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清武英利 メディア渡世人 記者は天国に行けない14

「少年A」両親の心を開いた女性記者の夢と欲/文・清武英利(ノンフィクション作家)

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 今年の正月を目前に控えた凍寒の夜だった。暴力団捜査を担当した元警視庁刑事たちの小さな忘年会が、東京都心の駅前酒場で開かれていた。

 濛々たるタバコの煙である。靄と喧騒の中に、私も身を沈めていた。そんな喫煙居酒屋がサラリーマンで賑わっていることも、かつてのマルボウ刑事たちが定刻の2時間も前から飲み続けていたことも驚きだった。

 新型コロナウイルスが依然、収まらないのに、彼らは紫煙のなかで痛飲し、再就職先の居心地や現役時代の武勇伝を、口角泡を飛ばして話し込んでいる。

 かつては後輩の現役刑事も交え、大衆中華料理屋などに巨体、屈強、異相の輩が集まって、泣く子も黙る宴会を開いていたのだ。だが、コロナ禍が広がってからはそれもままならず、久しぶりの集まりなのである。

 人恋しいのだ。そこに身を置いた私もそうだった。

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