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広州でお困りのこと

《 ライチ局長の勝手にチャイナ Vol.2》


「広州の生活で何か困ったことがありますか?」

ときれいな日本語で質問を受けた。

渡されたカードには「電話をおかけください」と書いてある。

これは広州市政府が提供している、広州市で生活する外国人に向けた多言語公共サービスだ。

英語、日本語、韓国語のサービスを提供している。

あるイベントで、その日本語の担当者と知り合ったのだった。

少し前まで自分たちの生活に精一杯だったような中国が、こんな風に在住外国人に気を配れる余裕まで出てきたことに、思わず驚いてしまう。

ただ、その後、広州で何か困ったことがあるかを考え込んで、返事に困ってしまった。

今、外国人が中国で暮らす上で、困ることと言えば、間違いなくネット事情だろう。

中国では、Googleも、Facebookも、YouTubeも、LINEも、Twitterも、とにかく日本で普段利用しているようなサービスがほぼ利用できない。

これはネット上に存在する大きな国境で、この不便な体験は、中国に来ないとなかなか体験できない。

しかし一方で、中国系のオンラインサービスは、使いこなすと非常に便利だ。

オンラインで、買い物(日用品、生活用品、食品含む)、タクシー配車、デリバリー、シェアサイクル、映画の予約、病院の予約、ホテル予約に、お手伝いさんの手配まで、とにかくあらゆることがスマホで完結される。

実は、こういうサービスの恩恵を受けているのが、我々中国に住む外国人だと思っている。

かつて、中国のサービス業は本当にひどかった。

笑顔がなかったり、釣銭を投げてよこしたり、接客そっちのけで店の商品で遊んでいたり…。

つたない中国語で恐る恐る話しかけると、「あぁ?」と露骨に怪訝そうな顔をされていた。

他人にあからさまに嫌な顔をされる体験は、日本では意外となかなか味わえない。

特に電話で何かしようとすると最悪で、モゴモゴと意味不明の中国語を話す外国人に対し、電話口の中国人は容赦無く畳み掛けてくる。

これも結構トラウマ級の体験である。

お店の予約をしようとすると、自分の名前を言う必要があるが、日本人の苗字は、中国ではなかなか分かってもらえない。

「は?」「は?」と何度も聞かれ、「なんだ外国人か…」と悪態をつかれた上、店に着くと名前が間違っていたりした。

なんだか、とても悔しい気持ちになったものだ。

あちこち旅行に行くのも楽しみの一つだが、旅先で目的地の駅に着くと、タクシーとホテルの客引きが群がってくるので、まずはそこで価格交渉からしなければならない。

大勢の中国人に囲まれ次々に早口の中国語で捲し立てられる。

外国人だと分かると値段をふっかけられるが、結局バレて、ふっかけられる。

旅行は楽しい思い出がたくさんできるが、大体、それと同じくらいの苦い思い出もした。

その度に、拳を固めて中国語の勉強に勤しんだものだった。


「広州の生活で何か困ったことがあったら…」

と、聞かれて、一瞬、そんな昔の中国のことが頭をよぎって、動きが止まってしまった。

オンラインサービスでは、基礎的な中国語がわかれば、すぐに慣れて使えるようになる。

元々、日本人は中国語を読むのは得意なのだ。

例え全く中国語を学んでいなくても、なんとなくは分かるだろう。

住所とか名前とか、そういう情報以外に入力する項目もほとんどない。

ましては、電話をかけてオペレーターとやり合うような事態には滅多にならない。

便利だ…。


それ以来、何か困ったことがないかずっと考え続けている。

外国人としての鋭い意見を広州市に対してビシッと言ってやりたいが、正直見つからない。

便利になっていくことを発展というのなら、中国は本当に発展したのだ。

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