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私の名前は「お ちんちん」です
中国の大学で点呼の時、私は必ず日本語でする。
「日本語の名前」と言うと学生は喜ぶが、中国語の発音だと難しくてなかなか聴き取ってもらえなかったってのが事の始まり。
名前は漢音。
例えば「王」なら中国発音だと「ワン」だが、漢音日本語読みなら「おう」。「李」は「り」でどちらも同じ。
日本語読みにすると「ずいけん」とか寺の小坊主みたいな名前になる子がいたり、「しぶん」とか「うてい」とか女流作家みたいになる子もいて、なかなかバラエティに富んでておもしろい。
でもたまに、中国語読みでもいいんじゃないかなーって子もいたりする。
たとえば女の子で「力」って子。
中国の名前の不思議なところで、女の子でも「男」って名前の子もいたし、正直名前だけでは性別がわからない。
でも日本人にとって「力」ってなんとなく「長州力」とか「安岡力也」とかたくましいおっさんのイメージじゃん?
呉音で「りき」、漢音で「りょく」だけど、なんか中国発音の「りー」の方が可愛いし、本人もその方がいいっていうので、彼女の場合は「りき」にも「りょく」にもしなかった。
さてさて、そんな中国人の名前の中でも一番困ったのが「王珍珍」。
そのまま読むと「おうちんちん」。
中国人は長音が苦手なので「中国人」も「ちゅごくじん」になる。
つまり「王」も「お」になる。
というわけで、彼女の場合は、本人に発音させると、名前がそのまま陰茎を示す幼児語となってしまう。
初歩クラスの試験では必ず日本語で自己紹介をさせる。
つまり「わたしの名前はおちんちんです」と、年頃の可愛い娘さんに言わせてしまうことになる。
いやいやいやいや、まずいでしょ。
そんなわけで私は彼女に言った。
「あのさぁ、名前テンテンってどう? 可愛いと思うんだよね」
しかし美少女霊幻道士テンテンのことなど知りもしないこちらの美少女はこう言った。
「いいえ、先生、わたしはチンチンが可愛いと思います」
うぉおおい!!!
これ私がおっさん教師なら、美少女にそんなこと言われたら、可愛いどころじゃない擬態になってしまいますわ!
これはいかんと思いつつ、わたしはなおもねばる。
「じゃ、ティンティンってどう? この方が、先生は可愛いと思うなぁ」
「いいえ! わたしはチンチンが好きなんです!」
チーン……はい、負けました。
でも一応私は聞いたよ? 日本に留学予定はあるのかとか、日本で働きたいとか行きたいとか希望はあるのかと。
でも彼女はとくにそんな希望もないし、そもそもここは日本語専門のクラスでもない。これだけ本人が「ちんちん」連呼した後に、それは男の×××だよとか言えない……。中国の若者にはただでさえ下ネタは厳禁。「乳首」すらNGワード。ましてやこんな可愛いお嬢さんにショックを与えてはいけない!
こうして彼女は大学時代、男性の局部を異名としてもつことになった。
私は罪悪感とともに「自分の日本語の発音が可愛くて好きだ」と言った彼女の笑顔が忘れられない。
多くの学生がいて、名前を全部覚えているわけではないのだけれど、たぶん一生彼女の名前は忘れることはないだろう。
ありがとう、ちんちん。
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