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創作におけるAI利用について


注目を浴びる「生成AI」

現在、様々な分野でAIの活用が進んでいます。

わたしが「AI」と聞いて頭に思い浮かべるのは、ドラクエ4で(ドラクエシリーズとしては)初めて搭載された自動バトルシステムなんですが、今プレイしているドラクエ10の「サポート仲間」の挙動を含めて、実際の内容は、あらかじめ定められた手順に沿って動作する「シーケンス制御」であり、「機械学習」を伴う「AI」と、厳密には異なります。

そして、AIの中でも現在は「生成AI」が非常に注目されていて、そのテクノロジーを使った文章作成写真加工イラスト作成音楽作成、さらには手塚治虫先生新作生成AIを使って描いてしまうという、なんとなく手塚先生ご本人が聞いたら激怒しそうな企画までもが行われたりもしています。

従来は人間にしかできなかったはずの芸術や創作の分野を、コンピューターが行ってしまう。なんとも恐ろしい時代になったものだと思いますが、どちらかというと、これらの技術は社会からはもてはやされているようです。

わたしは、極論するなら「生成AIさえあれば創作する人間はいらない」と言わんばかりなまでの風潮には否定的ですが、生成AIという技術そのものは、純粋にすごいと思っています。ここまでのことができるAIなど、30年前であれば、完全にSFの世界でしたからね。

生成AIについては、それで作れるものが高度になればなるほど、ディープフェイクといった犯罪的な悪用を含めて、様々な問題も指摘されていますが、今回は、生成AIによるボーカルイラストに絞って書いてみます。

AIボーカルのすごさ

のっけから申し上げておきますと、もともとわたしは生歌派です。

劇場で、圧倒的な迫力のライブ歌唱を聴くことになるミュージカルを好きだという記事を書いているくらいなので、その点はおわかり頂けると思うのですが、そんなわたしも最近、AIボーカルの曲を聴く機会が増えて、あまりのクオリティの高さに驚かされています。

ちょっと実例を挙げてみましょう。AIボーカルをよくご存じの方には、今さらという話かもしれませんが、あまり知らない方であれば、きっと驚かれると思います。先日の記事で、ドラクエ10のフレンドさんが音楽活動をしているという話を書きましたが、彼女たちの作る楽曲の大半は、AIボーカルが歌っています(歌い手さんが歌唱している曲もあります)。

その中の1曲、Sound Cross の「サクラノキセツ」をお聴きください。
 作詞: Sephimint
 作曲: Utopian / Sephimint
 編曲: Utopian

この曲は女性ふたりによる歌唱なのですが、これはどちらの声もAIボーカルによるものです。ブレス(息継ぎ)まで入っているので、人が歌っていると言われれば信じてしまいそうなほど、リアルな歌声です。

かつて「初音ミク」を筆頭とするボーカロイド(ボカロ)が登場した頃は、ボカロが歌っている楽曲は、ものすごく上手に調整しているものであっても、それがボカロだとわかるものが多かったように思います。

Sound Cross などのライブ(ドラクエ10のゲーム内、楽曲は外部サイト「Twitch」で配信)に初めて行った際、いくつかの楽曲は、人の歌声なのか、ボカロやAIボーカルなのか、全く判別できませんでした

上の楽曲「サクラノキセツ」については、この記事を書く前に、Sound Cross のおふたりに直接質問して、どちらのパートもAIボーカルであることを改めて確認しています。

わたしは「生歌派」だと書きましたが、AIボーカルは、人間の歌声では実現できない表現など、従来にない様々な可能性を持つとも考えています。

人が歌う生の歌声は素晴らしいものですが、もちろん人間である以上、歌う日の体調やコンディションによって左右されます。その歌い手の平均的な歌声の良さを、仮に「100」と数値化して喩えるなら、調子が悪く「80」になることもありますし、逆に最高のコンディションであれば「120」になることもあり得るのです。

AIボーカルやボカロは、その設定を行う過程で様々な調整を行い、歌声の質を高めることが可能ですし、一度設定さえすれば、仮に曲のアレンジを変えて収録し直したとしても、同じ設定を使う限り何度でも全く同じ歌声で再生できます。コンディションに左右されないため、歌声の良さが低下することはありませんが、逆に設定したものより上がることもありません。

さらに、音楽の作り手=歌い手であるとは限りません。自作曲を作って世に出したいとき、必ずしもその曲に適した歌い手が身近にいるとも限らないわけです。自然な歌声を聞かせてくれるAIボーカルは、音楽制作者にとって心強い味方ともなるでしょう。

このように、音楽活動において様々な可能性をもつAIボーカルですが、これは正規のライセンスに基づき、AIの学習に使用された音声データを用いて作られ、提供されたソフトで歌声を生成する場合の話であって、声優さんなどの声を勝手に学習させて歌わせるとなると、話が違ってきます。

このあたりの法律的な解釈は、弁護士の福岡先生が書かれた以下の記事などをご参照頂ければと思います。

AIイラストとその問題点

ここ1~2年の間でしょうか。生成AIで手軽にイラストを描いたり、写真をイラスト化したりできるアプリやサイトが、続々と登場しました。

AIボーカルが「人間の声」を学習して、それに基づき歌声を生成していたように、AIイラストも、誰かが描いた絵を大量に取り込み、その筆致などを学習して、各サービスの利用者が、プロンプトなどで指定して求める条件に合致したイラストを自動生成するというものです。

多くのサービスは無料、あるいは安価で利用できるので、素材を購入したり、イラストレーターに依頼する費用を抑えられる上に、手軽にAIイラストを量産して販売するようなことも、やろうと思えばできてしまいます。

問題は、生成AIが学習するために取り込む「誰かが描いた絵」の多くは、その作者には無断で使用されているという点です。

一定のファンをもつような絵を描かれる方の多くは、持って生まれた才能もさることながら、長年の時間と、学校や画材その他、決して安くはない費用をかけ、努力を積み重ねて画力を磨いてきたわけで、その結果として絵を購入されたり、有償で依頼されたりする存在になっているわけです。

その方々が心血をそそいで描いたイラストを、勝手に学習され、似た画風のイラストを生成され、場合によっては、生成AIが作ったイラストの対価まで受け取っている人が存在し、それなのに元のイラストを描いた方には1円たりとも還元されないのですから、快く感じるはずがないでしょう。

公開されたイラストが、他の絵を無断でトレースしていた、といったことで問題になることは、以前からよくありましたが、画風を機械的に無断で学習され、その人が描きそうなイラストをAIが生成して、しかも学習された絵を描いた人の仕事を奪ってしまう可能性まであるのですから、トレースよりもタチが悪いとも言えます。

PIXIV FANBOXでは、AIで生成したイラストの投稿が禁止されました。同様の方針をとるイラスト投稿サイトも多いようです。

著作物を生成AIの学習に無断で利用すること自体は、条件付きで適法(著作権法第30条4「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない場合」に生成AIなどへの利用が可能)とされています。

また、生成AIで作ったイラストに著作権は発生しないとされていますが、それに「既存の著作物との類似性と依拠性」が認められた場合には、既存の著作物の権利者に対する著作権侵害とされる可能性はあります。多くのイラスト投稿サイトで、AIにより生成したイラストの投稿が禁止された背景には、そのことによる運営側へのリスクがあるようです。

なかなか難しい話ですが、生成AIで作ったイラストを自由に使い、第三者の著作権を侵害しないようにするには、著作権をもつ作者や企業が正式に認可した上で学習され、実際に生成されるイラストの自由利用が認められているソフトなどがリリースされる必要があるでしょう。

あくまでですが、手塚治虫先生の全作品の学習を手塚プロが公認して、「お望み通りのイラストを手塚タッチで生成できるソフト」のようなものが発売されるなら、それで生成されたイラストは自由に使用できますし、著作権侵害を指摘される心配もなくなるのではないでしょうか。

ところで、生成AIでイラストを作れるという話題が出てきたとき、やはりこれを思い浮かべた方が多かったようですね。

藤子・F・不二雄大全集「ドラえもん」第6巻「週刊のび太」P.451

これは、ドラえもんが出したひみつ道具「雑誌作りセット」に含まれる「まんが製造箱」。この作品が掲載されたのは「小学六年生1978年5月号。この2ヶ月後から「T・Pぼん」の連載が雑誌「少年ワールド」で開始されるという時期で、連載以外にSF短編も2ヶ月に1作ほど描いておられます。

F先生も多忙を極めていたので、こんな道具が自分の代わりに漫画を描いてくれないかなぁ、みたいな願望から出たアイディアだったのかもしれません。もっとも当時、これは作者にとって全くの絵空事として描かれていたのだと思われます。まさか同じような技術約45年後に実現するなんて、考えてもみなかったことでしょう。

おわりに

今回は生成AIで作られるボーカルとイラスト、それぞれのついての所感と問題点を書いてみました。

ボーカルについては、AIに学習される「元の声の持ち主」との契約に基づき、正規に作られたソフトなどを利用するのであれば、音楽制作者にとって一種の「楽器」としてなら、十分活用できる存在だと考えています。

イラストについては、作られるものが学習データとして取り込まれた既存のイラストの「模倣」であるという点において、著作権侵害となり得る問題もさることながら、それを「創作」と呼べるのかという疑問を持っています。

まだスマホどころか、一般家庭にはパソコンすらなかった40年以上前に、「ドラえもん」で描かれていた架空の技術が、一部とはいえ現実のものとなっていることには驚かされます。技術を単体で見れば、非常に将来性のある優れたものですが、現実だからこその諸問題も起きているわけで、それらの整備がまだまだ必要かなと考えています。

本当は生成AIを使って、漫画や小説などの「面白いストーリー」を作れるのか?という話も書こうかと思っていたのですが、長くなりそうなので、次の機会にしたいと思います。

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