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勝新太郎 「破天荒」はサービス 中村玉緒 100周年記念企画「100年の100人」

昭和を彩った大スターの一人、勝新太郎(1931~1997)。俳優業のみならず、歌手、映画監督までこなした才人だった。破天荒な人生の伴侶、中村玉緒氏にとっては「最愛の男」であり続けている。/文・中村玉緒(女優)

語り部・中村玉緒

中村さん

亡くなってもうすぐ25年になるんです。夫のことでは、忘れられないことは多すぎます。

何からお話ししてええのか迷いましたけど、私と彼の最初で最後の共演になった舞台について聞いて頂きましょう。

亡くなる前の年、平成8年の5月に「夫婦善哉」をることになったんです。もう、勝は下咽頭癌を患ってることを知っていて、舞台より映画を撮りたがってたんです。彼が製作した「無宿やどなし」で共演した(高倉)健さんを主役に据えた企画でした。打ち合わせのために会おうとしてましたけど、スケジュールの折り合いがつかないままだったようです。

それで舞台をやろうってなりまして、夫が演出も兼ねて主人公の維康柳吉、私が蝶子という配役でした。ほんまの夫婦が夫婦を演じる。「これはおもろいやないか」って。

女優である私としては、尊敬する演出家で俳優の勝新太郎と共演出来るのが心から嬉しかったんです。

いよいよ台本も出来て、他の役者さんも決まったので稽古が始まりました。そうしたら突然、あの人、役者さんみんなに向かって、「台本の台詞を捨てろ!」って(笑)。

皆さん、台詞を頭に入れてはるでしょう? だから顔色が真っ青になってました。

勝としては書かれた台詞がイキイキ聞こえない、それが不満だったんでしょうね。彼が口立てで語った台詞をカセットに録って、それを私や演者が頭に入れることになったんです。私は台詞をきっちり頭に入れておきたいタイプなんで大変な苦労のし通しでした!

本番を迎えたら、また稽古と違う演出をやりましたよ。芝居の結末、普通より早くパーッと緞帳を下ろすなんてことも。お客さんはびっくり仰天(笑)。

とにかく生涯、大向うを驚かせて楽しませたいという人でした。

勝新太郎

勝新太郎

翌6月は1カ月の地方公演に回りましたけど、私はいつ夫が倒れても看病できるように着物とか準備して行きました。それでもね、勝はお酒も口にするし、プカプカ煙草を吹かしよるんですよ! 私らから「やめなさい」と注意されても、どこ吹く風。「だめなんだよなァ」とボヤくだけ(笑)。

これも周りの目を意識した彼流のサービスなんですよ。「破天荒な勝新太郎」を私生活でも、死ぬまで貫いて演出してたんやと思います。

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