Stephanie says, by Emiliana Torrini

免許合宿。
ウィーン大学院へ留学するために寝ても覚めてもドイツ語と仮免の勉強しかしていなかった僕は、友だちなんてできるはずもなかった。
C1というのは、ドイツ語の試験でも上から二番目に難しく、ネイティブレベルと言われており、当時の僕のレベルで合格するにはめちゃくちゃハードルが高かった。
それでも僕は、ウィーン大学院入学の条件であるその試験にパスするため、我武者羅になって勉強した。
僕をそこまで駆り立てたのは、やはりウィーン、引いてはオーストリアに『何か』があったのだろう。それが女の子だったのは間違いないが。
モーレツに勉強していた僕だが、流石に集中力が切れた時には近くの公園まで行って日光浴をした。
その時に聞いていたのが、この曲だ。『Jungle Drum』でハマっていたEmiliana Torriniの、全然雰囲気の違う歌。非常にリラックスできた。

しかし、そんな僕の心を揺さぶる事件が起きる。
オーストリアへ帰る便のチケットが無効になったのだ。
厳密には、格安航空券を発行した旅行会社が倒産してしまい、チケットも送られてこない。そういうことである。
それを母親から電話越しに聞いた僕は、自分の運の無さを恨みつつ、安らぎを求めるためにこの曲を聴いて空を見上げるのだった。
ちなみにこの後、被害者の会が裁判を起こしたが、返金は全くなかったか、雀の涙かだったか、だ。そう、二十歳過ぎの僕はまだ母親に頼りっぱなしだったのだ。

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