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月なんかで愛は測れない

"月が綺麗ですね"





夏鈴:えっ?



深夜0時、満月の光が降り注ぐ



夏鈴:…何言ってるの?



ベランダの柵越しに月を眺めながら、チラリと夏鈴に目を向ける





夏鈴:…頭でも打った?



びっくりしたような、心配したような目を僕に向ける夏鈴



○○:…失礼だな、普通に月が綺麗だなって話をしただけだろ



夏鈴:だからって急に"月が綺麗ですね"って…



○○:ていうか夏鈴でも意味分かるんだ



夏鈴:…バカにしてる?



○○:…さぁ?



夏鈴:イラつく…



夏鈴:別に意味ぐらい分かるから



ムッとした様子で柵に背中を預けながら顔を背ける



○○:まぁまぁ、そんな怒んなって



夏鈴:…別に怒ってない



○○:どうだかねぇ…



夏鈴と同じような体制になり右手でタバコを、左手でライターを持ち火をつける





夏鈴:あれ?禁煙してるんじゃないの?



○○:3日でやめた



夏鈴:はぁ、ほんとバカ





○○:ところでさぁ、話戻るけど"月が綺麗ですね"の意味分かる?



夏鈴:分かるってば

 

○○:なんだと思う?



夏鈴:あなたの事が好きです、とかあなたの事を愛してます、



夏鈴:みたいな告白の表現のことでしょ



○○:おっ、さすが夏鈴



夏鈴:…またバカにして



○○:褒めてるよ、ちゃんと



夏鈴:…信じないから



さっきよりも少し頬に含まれる空気が大きくなる





夏鈴:…でも思うけど"月が綺麗ですね"って言葉を言われて告白だ、ってなる?



○○:う〜ん、それは昔の人の感性の話だからなぁ…



夏鈴:だって、月より太陽の方が良くない?



夏鈴:月は太陽と違って恒星じゃないから誰かからの光を貰わないと輝けないわけでしょ



夏鈴:なら"太陽が綺麗ですね"の方が良くない?



○○:確かに輝きってことで言うと太陽の方が良いけど…



○○:…太陽見て綺麗だと思う?



夏鈴:…思わない



○○:そういうことじゃない



夏鈴:ムゥ…勝てると思ったのに…



○○:残念だったね



膨れた夏鈴の頬を片手で挟みながら空気を抜いていく





夏鈴:…怒った



夏鈴:このタバコは没収ね



そういい僕の口にあるタバコを奪う夏鈴



○○:あっ!まだ吸い終わってないのに…





夏鈴:…返してほしい?



○○:返してほしいです



夏鈴:なら夏鈴ちゃんをバカにしたことを謝りなさい



○○:…バカにしてごめんなさい



夏鈴:ふふっ、仕方ないなら返してあげる



僕の頭を下げる姿が面白かったのか少し微笑みながらタバコを口に戻してくれる



僕はその口に戻った残り少ないタバコを味わいながら夏鈴を見つめ、





○○:…夏鈴のバーカ



なんて子供じみた言葉を一言



夏鈴:なんか言った?



小さい身長を大きく見せながら僕を詰め寄る夏鈴



○○:…なんにも



また取られないようにとタバコを抑えながら答える





夏鈴:…月っていいよね



しみじみとした表情で呟く夏鈴



○○:どうしたの?



夏鈴:なんかこうして月を見てたらなんとなく分かる気がしてさ



○○:何が?



夏鈴:…"月が綺麗ですね"って言葉の意味が





夏鈴:…月ってさぁ、恒星じゃないから一人では輝けないでしょ



夏鈴:だから太陽から光を借りて輝いている



夏鈴:なのにそんな月を見て綺麗だって言う…



夏鈴:それって僕の横で輝く君が1番綺麗だ、って言ってるのと同じで、



夏鈴:君は僕と入れば1番輝けるんだよ、っていうちょっと独占欲の入った言葉なわけじゃん



夏鈴:凄く愛が深くない?



○○:…確かにね



○○:僕という太陽の傍で輝く月みたいな君を独り占めしたい…



○○:愛が深いね



夏鈴:なんか昔の人の恋愛観に触れた気がする



○○:…今とは大違いだね



夏鈴:…確かに今の時代にこんなくさい告白したら笑われそうだね



○○:切ない時代の変化だ…



夏鈴:…別に○○が夏鈴に言ってくれてもいいんだよ



○○:絶対に夏鈴笑うから嫌





○○:ほら、肌寒くなってきたし戻るよ

 
いつの間にか消えていたタバコを灰皿に押し付けて部屋に戻る



夏鈴:…はーい



窓を閉め、カーテンも閉める



今宵の月の光はいつもより輝いていて、カーテン越しにも形が残る程だった…







翌朝、太陽の光で目が覚める



昨日の夜に差し込んだ光と似て非なる輝きが照らす





夏鈴:○○は………いないよね



横にいたはずの彼の姿を探しては朝の見慣れた光景化とする

 

夏鈴:よいしょ…



彼が着ていた大きめな服1枚に身を包み、ベランダにでる



激しい主張と共に照りつける太陽の横にポツンと佇む月の姿



今見ている月は昨日のような輝きはなく、朧気にそこにいた





夏鈴:"月が綺麗ですね"…か



夏鈴:…分かってるよ、○○がこの言葉を言ってくれないことぐらい



夏鈴:なのに…なんでかなぁ…



夏鈴:昨日話してたらちょっとだけ期待しちゃった…



夏鈴:…ほんとバカだよね



眩しすぎるぐらいの光から逃げるように部屋に戻り、カーテンを閉める



彼がいない部屋で一人、ソファに寝転ぶ



真っ白な天井に彼の姿が映る



夏鈴:バーカ…







"月が綺麗ですね"



私はあなたの事が好きです、あなたの事を愛してます



昔は告白の表現の一つとしてされていた



でも時代が移り変われば意味も変わってくる





 
"月が綺麗ですね"



夏鈴:あなたは月が見える時間だけしか会ってくれないし、誘ってくれない



夏鈴:でも私は、そんなあなたの事を愛しています



fin…

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