音の記憶

初めて世界に触れた時
わたしは泣いていた
暗闇の揺籠から
白い光の中へと這い出てきた瞬を
刻むように
息を止めて
そして泣いていた

何を叫んでいたのか
ねえ 誰か憶えている?

記憶は忘れてしまうんじゃなくて
ただ思い出せないだけだとしたら
あの日の叫びも
身体のどこかにまだ刻まれて
わたしの裡に残っているのだろうか

ああ 実はね
思い出せない歌があるの

あたたかくて優しい腕に似た光に
抱かれながら
あのひとが歌ってくれた
大切な歌

耳の奥
密やかな旋律は
今でも欠片が谺している

光にふれた叫びを
光に包まれた歌を
夜の闇 象牙いろの舟で探す

波の揺らめきが喚びおこすは
あの歌なのでしょうか

月あかりを頼りに探す
ふたつの聲 どこまでも遠く
指先に触れても
花のように流離う

ああ どうか
この舟の行く手に
待っていてください
仕舞い込んだ糸を手繰って
逢いにゆくから

未来の答えは
きっとあの日に回帰する
答えを紡ぐのはわたしだから

思い出せるように紡ぐ歌
いつか 響きあえ


©2014  緋月 燈

AmijakanWatch様の2件のツイート
https://twitter.com/AmijakanWatch/status/545222954267590656
https://twitter.com/AmijakanWatch/status/545222383104032768
より。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?