だという意識を持つことが大事で、批判を起きないようにすることは毒にも薬にもなりません。大事なのはポジションを取ること。自らをあえて批判にさらす。それによって自分の考えを研ぎ澄ませ、人間力を鍛えることが重要です。

同じ波は二度とこない、「今だ」という最高の波に乗れ

ミガキイチゴのブランドは徐々に定着し、岩佐氏の元にインド農村開発の相談が舞い込みます。まだまだ道半ばだったものの、岩佐氏は挑戦することを決意したのです。

その理由は被災地の復興において、起爆剤になるニュースが必要だったためです。また、TPP問題の最中で農業の停滞化も進んでいたため、勢いをつけたかったと語られています。チャンスがきた時、同じ波はもう二度ときません。重要なのは、その波に乗るか乗らないかの判断です。ここが勝負の分かれ目となります。

壁は高いからこそ、乗り越えた時に圧倒的な差になる

岩佐氏はミガキイチゴを日本を代表するブランドに成長させると言います。3年前、山元町は震災による大打撃を受け、イチゴ農家のほとんどが壊滅的となりました。

しかし、たった3年で絶望しかなかった町に、希望のイチゴが実り、人々に笑顔が戻ってきました。ただの復興ではなく、若者がiPadを持ち、セグウェイに乗りながら、イキイキの働くイチゴ農場が生まれたのです。

はたから見れば、それはとてつもなく大きな壁だったはずです。周りの批判も多く受けたでしょう。それでも、その壁を乗り越えたからこそ、唯一無二のイチゴ農園を誕生させることができたのです。壁は高ければ高いほど、圧倒的な差をつくることができます。

まとめ

本書を選定した理由は「狂気的にやる」というテーマに対して、ビジネスに変革をもたらす人のエピソードこそ、学びが多いと考えたからです。また、前回の読書レポートに書いた「覚悟力」を学ぶためには、やはりゼロからのビジネスを立ち上げた人の考え方をトレースすることが一番だとも考えました。

本書を通して感じたのは、「信念の大切さ」「壁=チャンス」です。生きている自分たちはリスクを全部とってでも進む、という考え方は想いというよりも信念で、その根幹がしっかりしているからこそ、強い覚悟が生まれていくのだと感じました。

絶対にクライアントのビジネスを成功させるという「信念」を、まず根幹に持ち、これからのクライアントワークに挑んでいきます。

そして、すでに色々な本を読んでいく中で「壁=チャンス」は学んでいましたが、壁を越えた先に待っているのは自己成長という観点のほうが、これまでは強くありました。

しかし、ただの自己成長だけでなく、自分の今のポジションを上げ、圧倒的な差をつけられるチャンスだと本書で学びました。今後はより壁を欲し、狂気的に挑んでいきます。

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