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M13.メロディ

ドレスコーズ4人体制、最後のCD『Hippies E.P.』より『メロディ』です。
あまりに思い出に溢れているこのCDから、何を選ぼうか悩みましたが『メロディ』にしました。理由は単純に「1番最初に聴き込んだ曲だから」です。

ドレスコーズというバンドはロックバンド毛皮のマリーズのフロントマンとして活躍した志磨遼平が、マリーズを解散させた2011年の翌年2012年の始めに組みました。
毛皮のマリーズは解散までコンセプトに則ったバンドでした。「今、解散したら絶対かっこいいよ!」とピークで解散をしました。アルバムごとにがちがちにコンセプトが決まっており、最初から最後まで『毛皮のマリーズ』を演じ切ることに尽力したバンドです。
そもそも『毛皮のマリー』とは寺山修司の戯曲です。その名を冠したバンドが演じるような活動をしているのですから、名は体を表すというのは本当かもしれません。

毛皮のマリーズは、言ってしまえば、志磨さんのワンマンバンドです。和歌山生まれの彼が地元の友達と組み、やりたいことをやったのが毛皮のマリーズです。4人組バンドですが、圧倒的に志磨さんにイニシアチブがあります。(例えば後期のアルバム『ティン・パン・アレイ』や『THE END』の多くにはバンドメンバーが参加していない曲すらあります)
それに対してドレスコーズは対等です。同じく4人組ですが、パワーバランスは1:1:1:1です。詩を書く時にも「バンド4人の言葉にしなきゃいけない」ということが彼をとても悩ませました。
例えば、「僕は『愛』についてこう思うんだ!」となっても他の3人が「そうは思わない」となれば、その言葉やそれに基づく思想は避けたそうです。志磨さんはバンドメンバーの言葉の唯一重なっている部分、最大公約数的な所から言葉を紡いでいました。
(その割には4人で作った1stアルバム、2ndアルバムは難解な言葉を多く含むのが面白い所です。どんな最大公約数だよ、と思います。)

2014年夏。
そんなドレスコーズからフロントマンの志磨さんを残して、ギタードラムベースの3人が脱退することになります。メンバーが1人しかいないバンドは、バンドと呼べるのか、という問題は一旦置いておきますが、ドレスコーズは志磨さん1人での活動になります。
そうなる直前、最後に作ったのが5曲入りのE.P.である今作です。もとはと言えば、アルバムになる予定でしたが、バンドの継続が難しくなったため、E.P.となりました。ちなみにE.P.はざっくり言えばシングル以上アルバム未満の曲数の形式で作られた作品のことを言います。シングルと言っても1曲入りのこともあれば、4曲入りのこともありますし、アルバムに至っては曲数に制限はありません。

私が、ドレスコーズを知ったのは、『Hippies E.P.』の1作品前、2ndアルバム『バンド・デシネ』のインタビュー記事でした。私が初めて好きになったバンドのフロントマンと、志磨さんが対談していたのです。好きなバンドマンの好きなものは好きにならなければいけないと感じていたので、「これは聴かねば」と思ったわけです。
インターネットに転がってるインタビューの類は毛皮のマリーズ時代を含めて大体読み尽くして、待ちに待った新作リリースです。それと同時に体制が大きく変わるだなんて、大きな衝撃でした。衝撃を多くしたのは、新作リリースにあたってのインタビューで志磨さんはバンドの解散や脱退について大きく触れていたことです。
例えば『メロディ』には初めて外部のミュージシャンが大胆に起用されています。口ロロというラップグループの三浦康嗣さんという方がラップで参加して、志磨さんと2人でラップをしているのですが、これに対して志磨さんはこう言っています。

「これは大前提として言いますが、突然外部のミュージシャンが作品の制作に関わるようになったバンドというのは、健康な状態ではないんです。これは絶対に。歴史的に見ても、そういうことが起こるときというのは、だいたいバンドがヤバいときなんですよ。それでも、どうしてそんな決断をしたかというと、僕らが短期間での変化を必要としていたからです。自分たちだけで何か新しいものに取り組み、それが血となり肉となり、1つの素晴らしい作品として昇華するには、どうしたって長い時間がかかるんです。でも、僕らにはそんな時間はなかった。」 
出典 https://natalie.mu/music/pp/dresscodes05

これだけしっかりとした吐露をされると、読み手・聞き手としては「と、いうことはバンドの危機は一回脱したんだな」と思うのが普通です。まさか現在もその渦中、なんなら既に終わりを迎えていて、リリースと共にバンドが崩壊だなんて思いもしません。
いくらインタビューと言えど、こんなにドキュメンタリー的な会話だとは思わずに読んでいました。


と、それなりに聴く側にとってもドラマチックな出会い方であった『Hippies E.P.』。

中身は恐ろしいくらいに美しいダンスミュージックが詰まっていました。

聴けば勝手に体が動くような、体の芯に訴えかけるリズムであるのに、鳴っているギターがあまりに冷めていたり、含んでいる空気のようなものがあまりに歪でした。もし仮に、バンドメンバー脱退の事実を知らずに聴いたとしても何かの「終わり」を感じずにはいられないCDだったと思います。

後々は1曲目の『ヒッピーズ』を最も愛聴し、次いで3曲目の『Ghost』を聴くことになる……… というより5曲通しで何度も何度も聴くことになるのですが、最初に繰り返し聴いたのは4曲目、今回取り上げた『メロディ』です。ダブルMCのラップの曲です。
この曲には逃げきれないくらいの「死」の匂いがします。希死念慮的な意味での「死」ではありません。
また、「記憶」についても強く言及された作品です。音楽というさまざまな記憶媒体(レコードとか、MDとか、CDとか)で保存されている芸術ととても相性が良いと思います。どうか手元にある歌詞カードを読んでみてください。
「死」と「記憶」についての4分43秒はとても悲しくも聴こえますが、同時に美しさを持っています。
有名なシェイクスピアの言葉「雪が溶けてしまったらあの白はどこへ消えてしまうの?」という言葉も引用されています。この言葉は大体「肉体が消えたら魂はどこへゆくのか」というような意味合いを重ねて読まれることが多いです。
ちなみに私自身はこの解釈は説教臭くてあまり好きではありません。詩的な言葉への蛇足だと思っています。
ちなみにちなみにこの言葉はシェイクスピアのものとされていますが、その証拠はどこにもないそうです。「シェイクスピアがこう言ってたよ」という伝聞の古い文章が残っているだけなんです。ただし、その文章自体かなりの歴史ものなのでもはや言葉のパワーとしては本人が言っていようが、言っていまいがもはや関係ないような気もします。真偽のほどはわかりませんが、私は好きな言葉です。

最後に、1人きりのバンドがバンドと言えるのか、という問題は序盤で一旦置いておきましたが、現在のドレスコーズ は作品ごとライブごとにメンバーを集めています。ドレスコーズ はメンバーの出入りがとても多い大所帯バンドとして、あくまでバンドとして、今も活動を続けています。

最近、“Quand fond la neige où va le blanc”(仏語で、「雪が溶けるとき白さは 何処へ行くのだろう」)と刻まれたリングがぺちゃんこになり、いい加減リペアに出さなければと思っている私です。


それでは、また。あなたを愛しています。

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