あちらとこちら、夢のまた夢 #月刊撚り糸
僕から見て、彼女はいつも『あちらに行ってしまいそう』な人だった。あちらってどこかだなんて訊かれても答えられない。とにかく、ここじゃない、もう二度と会えない、そんなところだ。
はじめて彼女に会ったのは、僕が新卒で入った会社を燃え尽き症候群で辞めたばかりのころだった。もうなにもやる気がしなくて、なにもできる気がしなくて、残業のおかげで貯まる一方だったお金を頼りにひたすらぶらぶらしていた。食べることにだけはやる気を見出せたから、その日も僕はずっと気になっていたお店に出向いた。