現場未経験の人間が突然MOGRAでVJをすることになった時にやったこと

本記事は
某鯖2 Advent Calendar 2021の12/12付の記事です

自己紹介と前書き

皆さんこんにちは。メジエド(M/EDJed)と申します。

ご存じの方も少なからずいらっしゃるのですが、ライブストリーミングの配信屋をやらせていただいてます。
ずっと辞め時を逃した結果、結構なキャリアになってしまってまして、皆さんも私のやった配信をご覧になったことがある可能性があります。

某チャンネルはそういった仕事とは無関係に見ていて、42か月ほどサブスクライブしているようです。長くなりましたね。
きっかけはスプラ2のまぬけクリップあたりだった気がします。

某チャンネルの一リスナーとしてだらだらを配信を見るだけだったはずなんですが、MU2020、及びその余波で何やかやあった結果、MOGRAのブースで初の現場VJを披露することになってしまいました。

これは
配信の一視聴者だったはずの人間が
突然MOGRAのブースで初めてのVJをすることになり、
どのようにしてどうにかVJしたのか
を書いてみたものです。

なんでオファー来たの?(という推測)

みなさん、MU2020見ました?
見てなかったらこれだけでも見てってください。

これ、いいですよね。

私もすごい楽しんだんですけど、
一方で配信屋としてやられたなと思いまして。

というのも、この配信で合成を使った演出が、
私の本業で活用している技術、
Mixer/Effect(M/E)を活用したものだったんですね。

Mixer/Effectとは、二つ以上の映像信号を合成する機能の一つでして、
皆さんご存じクロマキーもそれに含まれます。

私も映像業界の端っこにいる人間でしたが、
ここまで活用しきった演出は考えてこなかったんですよね。
そういう事情から強く価値観を揺さぶられましたし、
まじめにこの機能を使いこなして
別の形で面白いものをお見せしたいなという気持ちが強くありました。

そういった衝動で配信VJをやりつつ、DJをやるというVDJをやったのがこれ

このイベントで初めてメジエド(M/EDJed)と名乗ったわけですが、
その時に作ってみたのがこんな仕掛け

詳細は省きますが、
in the blue shirt live set では機能上できなかったであろう、
シルエットに合わせて別の映像を出力できるようになっています。

余談ですが、私の名乗っているメジエド(M/EDJed)とは、このようにM/Eを駆使しながらDJもやるというスタイルからM/E+DJという綴りをメジエド(Medjed)というエジプト神話の一柱の名前に寄せたものだったりします。

どうやらこれが割と好評だったようでして、
VJやってみないかというオファーをいただけたんじゃないかと
やってきた現場、全部全く違う現場なんですけどね

オファーがきたよ

そんなこんなで配信VDJはいい感じの評価をいただいてしばらくしたころ、
”11/15にMOGRAでVJをやらないか”
というオファーがDiscordのDMで届きました。

画像7

このイベントです。
一も二もなくお引き受けしました。

お引き受けしましたが、現場経験0、
もちろんVJとしての準備も不十分です。

意思決定が雑すぎたことは認めますが、
このアドベントカレンダーを読むような人なら、
このイベントに出られる価値は分かってもらえると思います。

このオファーから本番までの二か月程度、
VJとして立つための戦略と戦術を真剣に立てることになります。

オファーを受けた時点での戦略

色々と定義はあると思いますが、
ここで言う戦略とは"ゴールの状態目標"を指すことにします。

正しい目標を設定するには正しい現状の把握が大前提になります。
そこでまずは、現状正しかろうと思うことをとにかく並べます

1:映像用のスイッチャーはめちゃくちゃ使ったことがある、何なら普通のVJの人よりも経験があると言っていいレベル、のはず
2:VJ用のソフトはある程度操作方法がわかっているが、自分がイメージするVJをやるにはいくつかやれていない、もしくはイメージできてないことがある
3:AferEffectのような動画編集ソフトは簡単な編集なら可能
4:現場におけるセットアップやトンマナは全く分からないが、少なくともどのように繋げばいいかはおそらく理解ができるしだいたい自己解決できる
5:そもそもないと話にならない映像素材に関しては、通常VJがどこで映像を仕入れるのかは不明としても、ストックムービーや映像素材という定義であればそれなりに入手方法がわかっている

ざっと並べました。
ここから
・活用できるとアドバンテージになる可能性があること
・特にトレーニングや練習なく扱える可能性があるもの
・十分な仕込みや調査、練習を必要とするもの
に分類します。ついでに表現も必要に応じて整えます。

活用できるとアドバンテージになる可能性があること
1:映像用のスイッチャーの経験
4:現場機材の運用方法や、何なら機能を把握していることで、ぶっつけでも成功するであろう仕掛けを用意すること

特にトレーニングや練習なく扱える可能性があるもの
3:AEは簡単な編集なら可能
5:そもそもないと話にならない映像素材に関しては通常VJがどこで映像を仕入れるのかは不明としても、ストックムービーや映像素材という定義であればそれなりに入手方法がわかっている

十分な仕込みや調査、練習を必要とするもの
2:VJ用のソフトはある程度操作方法がわかっているが、自分がイメージするVJをやるにはいくつかやれていない、もしくはイメージできてないことがある

どうやら
VJとして要求されている(ないし自分がやりたい)映像の出し方と、
現状でやれる操作の範囲
にギャップがあるらしいことがわかってきます。

そして、VJ本体以外の機器操作や素材に関しては必要な水準に届いているか、もしくは何か仕掛ける程度の余裕が取れそうであることもわかります

そこで、

現状のスキルや素材を活用できて、
かつVJとして成立するような映像の出し方ができていること

を戦略として設定することにします。

余談ですが、最初直感的にハードルとして考えていたのは素材の数でした。事実簡単ではなかったものの、整理の結果素材収集はそこまでの課題にならず、VJのやり方をどうするかに準備時間のほとんどを使うことになります。

戦術に移る前に、VJって何なのかを決めておこう

とりあえずVJってなにができればいいかをざっと見てみます

DJがプレイする音楽に合わせてそれにマッチした映像・イメージを次々と切り替えていくお仕事です。映像を操って音楽や照明と即興でセッションする、という感覚ですかね。マッチする映像・イメージはDJによって千差万別ですし、音楽のジャンルもパーティによって全然違うので、本当に多種多様なVJさんがいらっしゃいます。

なるほど、マッチしてればいいのか、そうか

完全にリップシンクしてなくてもいいけど、
”雰囲気なり展開にはあってた方がよさそうだな”
くらいのことは私でもわかります。

何となくですがこの時点で、
自分がいつもやっている映像制作とVJとの違いが分かっていて、
かつVJ側にあるギャップを埋められれば勝算があるのでは、
と思っていました。

今回の戦術

ここでも俺定義で恐縮ですが今回における戦術とは、
戦略で定義された状態を達成できること、が期待できる手段とします。
迂遠な言い回しはご容赦ください。
直接達成できる手段とはしたくないため、このような形になっています。
自分の力量や実績を超えたパフォーマンスを保証すると狂うのでやめましょう。
私は今回やめました。

とはいえ手段そのものに関しては一考が必要です。

VJという役割は、個々人によって本当に千差万別なスタイルがあります。
特に私の使用するVDMX5というアプリケーションは使う人によって全く違う画面になります

どのくらい違うのかを見てみましょう。

画像5

画像6

画像7

全部同じソフトです。
インターフェースの雰囲気や大まかな機能は共通していますが、
詳細な機能やコンセプトはまるで違うものが並んでいます。

 VDMX5はモジュール型という形式で作られており、画面とPCスペックが許す限り無制限に機能とレイヤーを増やすことができるようになっています。

私の環境では
37のプラグイン(画像にあるようなウィンドウの個数)と、
22枚のレイヤーを使っています。

機能の数も自由、配置も自由、
こうした条件から考えながら一から環境を構築すると、
どうしても場当たり的な構築になり整合性を失ったりします。

みなさんも思い付きと手癖で組んだTCGのデッキとかは完成する前か完成した後に半分くらいバラすと思うんですけど、あれです。

今回私はそんな感じでじっくり練られる時間が残っていなかったこともあり、確実に使えるものを完成イメージから逆算で作る必要がありました。

そこでこれ

現状のスキルや素材を活用できて、
かつVJとして成立するような映像の出し方ができていること

という定義が活きてきます。
別に幾つもパターンをイメージする必要はないんですね。
現状の自分にとって最も適したスタイルを再現すればいいんです。

しかも適したスタイルというものも下記の通りありまして

映像用のスイッチャーはめちゃくちゃ使ったことがある

らしいです。使わない手はない。
かくしてやるべき戦術も決まりました。

他にどういうVJが居るか、どういった形式でやっているかは、
上記の参考とするために有効ですが、必須ではなくなりました。
調査や検証をショートカットできました。

そんなわけで手段としては

ビデオスイッチャーライクなUIをVDMX上で再現し、
ビデオスイッチャー使用時と同じ感覚で映像をスイッチし続ける

ということにしましょう。しました。

なお、補足にはなりますが、スイッチャーとして立ち回りとVJとの差異は、一旦スイッチャーライクな環境を立ち上げてからVJとして必要そうな機能を追加するという形で埋めることにしました。

具体的なUIの仕込みは流石に振り返り記事としても専門性が高いなと思ったので、おまけとして一番後ろに回しています。
ご興味があればどうぞ

動作確認としての練習会

ある程度方針は見えたものの、エントランスで少なくない費用を払ってお越しいただく以上、まさか現場でテストもしてないパフォーマンスをお見せするわけにも行きません。
家での練習は当然として、現場でどのように見えるのかを確認するなど検証の機会は多い方がいいし、最低でも一回はやりたいところでした。

そんな折にあったのがこれ

Music be Varietyは11/15(日)、
ぎりぎりでしたが一番本番に近い環境でテストができる日程です。
一も二もなく応募してこれ

最終的にこんな感じに

やってよかったことは大きく三つ

・全く違う現場としても、現場入りから撤収までの雰囲気はリハーサルとして体験できる
・実戦形式でDJのプレイに合わせた練習ができる(ミスった場合の立ち回りやジャンル移動など)
・他のVJのプレイを勉強できる

完全にたまたまでしたが、#VR_izeで活躍されている非暮さんやLAKUさんのプレイを見られたのは僥倖でした。
自分のスタイルはあるとしても、展開への合わせ方や素材の使い方は非常に参考になりました。

もっとも、参考になったとはいえこの後の本番まで2日しかありません。
ここからは必至で映像の追い込みや練習会での課題をVDMXに落とし込むことになります。

併せてやっていたこと

この回でVJさせてもらったKohehanさんは、VJのちくわぶさんと二人がかりでのVJを予定していました。
その際に一点問題が。

シャニ、音ゲーではないので曲に合わせてキャラが動くコンテンツないんですよね

(ちくわぶさんとの当時の相談DMから引っ張ったテキスト)

アルストロメリアの"Bloomy!"が流れる予定だったんですが、皆さんご存じの通りシャニマスは音ゲーではないし、特にキャラが動くようなタイプのPVとかがないんですね。

そこで作ってみた仕掛けがこれ

画像8

※便宜的にotovara主催のlogoVを使用しています。

これまでのgifと基本的には同じに見えますが、背景になってる私のデスクトップ画面は別系統のHDMIから入力されています。
つまり、このHDMIがちくわぶさんのVJ映像だとしても、私の方から任意に映像を乗っ取ることができます。

これを使って、ちくわぶさんがやっているVJを乗っ取る形で私が作った思い出アピールを出し、リップシンクする形で映像をお見せしたんですね。
現場機材を活用したVJの連携はそこまでやれるものではないと思うので、割といい仕掛けだったと思います。

内容が内容なのでその当時の配信を共有するにとどめます。
よろしければご覧下さいませ。
※2サビではSRの方で思い出アピールする程度の工夫をやっています
https://www.twitch.tv/videos/809365835?t=01h29m36s

最終的な画面

これは先日のMusic be Variety vol.5で使用した画面になりますが、大まかな構成は当時とそこまで変わっていません。
これだけ見ても意味が分かりにくいものになってしまってますが、これで何とか当日のVJはできるようになりました。

画像10

おわりに

いくらか本業がそれっぽいというズルも使いつつ、どうにか当日はVJの体裁を整えることができました。その後のMusic be Varietyでも呼んでいただけまして、何気に主催の吉田さんと僕だけが全部の回に出ているという状況になっております。

今後もいい感じにVJできればと思います。どうぞよろしくお願いします。


-----以下、VJ以外は見なくてもいいんじゃないかなというおまけ-----



おまけ:具体的にどんな仕込みをやったのか

ここからはVJさん向きの記事(とはいえやってる人にはもう知ってそうな内容)になります。

スイッチャーライクなUIをVDMX上で再現

するとは具体的にどんな仕掛けだったのかという内容です

おまけ1:4chスイッチャー(≠ミキサー)を作る

画像5

参照:https://proav.roland.com/jp/products/v-60hd/

これはローランドのちょっといいスイッチャーの写真です。
下段に二列、白いボタン(一部ランプがついている)が見えると思います。
これの下の段がプレビュー(OBSのスタジオモードだと左にあるやつ)
上の赤がついてる段がプログラム(OBSだとスタジオモードの右とかにあるCh)と呼ばれています。

右の方に持ちやすそうなバーがありますが、これをTバーと言います。
これを上から下、もしくは下から上に操作するのに合わせて、
プレビューとプログラムに割り当てた映像が切り替わり(スイッチし)ます
簡単にサクッとやりたい場合はTバーの隣にあるCUTボタンを押せば一瞬で切り替わりますし、AUTOボタンを押せば事前に設定したフレーム数とかで自動で切り替わります。

スイッチャーとはざっくり言えばこのプレビュー、プログラムをいい感じに操作して、適切な映像(主にカメラ映像)を送り続ける機械です。
また、映像制作においてはこれを操作する役割のことを指します。

これを再現します。
こんな感じ

画像5

重要なのは、スイッチャーで言うところの
・カット(二つの映像が混ざることなく切り替わる操作)
・フェード(二つの映像を混ぜながら切り替える操作)
の両方を好きなタイミングで好きなようにやれることでした。

基本プリセットなどにある4chミキサーと呼ばれるVJの場合、やり方にもよりますが基本的には全部をフェードで対応させなければならないんですね。

これを解決するために、VDMXのcontrol surfaceでボタンをグループ化しており、4chのうち一つだけが映像として有効になるように設定しています。
これにより、まずはカット機能が利用できるようになりました。

画像11

※ボタンの切り替えに連動して映像が混ざらずに切り替わっている

次はフェードですが、やり方はやや強引です。

上の4Chの切り替えはlayer1-4のうち、一つだけを100%にすることで作っています。
このlayer1-4(Group1)をそのままコピーしたlayer5-8(Group2)を作りGroup1とGroup2のミキサーを作ることで解決しています

画像12

画像一番下にあるのは1-4Chにセットする映像の候補です。
写真ではCh1の映像をセットするモード
(Layer1と書かれた薄緑背景の箇所で判断できる)になっており、キーボードのキーに合わせてCh1に映像がセットされます。

ここでちょっとだけ素材集めをする際に気を配った箇所があります。
それは画像でいう下段左、lv.1からlv.4と書いてある箇所です。
当該箇所(画像はlv.1)の映像を見るとこんな感じの映像がセットされています。

画像6

何となく左上から右、さらに下の段にいくにつれて白い面積が増えている印象は持ってもらえると思います。

これは映像の中での白の占有率や動きの激しさでソートされており、左上に近ければおとなしいめ、右下に行けば行くほど激しい動きと映像が出るようになっています。

さらにこれが4つのフォルダに分かれており、lv.4になるとかなり動きのある映像が入っています。
これを用意した目的は、曲の展開やジャンルの雰囲気に応じて任意のテンションをモノクロで表現できるようにするためです。

この24✖️4の96枚のモノクロ映像によって、任意のテンションや雰囲気の強さを映像で表現できるようになりました。

おまけ2:セミオートでVJする機能も付ける

このあたりで一つの課題がありました。

それは、スイッチャーと違い映像をデッキにセットしないと新しい素材が入ってきてくれないというものです。
映像用のスイッチャーは入力数こそ少ないですが、各チャンネルに入る映像は既に必要数が入っており、だいたいどれか一つ、正解になっているボタンがあります(トーク番組で言えば話している人とか)

今回の仕掛けだと

デッキ選択→映像選択→チャンネル選択

という手順が発生しており、デッキ選択と映像選択がひつようなぶん、
いつもよりも映像の送り出しに遅延する可能性がありました。

この手の遅さを補う手段が必要です。
そこで思いついたのがこれ

画像9

今回説明したいのは主に右側の列と一番下です。
一番下の映像選択がカチカチと切り替わっており、それに合わせて最上段右の映像が切り替わっているのがわかると思います。
これは映像すぐ下のプラグイン(ウィンドウ)にあるもので設定してまして、そこで指定された通りの番号に自動的に切り替わるようになっています。

映像の切り替えペースはBPMと連動するようになってまして、ある程度ランダムという問題はあるもののテンポに合わせてスイッチし続けてくれます。

これを利用して、

デッキ選択→映像選択→チャンネル選択

という手間の裏に

オートである程度合わせてくれる映像切り替え

を展開しておき、任意のタイミングで切り替え、ないし同時出しができるようになっています。

おまけ3:いざとなったらポン出しできるようにもしておく

これはバックアップに近いので画面でわかるものがないんですが、タイミングに合わせて出力する(ポン出し)用の映像は更に別のところでセットできるようになっています。上記のBloomy!の時に使った映像もこちらにセットして出せるようになっていました。





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