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病歴⑫:鼻血と動悸

とにかく、鼻血には悩まされてきた。
鼻をかめば鼻血が出る。
顔を洗えば鼻血が出る。
寝ているだけで鼻血が出る。
もう、どうしろと?と言いたくなるぐらい、出血する。
人前でマスクを外している時にたらりと鼻血が出てきて焦ることもあるし、マスクの中で鼻血が出てきて困ることもある。
世の中にCovid-19がはやる前、抗がん剤治療が始まってすぐに、治療期間中に使うつもりでマスクを購入したのだが、白だけじゃつまらないと思ってピンクも選んだのは、意外と正解だったと思っている。

抗がん剤は、細胞の増殖が盛んなところに作用し、増殖を抑制する。
それが、第一にがん細胞であり、第二に毛根であり、第三に骨髄である。
骨髄の活動が抑制されることで、赤血球や血小板が減少する。貧血を起こしたり、ケガをした時の血の止まりが悪くなるということだ。
白血球が減少すると、免疫が弱くなる。だから、インフルエンザや風邪に十分に気をつけること、なまものなど食中毒を起こしそうな食べ物は避けることを注意された。
抗がん剤治療が始まってから、お寿司もお刺身も食べていない。生牡蠣を避けるぐらいでいいのかもしれないが、念のためということで全般的になまものは避けている。
お寿司は、抗がん剤治療が終わって身体の調子が回復したら、食べに行きたいもののひとつだ。

もともと、私は花粉症がひどくて、鼻づまりになりやすい。
入院中にアレルギーの薬を服まずにいたら、鼻づまりがして、ついつい、鼻をいじってしまったのだと思う。
だから、抗がん剤治療が始まったときには傷が多少はついていたのだろう。
抗がん剤治療で出血しやすくなったというよりは、出血が止まりにくくなったというほうが正解か。
ともかく、抗がん剤治療が始まってすぐから、鼻血には悩まされた。

年明けてから、行きつけの耳鼻科にようやく受診することができた。
例年、1月の中旬から服薬を手厚くしないと、花粉症がひどいことになるのもあり、婦人科の主治医に耳鼻科受診したいことを話すと、診療情報提供書をささっと用意してくれた。
もう10年以上もお世話になっている耳鼻科の医師は、いつも淡々とした応対の先生なのであるが、こういう時に丁寧で優しい。
診療情報提供書に同封された血液検査の結果を見ながら、15以上が正常範囲だが10ぐらいまでは問題ない、5以下になったら輸血が必要…と説明してくださったが、それは血小板数のことだったのかしら。
私の保健についての知識といえば、最近、『はたらく細胞!!』を読んで復習したばかりであり、その程度のレベルである。よって、基準値の単位までは憶えていない。
鼻の中に特にできものができているわけではないことを確認し、鼻血には塗り薬で対応することになった。

その後、しばらくは鼻血が軽くなったものであるが、しばらくすると、またひどくなった。
どうしても、傷口が固まりかけたところで、鼻をかんだりしてしまうから、傷をふさいでいた血の塊がべりっとはがれて、傷口が新しくなってしまう。
鼻の奥がつーんと、じーんと、痛くなるので、上から指で押さえてみたこともあった。
しかも、血が鼻の奥で固まると、かなり息苦しくなるので、鼻をかみたくなることの繰り返し。
血の匂いにも、薬の匂いにも、辟易する数か月だった。
しかも、鼻血は目で見えるから、血の色がだんだんと薄くなっていくことがわかり、興味深かった。

血の止まりにくさを感じるのは鼻血だけではなく、猫にたまたまひっかかれた傷が治りにくかったり、打ち身ができやすくなったことでも感じた。
子どもの頃から気づくと、知らないうちに打ち身を作っていることが多いのだが、それにしても多かった。
それに、採血や点滴の後も血が止まりにくくなり、きちんと押さえていないと500円玉より大きい青いあざになるようになった。
そうなってくると看護師さんたちも心得たもので、採血や点滴の後、傷跡をふさぐ絆創膏の上を伸縮性のあるバンドで結束してくれるようになった。
薄いピンクのゴムのバンドが、鞄の中に数本、溜まっていった。

それが、現在の第6クールに至って、やっと落ち着いた気がする。
血液検査の結果を見れば瞭然なのであるが、第5クールの3回目の治療から第6クールに入る前に、一週間、治療をお休みしたのだ。
最初に、抗がん剤治療のペースを決めるときに、クールごとに、3回の治療が終わると1週の休みを入れるパターンの提案があった。
私は休みなしで治療を受けてきたが、看護師さん達にもアドバイスを受けて、休ませてもらってみたところ、血小板は正常値に回復していた。
血小板だけではない。全体的に血液検査の結果は回復している。
道理で、鼻血も止まれば、もっと言えば、動悸も楽になるはずだ。

動悸や息苦しさというのも、本当に苦しくて苦しくて、今も苦しい症状のひとつだ。
安静にしていても、脈が90以上。すぐに100とか、120とか、それ以上になることもある。血圧はそれほどいつもと変わりないのだが、心臓が気になる日が続いている。
脈だけ感じていると、自分が常に小走りで生活しているような、落ち着かなさを感じる。
いつからひどくなったかといえば、やはり、第2クールに入った年末頃からだっただろうか。
その頃はまだ、なるべく毎日、散歩に行くようにしていた。手術後の体力低下を感じて、最初は1000歩からと歩数計や時計を見ながら、歩くようにしていた。
歩数が増えたり、速度が速いと、息切れがひどいと感じるようになった。
最初は単純に体力が落ちているんだろうと思ったし、まだ手術後だからと思っていた。
手術後のダメージなのか、それとも、抗がん剤でダメージを受けつつあるのか、よくわからないなぁと思ったものだ。

年明けになってから、それも、3クールか4クールになってからだったと思うが、毎回のように気になる症状として動悸を伝えた。
長時間、活動していると脈があがり、息苦しくなる。しゃべっているだけも、息が切れてくる。立ちっぱなしはそうでもないが、立ったり座ったり、頭の位置を動かすような作業をしていると、息が切れやすい。
家事を2-3時間も続けてしていると、長距離を走ってきたかのように、床に転がって息が整うのを待たなければいけないぐらい、息切れがする。
ぜーぜーと肩で息をして、おさまるのを待つしかない。息を吸っても吸っても苦しくて、酸素が足りないと感じてしまう。
脈が速くなり、左胸がぎゅうぎゅうと締め付けられて、痛い。胸を押さえても痛くて、かきむしりたくなる。
そういうことが毎日のようにある。

この動悸や息苦しさは貧血の影響ではないかということだったが、そこまで貧血がひどくないのにとも言われた。
薬剤が心臓に影響を与えることもあるというので、2回ほど、心電図や胸部レントゲンを撮ったが、そちらは異常なし。
となると、やっぱり体力の低下なのか。薬剤の蓄積や、疲労の蓄積なのか。
そういう時は安静にしてくださいと言われてからは、おとなしく安静にするようにして、散歩も中断した。
各クールの初回の点滴は、抗がん剤を2種類使う日であるけれども、その後は一週間まるまる寝たきりのように過ごすから、筋力も随分と落ちたと思う。
その一週間は、記憶もだいぶおぼろげだったりするし、しなければいけないことを忘れていることも多い。それでうっかり、緑内障の目薬をしわすれていたらしく、眼科で眼圧をはかったらひどいことになっていたこともあった。
そんな生活だったから、体力はだいぶと低下しているし、筋力も落ちているし、抗がん剤治療が終わったら、取り戻すのにも時間がいるだろうなぁということがわかる。
でも、少なくとも、血液の状態は、一週間休んだだけでも回復するのだ。
人間の身体は、回復する力を持っている。
そのことを感じて、治療も終わりにさしかかってきて、ちょっと感動したりしている。

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