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豊田市における人工衛星による漏水調査結果に対する検証

衛星を用いた漏水調査とは

細かい解説は端折るが、大雑把に言うと「人工衛星ALOS-2による空撮画像を解析し、地下の水道管の漏水を検知する」というものである。
ALOS-2の観測は地下まで透過しないし、たとえ地上まで染み出ていたからと言って水道水と土壌水を判定する能力はない。染み出ている時点で土壌成分が混ざっているからだ。
しかしこれができると大真面目に言っている企業が存在するし、それに騙される行政もある。企業の方はイルラエルのベンチャー企業とのことなので、乾燥した地域で水たまりがでているということは、水道管破裂の可能性が高いのかもしれないが、温暖湿潤で地下水豊富な日本では何由来の水かなんてわからない。


豊田市の事例

愛知県の豊田市では令和4年(2022年)からこのイスラエルの技術を使った漏水調査を行っており、この成果について論文を発表している。
岡田(2023)『衛星画像を活用した AI 漏水調査について』AI・データサイエンス論文集 4巻L1号

この論文によると豊田市には都市部に2590㎞、山間部に1072㎞の管渠があり、そのうちそれぞれ1148㎞と1062㎞に当たる範囲を調査した(図1)。なおALOS-2の計測範囲を鑑みれば豊田市全域を1枚の画像で十分調査可能とおもわれるが、なぜ全数調査していないのか論文で触れられていないためよくわからない。

図1 調査結果(岡田2023)より

調査結果は直径200mの円形で示される。どのモードで計測したデータを用いているのかわからないが豊田市内の広い範囲が1枚で写っているということはおそらく高分解能のデータだろう。ということは地上分解能は3~10mということになるのだが、そこから直径200mのデータを作るのは逆に難しいような気がする。
ともかくこの200m円のどこかで漏水が起きている可能性がある、というのがこのシステムのアウトプットである。

調査結果によると都市部259カ所、山間部に297カ所の計556カ所の漏水可能性箇所円が示され、その円内にある管渠延長は257㎞とある。平均すると1円につき462mの管渠があったとわかる。
そのうち実際調査したところ漏水箇所があったのは都市部で117カ所、山間部で37カ所となり、正答率はそれぞれ45%と12%となる。
なんぼなんでも低すぎやしないだろうか。

検証

ここからは豊田市の成果を確率上の理論値と比較していく。ただし仮定に仮定を重ねた不完全なものであることは留意されたい。

対象範囲設定

残念ながら前提となる豊田市内の管渠データがないため、いきなり仮定となる。
都市部についてはDID地区の範囲をそのまま都市部と見做すことにした。
山間部についてはこれといった資料がないが、国土数値情報の緊急輸送道路とバスルートを使うことにした。管渠があるような道はだいたいはこの2つの道かその周辺にあるだろうという実に大雑把な予想である。範囲区切りが直径200という恐ろしく大雑把だからこそできる技だ(図2)。

図2 豊田市(オレンジ)とDID地区(ピンク)と緊急輸送道路・バスルート(緑線)

半径200m円を重なりなくランダム配置するのは面倒なのでこれらと重なる箇所に対して200m×200mの正方形グリッドを引き、これで代用した(図3)。DID地区にかかるものを都市部グリッドとし、1746グリッドとなった。それ以外のグリッドを山間部グリッドとし、4799グリッドとなった。計6545グリッドである。

図3 対象正方形グリッド

全体の漏水個所数の推定

これについては論文中にある「従来の人海戦術で実施した令和2年度は,年間の調査延長が80km,漏水発見箇所が 69 箇所でした」という記述をそのまま採用する。論文を見る限り従来法では特に対象範囲に重みづけを行っていなかったようなので、おおむねこれくらいの確立であると見做した。サンプル数が少なすぎるのは承知の上である。
この確率を豊田市内の管渠延長3662㎞に適用すると漏水箇所は市内全域に3170カ所あるはずとなる。

確率推定

管渠延長は都市部と山間部で分けられているため配置数も分けてすることも可能だが、令和2年度の調査個所がわからないのと今回設定した区分が豊田市の区分と一致しない以上分けて計算するのは不適切と判断し、ランダム配置は分けずに行う。
3170カ所をArcGISでグリッド上にランダム配置する。実に雑な作業だが他にやりようがないので仕方がない。
なおこの際に完全に同一地点があったら1つの漏水箇所になってしまうと考え、最低でも10m点間距離が出るように設定した(図4)。

図4 グリッド上にランダム配置した漏水箇所点(茶点)

ランダム配置を行ったところ都市部グリッドで漏水箇所点が含まれるグリッドは2498グリッドとなり、確率で言うとそれぞれ38.2%となった(図5)。

図5 漏水グリッド率

これに豊田市のシステムが抽出した数を掛け合わせると漏水可能性箇所円それぞれ1つあたりの漏水箇所数期待値が出る。
前述の通り都市部・山間部の別はこの推計では意味をなさないため触れないが、合計の期待値だけでも212に対して実際の抽出数は154と下回っていることが分かった(図6)。

図6 漏水箇所数期待値と実際の抽出数

結論

今回の検証は仮定とデータの代用を重ねているため、学術的な厳密性は皆無である。ほとんど暴論と言ってしまってもかまわない。
しかし、さほどかけ離れていないデータが出てくるということは豊田市の行った衛星を用いた漏水箇所の推定はほとんどランダムなのではないかという疑惑をさらに補強する結果にはなっていると思う。

なお、図や表が雑なのはご容赦ください。

また、本記事をブラッシュアップしてちゃんとした場所で公開するのに協力してくれる方を募集しています。
正直、noteでいくら書いたところで行政判断に伝わることはないだろうから。

2024/7/7 小林護

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7/7 19:00 投稿
7/7 19:05 誤字修正

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