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「おれの隣にいればいいよ」の話

つい最近、4億年ぶりくらいに男に口説かれた。

この秋から働き始めた職場で会ったひと回り年上の男性だ。昼食を一緒した際にいつものタイコモチ性を発揮して話をうんうん聞いてペラペラしゃべっていたら、いつのまにか気に入られていた。一生の不覚。

それでそこそこ熱心に口説かれたわけだけど、その際のやりとりにしみじみと気持ち悪さを感じたので、色々と書いてみようと思う。

「きみ面白いから、付き合うようになったら友達に紹介したいんだよね」
「いやいや、そのお友達と話が合うかも分かりませんし、そもそもお付き合いしませんって(笑)」
「大丈夫。おれの隣に座ってニコニコしてたらいいよ」

何がどう大丈夫なんじゃい。

いやあ、このやりとりマジでびっくりした。今年はコロナの流行含めびっくりすることがたくさんあった年だけど、下半期のびっくりランキング5位には食い込んできたね。

面白いから友達に紹介すると言いつつ、その友達とのコミュニケーションの必要はなく、自分の隣でただニコニコしていてほしい、と。なんのためにその友達とやらにわたしを紹介するつもりなんだろう? あれか? わたしが笑ってるだけでM-1優勝しちゃうレベルに面白い顔面してるとかそういう話?

でも、こういうセリフって恋愛漫画とかだと頻出するよね。しかもわりと肯定的な文脈で。いやあ、リアルでは無理です。

この男性はその友達も含めてそこそこな金持ちで、新しいクルマを買うたびに友達と見せびらかしあっているそうだ。どっちのベンツがハイクラスだのどっちのクラウンがでかいだの、そういう競い合いをして楽しんでいるらしい。わたしはクルマに詳しくないのでよう分からん。経済回しててすごいっすね…くらいしか感想もない。この「趣味:高ぇクルマ見せあいっこ」が前置きにあった上での上記のやりとりなので、普通に困惑しまくった。

わたしも、こっちの友達とあっちの友達がノリが合いそうだからということで、引き合わせて新たに友達にしてしまうというのをすることがある。バンギャやオタクをしてると大体そういう形で知り合いや友達が増えていく。引き合わせた友達同士が実際仲良くなれるかどうかは本人達がコミュニケーションをとってみるまで分からない。実際に仲良くなれなかったひともいた。そして特に交友関係を拡大したくないから紹介されたくないと考えるひともいる。全然かまわない。全部個人の自由であり、わたしはできるだけ不快な事態が起きないように友人達に配慮する。そこで友人達の意見をぶっちぎって「大丈夫、わたしの隣でニコニコしてれば仲良くなれるよ」なんて言ったとしたら、そいつはかなり失礼というか、意味不明だ。

件のセリフは、「きみ面白いから、付き合うようになったら友達に見せびらかしたいんだよね(きみの意志決定は特に必要としていない)」ということだ。だから、友達と能動的にコミュニケーションをとる必要なんてない、「おれの隣に座ってニコニコしてたらいい」わけである。

これってあれだ!! モノ扱いってやつだ!! と気がついたのは家に帰りついてからだった。ちきしょー! その場で気がついてたらデスヴォで「はぁ"???」くらいは言ってやったのに!!!

ていうか、今でもちょっと不安なんだけど、こんな失礼なことをイイ大人がするもんか? 夜の店で働いてた頃はめっちゃ言われてたけど、普通に仕事で知り合ったばかりの他人ぞ??? もしやとんだ皮肉を利かせたジョークだったりしたんだろうか? あれ? 実はツッコむとこだった? 「わいはクルマかいなwwwたしかにどこにも納車されたことない新車ですよwww37年モノの型落ちですけどwww」とか言ったほうがよかった感じ?

天地がひっくり返っても付き合いたくないが、その友達に紹介されるフェーズだけ実際に体験して確認してみたい気が…いや、やめよう、好奇心は猫をも殺す。

しかし不思議だ。

わたしも20代の頃は多少なりとも恋人が欲しいそのうち結婚したいと考えていたが、30代も半ばを過ぎて、とんとそういう願望が消失した。ぶっちゃけ、なんであんなに恋人が欲しかったのか今ではもうよく思い出せない。唯一思い出せるのは、彼氏がいない時の焦りだけだ。

当時は誰かのモノになりたかった。男に望まれ、所有される女。女として存在意義のある自分。彼氏がいない、男から必要とされていないことの虚しさが嫌だった。だから焦っていた。誰のモノでもない“野良の女”である自分がなんとなく気恥ずかしかったのだ。

それって「恋愛や結婚するのが当たり前」という社会の価値観を、お腹いっぱい内面化していたことの証拠だ。男に所有されてはじめて価値があるって発想は、イコール女単体では人間として出来損ないってことだ。男だってそうだ。女を所有してはじめて一人前って発想は確実に存在している。●●歳で童貞は悲惨とか、妻子を養えるようになってはじめて一人前とか。

わたしという人間そのものではなく、カノジョという新しいオモチャを友達に見せびらかしてドヤりたい欲が透けて見える「おれの隣に座ってニコニコしてたらいいよ」という男のセリフに、誰かのモノになりたくて焦っていた頃のわたしなら結構キュンッとしたかもしれない。今はイラッでしかないが。

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