ヴェルレーヌ「諦め」(フランス詩を訳してみる 39)

Paul Verlaine (1844-1896), Résignation (1866)

子供の頃ぼくは夢見ていた コ・イ・ヌールを
ペルシャ人やローマ教皇の絢爛豪華を
ヘリオガバルス帝やサルダナパロス王を!

ぼくの欲望は思い描いた 黄金の屋根の下
馥郁たる香りが立ち込め 楽の音が鳴り響く
果てのないハーレム 官能の天国を!

今のぼくは少し大人しくなり 激しさこそ失わないが
人生を知って 折れる必要もあることを学んだ、
ぼくは自分を押し殺しすぎないようにしながらも
美しい熱狂を抑えなければならなかった。

ままよ! 立派なものはみなぼくの牙を逃れていく、
それでも生ぬるい快さはまっぴらだ 残り物はまっぴらだ!
中の上の女など今でも嫌いだ、
不完全な韻も 用心深い友も嫌いだ。

薄井歳和の訳を参考にした。)

Tout enfant, j’allais rêvant Ko-Hinnor,
Somptuosité persane et papale,
Héliogabale et Sardanapale !

Mon désir créait sous des toits en or,
Parmi les parfums, au son des musiques,
Des harems sans fin, paradis physiques !

Aujourd’hui, plus calme et non moins ardent,
Mais sachant la vie et qu’il faut qu’on plie,
J’ai dû refréner ma belle folie,
Sans me résigner par trop cependant.

Soit ! le grandiose échappe à ma dent,
Mais, fi de l’aimable et fi de la lie !
Et je hais toujours la femme jolie,
La rime assonante et l’ami prudent.

ヴェルレーヌの第1詩集『土星人詩集』Poèmes saturniens で、2つの序詩に続く「憂鬱」Melancholia という章の最初におかれた詩です。伝統的な4行・4行・3行・3行のソネ(十四行詩)をひっくり返した sonnet renversé という詩形で書かれています。

1行目のコ・イ・ヌールはインドで発見された巨大なダイヤモンドです。
3行目のヘリオガバルスとサルダナパロスは、それぞれローマ帝国の皇帝と伝説上のアッシリアの王で、ともに奢侈と放縦に耽ったことで知られています。

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