マガジンのカバー画像

【ものがたり】ショートショート

60
短い物語を。温かく見守ってください。修行中です。
運営しているクリエイター

2021年9月の記事一覧

世界|ショートショート

<和那の場合>   息の詰まったような感覚があって、和那はくいと顎をあげた。昨夜の行いやそれより前の会社での会話を思い出して、肺がいっぱいになる。  自分の中に、他人がたくさんいるのが苦しい、と思う。  それは彼の言葉や行いであるし、職場の先輩の態度や話であるし、友人から定期的にくる現状報告の連絡であるし、そういう他人の持つ気配のことだ。  普段は——、そう、普段は特別なにも思ったりはしない。淡々と、それなりに面白がって楽しみつつ、日常を超えていく。  ただ、どうしてもそ

隣の異世界#ショートショート #月刊撚り糸

 異世界、という言葉がある。自分が今住んでいるこの世界とは別の世界のことだ。最近は、異世界転生、なんてのも流行っている。そういうことを、城戸小鳥遊(きどたかなし)は一般常識として知ってはいた。けれどもその異世界とやらがこんな近くに存在していることは、知らなかった。 **** 「キャベツをトマトで煮込むの? え、なにそれ、なにができるの」  藍田景子(あいだけいこ)の言葉に、小鳥遊は目を剥いた。景子の顔をまじまじと見つめるが、彼女の顔に冗談やからかいは見当たらない。あくま