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三人の卓子 読者からのお便り 2023年2月号

創刊100周年の雑誌『文藝春秋』での名物コーナー「三人の卓子」。読者の皆様からの記事への感想を募集・掲載しています。
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不満が顕在化する世界

 新年特大号のエマニュエル・トッド氏、佐藤優氏、片山杜秀氏の鼎談『ウクライナ戦争の真実』を読みました。

 ロシアによるウクライナ侵攻からもうすぐ1年が過ぎようとしているが、いまだ収束がみえない。

 3氏の考察論評で共通して読み取れたのは、今まで先送りされてきた問題が、これ以上先送りできないところまできているということだ。ウクライナとロシアの二国間だけの領土争いという単純なものではなくなっている。

 その背景には、クリミア併合やその前のソ連崩壊、更にはウクライナ飢饉まで、二国間のこれまでの歴史と当事国以外の各国の利害や利権、思惑がある。今までくすぶっていた不満が戦争という形で表面化したに過ぎない。

 前提として、ウクライナはロシアの様々な動きに不満がある。一方のロシアもEUの動きに不満がある。今までは抑えられていた不満が、限界まできている。

 しかしこれはウクライナとロシアに限った話ではない。世界中で、領土や利権に関して不満が高まっている。

 今回のウクライナとロシアの戦争が、世界中で不満の顕在化の引き金になる予感がする。今後の世界のためにも、誰にも止められなくなる前に、落としどころはどうなるのか、誰が決めるのか、どのような収束になるかが注目される。

(千葉県 小泉五大)

現代の『日本の自殺』

 佐伯啓思氏の『「日本の自殺」を読み直す』は、匿名の学者集団が50年前に発した警告の書を、見事に現代の日本にリバイバルさせた。同時に、ローマ帝国衰退などの「文明の法則」を参照した『日本の自殺』という論文から、結局我々は何も学ばなかったことを知らしめた。

 薄っぺらで無責任な評論家的言説が飛び交う我が国は、佐伯氏が指摘するとおり「けたたましいほどの百家争鳴がかえって事態を混沌とさせている」状態にあり、まさに「『文明論』が欠如している」といえる。

 戦後日本が驚嘆すべき復興を遂げた一方で、経済的な成功体験がいまだに足枷となり、責任と義務が欠如した民主主義信奉と相まって、日本人の行動規範は「損/得」と「快/不快」に卑小化されたように思う。

 我が国は大局的な価値基準を欠いたまま、いまや「異常気象」「パンデミック」「戦争」が文明を脅かす中で、エネルギー資源や食糧、日常品、はたまた国防までをも他律的に依存せざるを得ない状態にある。知性と思考を放棄した動物の如く振舞うしかない存在に凋落しているかのようである。

『日本の自殺』が発表された1975年の日本には、まだ「自殺」という最悪の事態を思いとどまらせる可能性があったのかもしれない。人間以外の動物は自殺をしないというが、今の日本は、ただ漫然と没落・衰退するのを待つしかないのであろうか。

(岐阜県 河本哲治)

あなたならできる

 ずしりと重い新年特大号、作家・林真理子さんの『私は日大をこう変える!』が興味深く、一気に読んだ。

 創立133年のマンモス大学の新理事長になった林さんの、大学改革に対する本気度が伝わってきた。

 日大ではアメフト部の不祥事に始まり、元理事長の脱税、トップに意見が言えない組織体制、保身に走る謝罪会見といった報道に唖然としたものだ。「これが母校の姿か」と、林さんも激しい怒りを覚えたという。林さんが日大の卒業生とは知らなかったが、多くの在校生や卒業生、関係者も同じ気持ちであろう。

 林さんは不祥事に接して、母校を変えたいという愛校心が芽生えたというが、最高責任者の理事長になるとまでは思っていなかったという。引き受けた林さんも立派だが、トップに素人の作家を指名した選考委員会も目の付け所がすごい。

 エッセイ集「ルンルンを買っておうちに帰ろう」でデビューした若い頃と今のお姿を見比べると、内面の輝きが現れた今の方が、実に良いお顔をされている。数多くの小説の執筆で、人間の深層を見つめ続けた賜物であろう。

 しがらみがない林さんなら、長年のうみを取り出し、日大へのマイナスイメージを変えられると思う。

「このオバサン、ちゃんとやるから安心してください」と職員に語り掛け、攻めの姿勢で日々取り組まれているようだ。

 やる気満々の「オバサン」、がんばって。あなたならできる。

(広島県 早川邦夫)

私の好きなことば

 国語辞典編纂者・飯間浩明さんの『日本語探偵』。新年特大号は「好きなことば」についてだった。

 私も長いこと教職にあり、その間、生徒から学校新聞や卒業文集などに載せるため「好きなことば」を求められることがしばしばあった。

 同僚の多くは「継続は力なり」とか、「ローマは一日にして成らず」などと、ありきたりのことばを寄せていた。私はそれに違和感を抱いていた。

 というのも、「継続は……」などというのは教訓的で、自分自身のためのことばというよりは、生徒に対してそうしてほしいという願望が見え隠れしていたからだ。「純粋にあなた自身の好きなことばは何ですか?」と問われれば、答えはちょっと違うのではないか。

 飯間さんは最後に「特定の好きなことばは決められない」と結んでいるが、私もそう思う。今の自分に合う「好きなことば」は、その時々で変わる。

 定年後は多くの人が「悠々自適」「晴耕雨読」を挙げるだろうが、私の場合、兼業農家だったので「悠々自適」とはいかない。その頃、私が愛唱したのが二宮尊徳翁の短歌だった。

「この秋は雨か嵐か知らねども今日の勤めの田草取るなり」

 秋には台風が来るかも、などと先のことを思い煩っても仕方ない。この歌のように、今日一日を精一杯農業に励もうという生き方を実践してきた。

 しかし体力の衰えは如何ともし難く、3年前、米作りをやめた。今の私の「好きなことば」は「天命を知る」だ。孔子は50歳をそう称したが、私はかなり遅すぎたようだ。

(大分県 安達郁雄)

大森監督の手腕に脱帽

 新年特大号の『蓋棺録』で大森一樹監督のお名前を見て、改めて大森監督を失った寂しさに、胸が痛むのを感じました。

 1980年の『ヒポクラテスたち』をきっかけに大森監督作品を好きになったという方が多いのでは、と推測していますが、私の場合は1986年の『恋する女たち』でした。斉藤由貴さん主演の青春映画で、原作は、氷室冴子さんの同名小説です。

 当時の私は、斉藤さんにも氷室さんにも興味を抱いていたので映画館へ足を運んだわけですが、斉藤さんの魅力を十二分に引き出した見事なアイドル映画で、大森監督の手腕に脱帽しました。

 翌年には『トットチャンネル』、『「さよなら」の女たち』と、大森監督は斉藤さんの主演映画を続けて手がけました。私は勝手に「斉藤由貴青春映画三部作」と名付けています。

 その後、私が大森作品と再会したのは、ゴジラ映画でした。『ゴジラvsビオランテ』(平成元年である1989年に公開)は、平成ゴジラシリーズの第1弾であり、ビオランテという怪獣のユニークさも含め、新たなゴジラ像の構築に成功した作品だったと思います。

 2年後の『ゴジラvsキングギドラ』も、ゴジラ誕生秘話が描かれたり、タイムトラベルが関わってきたり、ギドラの新解釈が驚きだったりと、エンターテイメント性が豊かで楽しめました。

 大森監督のご冥福を、心よりお祈り申し上げます。

(静岡県 高柳俊彦)

表紙絵に魅せられて

 雑誌への投稿は人生で初めてのことですが、決心して書くことにいたしました。

 12月号の村上裕二先生の表紙絵に、色彩の美しさと躍動感、何か浮き立つような夢をいただきました。

 2022年の2月号で、表紙絵が村上先生のものになっていたことに気が付いたのですが、先生の表紙絵に出会えたことは、未だコロナの収束が見えない中、本当に久しぶりに日常で感じることができた嬉しい出来事でした。

 実は私は、村上先生が日本美術院の同人になられるまでの約4年間、カルチャー教室で先生のご指導を受けていた生徒でした。もう30年近くも昔のことになるでしょうか。

 村上先生もまだとてもお若い頃でしたが、面白く、楽しかったあの頃の教室を今でも思い出します。

 ちなみに私は、現在も日本画を習い続けています。

(神奈川県 中込悠久栄)


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