M14.人間不信

M14.人間不信

前回に引き続き、志磨遼平のバンドによる曲を取り上げようと思います。
時系列としては、M13で触れたドレスコーズ よりも以前の2008年、毛皮のマリーズの中期の曲です。

『人間不信』の入ったアルバム『Gloomy』は志磨さんがどん底の時に作ったアルバムです。一つ前の記事で、「毛皮のマリーズは演じるバンドだ」という趣旨のことを書きましたが、かと言って個人的なものが入っていないわけではありません。寧ろ、特色とも言えますが、志磨さんの作品は多くが私小説とも言えるくらいに個人的な世界が乗っかっています。
『Gloomy』は特にその要素が強いかもしれません。
なんとなくですが、今回はアルバム全曲に触れたいと思います。それなりに長くなると思うので斜め読みでも十分です。

以下、13曲への私の気持ちです。


1.チャーチにて
本当に教会で独白しているかのような歌です。元々は、バンド編成で録っていたそうですが、ラップ音など怪現象に見舞われた末にお蔵入り(別にラップ音がお蔵入りの理由ではないと思いますが)。私が遺言を残すなら、この曲を遺言として残したい(と思う日もあります)。志磨さんの今際の際からこのアルバムは始まります。

2.人間不信
私の人生の暗黒期、高校生活の2/3は毎朝聴きながら学校に行っていました。我ながら「どんな高校生だよ」と思います。
終始、神様への罵詈雑言が続きます。1曲目が教会での独白なのに。のたうち回っている志磨さんそのもので、そこに自分を重ねていました。
音楽的にもとても面白く、オマージュ(ものすごく角の立つ言い方をすれば、パクリ)だらけです。オープニングはThe Rolling Stones『Paint it,black』、イントロの歌はThe Beatles『Birthday』、途中のベルもThe Beatles………罵詈雑言を歌っているくせして音楽自体はとても楽しいです。嫌なことがあると大声で歌いたくなりますが、カラオケには入っていません。(多分歌詞があまりに非道徳的過ぎるため)

3.愛する or die
これも神様を罵倒する曲です。ちなみにこの曲をリリースした翌日、志磨さんは腰の骨を折っています。(ご本人曰く「罰はきちんと受けました」。)
志磨さんが当時の恋人との生活の中で音楽を作れなくなったことをきっかけに、この音楽含めた数曲が生まれることになります。
志磨さん曰く、「音楽必要ないな」と思ったそうです。「君への愛を歌にしたのでライブハウスで歌ってくるわ!」という活動、意味わかんないじゃん、となったそうです。
今目の前にいる恋人に向けていくらでも愛の言葉を捧げればいいのに、回りくどくラブソングを書く必要ないじゃないか、と。ツアーに行くのも、彼女から離れることになるし行く必要ないじゃん、と。
この経験から彼は音楽が作れなくなります。
1年くらい。
バンドしかしたことのなかった志磨さんが、です。
「もう、これは愛するか死ぬかというところまで来たな」と思った志磨さんが一念発起して作ったのがこの『愛する or die』です。もう一つこの曲と一緒のタイミングで作った曲があまりに素晴らしいので気になったら直接聞いてください。

4.Honney Apple
これまたThe Beatlesのルーフトップコンサート風です。(Beatlesが屋上でゲリラ的に演奏したことがあるんです。最近IMAXで映画も公開されていました。)しかし、実のところ、歌っているのは「iPod便利」というだけだったりします。(つまり、AppleはApple社のこと。)変に凝ったことをしていない分、キーボードとギターの絡み合いがとても好きです。

5.ザ・フール
ディキシーランドジャズ風の曲です。ぶっちゃけディキシーランドジャズの定義がいまいちわかってないのですが、多分こういうのをディキシーランドジャズと言うんです。志磨さん本人が言ってたし。
終盤のコーラスの掛け合いが美しく、徐々にカオティックになるのが良いです。多分このコーラスは毛皮のマリーズベーシスト栗本ヒロコさんの声を重ねていますが、後々ドレスコーズ のライブでこの曲を演奏した際に人力でコーラスを重ねていたのがとても記憶に残っています。(生では観てないんですけど)
興味があったらYouTubeで「ドレスコーズ  Don't Trust Ryohei Shima Tour」と検索して34分50秒あたりから見てみてください(件のコーラスは38:25頃)

6.人生II
割と名曲と名高いのですが、意外と私はピンと来ていません。とても好きなアルバムですが、これはあんまり聴いていないような。私が今まで関わってきた「先生」という立場の人が比較的好きな人が多いからかも知れません。あなたが聴いたらどう思うのでしょう。
途中で入るブルースハープ(穴の少ないハーモニカ)はとても好みです。私が唯一持ってる楽器ことブルースハープ、全く吹けません。

7.God Only Heavy Metal
The Beatles『Helter Skelter』風。この曲は「人間なめんな!!」という感じがして好きです。この曲あたりから、地獄からの復活の兆しが見えてくるような、寧ろ地獄に居残ったような。

8.超観念生命体私
かなり歌い方を崩しているのでアレなのですが、歌詞がとても好きです。

9.小鳥と私
哲学的な歌詞の曲に続くこの曲の歌詞は語感のみで出来ています。鼻歌をそのまま言葉にしたような。
この曲もこの曲でThe Beatlesリスペクトの曲です。
音楽を作れなくなった志磨さんは彼にとって大きな存在であるThe Beatlesを模倣することでリハビリをしました。これが、このアルバム、この曲です。

10.恋をこえろ
『愛する or die』で書いた「ラブソング書く必要ないじゃん」の気持ちで作られたのがこの曲です。「ラブソング、作ってんじゃん笑」と思わなくもないですが、大好きな曲です。「ラブソングでは間に合わない!!」と歌う逆説的ラブソングです。言葉の持つ速度(早口とかの物理的なスピードではなく伝える・伝わる速さ)と熱量をありったけ込めたのがこの曲です。曲そのもの自体は「早くてうるさい曲がないとがっかりする人いるかも」とレコーディングの終盤にサラッと書いてサラッと録音した、あんまり思い入れのないものだそうです。良いこと歌ってるのに。

11.平和
『恋をこえろ』は志磨さんによって「モスト・ストロング・オブ・ザ・ラブソン」と銘打たれているのですが、私は『平和』の方が最強のラブソングだと思っていたりします。
人を好きになる思い、ってまさにこうだと思うんです。(多くを語ると気持ち悪さが露呈しますが。共感しきりです)
この曲の詩はとても難産で、レコーディングの初めの方にサビはできていたのに、難航し、結局レコーディングの1番最後に出来上がったのがこの曲です。志磨さんは歌のレコーディング中泣きそうになり、逡巡の結果その時の歌をCDに入れたそうです。演者がセンチメントになり過ぎることを私は基本的には嫌うのですが、こればっかりは一緒になって泣きそうになってしまいます。

12.The Heart Of Dixie
アラバマ、関係ないそうです。なんとなく鼻歌で歌っていたもの(鼻唄時点では、ナラババ〜♪、だったらしい)を言葉にしたらアラバマになっただけ。アルバムの幕引きに相応しく賑やかな曲です。実際にはプラス一曲で終わるわけですが、次の曲はややエピローグのような印象です。もしくは次作のプロローグかしら。

13.悪魔も憐れむ歌
さて、最後の曲です。タイトルはThe Rolling Stones 『Sympathy For The Devil』の邦題『悪魔を憐れむ歌』が元です。1曲目の『チャーチにて』よろしく、独白のように締めくくられます。
音楽を作ることができなくなり、生きるか死ぬかというところまで追い込まれた志磨さんを救ったのは、結局のところ音楽でした。その音楽に対する愛憎がまるまる収まっているのがこの曲です。
途中に入る口笛はTHE ピーズというバンドのフロントマンであるはるさんが吹いてます。1人で気持ちが落ちている時、私はこの口笛を吹きます。


以上、私の『Gloomy』紹介でした。

それでは、また。あなたを愛しています。

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