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モノに心が宿る①

あたしの祖母は信心深い人だった。

祖母が亡くなった当時、
あたしは地元から離れた場所で働いていた。
自分の身の上に起きたことなのに、
未だ信じ難い話ではあるが、
祖母はあたしが会いに行った
数日後に亡くなった。
待っててくれたのだ、あたしを。
だから、最後に会ったときのことを
今でも鮮明に覚えている。

あたしは大体のことはすぐ忘れてしまうけれど、
執着している出来事はとても鮮明に覚えているという、
とても変な特技を持っている。

当時のあたしはとても忙しい日々を送っており、
土日もゆっくり休めずにいて、
なかなか地元に帰ることができなかった。
祖母が亡くなる前の週に、
父から「とりあえず帰ってこい。」と
言われ、無理やり予定を調整して帰った。
帰って来いなんて言わない父が言うので、
それに従ったと言えば、それまでだが、
ともかく帰った。

祖母にひとりで会いに行くのが怖かった。
自分だとわかってもらえないかもしれない。
変わってしまった姿を見て
あたしはちゃんとあたしでいれるのか。
眠る時間が増えている、と聞いていたので、
それに少しホッとした。
眠っていても顔が見れたらいいやと思ってた。
妹と病室を訪れたときに、
なんと祖母が目を覚ましたのだ。
そして微笑んだ。
心底ホッとした。
あたしの知っているおばあちゃんだった。
妹が「こんな風に笑うなんて嬉しいな。」
その言葉をずっと覚えている。
確かに笑ってくれた。
言葉を交わすことはもうできないけれど、
きっと「あたしだとわかった」と言うことだと
あたしは信じている。

それから数日後、
職場でありえない予定の変更があり、
夏の忙しい日のはずが異様に余裕があった。
そのおかげで引き出しに入れている
携帯電話が光っているのが見えた。
着信が数件。
思わず見ると、父からだった。
ありえない。
父が電話をかけてくることなんて、
ありえない。
訃報だった。

あたしが祖母の病室から帰った後、
あんなふうに目を覚まして
穏やかに笑う姿をもう誰も見なかった、
そう聞いた。
「ずっと待っててんで、ルルが来てくれるの。」
親戚が口々にあたしに言うその言葉が
とても嬉しく、とても痛かった。

虫の知らせもタイミングも
ほんと神がかりすぎやん、おばあちゃん。
神さんにルルちゃん来るから、
もうちょっと待って!!
って頼んだんやろ?
もうほんまに、負けるわ。
でもやりかねへん、と思ってんねん。
いつも一緒に行ってた神社にも、
大切にしていたことも、
全部ぜんぶ覚えてんで。
いつも見守ってくれてるの、知ってる。

あたしが信心深い理由は、祖母にある。
この話の続きは、次回へ。


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