ヴェルレーヌ「Nevermore」(フランス詩を訳してみる 32)

Paul Verlaine (1844-1896), Nevermore (1866)

思い出よ、思い出よ、ぼくをどうしようというのか?
あの日、秋は無気力な空にツグミを舞わせて、
調子はずれの北風が鳴る黄葉の森に
太陽が単調な光を浴びせていた。

あのひととぼく 二人きりで 夢見がちに歩いていた、
髪の毛と胸の思いを 風になびかせながら。
ふいに、きらきらとした眼差しをぼくに向けて
「今までで一番幸せだった日は?」と黄金の声が尋ねた、

天使の声のように やさしく清らかに響く声だった。
ぼくのひかえめな微笑がそれに答えた、
そしてぼくは敬虔な心でまっ白な手に口づけをした。

――ああ 初咲きの花々の なんと香り高いこと!
そして 愛するひとの唇から初めて漏れる
「ええ」の一言の なんと快く響くこと!

永井荷風川路柳虹堀口大學鈴木信太郎中込純次橋本一明の訳を参考にした。)

Souvenir, souvenir, que me veux-tu ? L'automne
Faisait voler la grive à travers l'air atone,
Et le soleil dardait un rayon monotone
Sur le bois jaunissant où la bise détone.

Nous étions seul à seule et marchions en rêvant,
Elle et moi, les cheveux et la pensée au vent.
Soudain, tournant vers moi son regard émouvant :
« Quel fut ton plus beau jour ? » fit sa voix d'or vivant,

Sa voix douce et sonore, au frais timbre angélique.
Un sourire discret lui donna la réplique,
Et je baisai sa main blanche, dévotement.

—  Ah, les premières fleurs, qu'elles sont parfumées !
Et qu'il bruit avec un murmure charmant
Le premier oui qui sort de lèvres bien-aimées !

ヴェルレーヌの処女詩集『土星人詩集』(Poèmes saturniens)からの1編です。

タイトルの Nevermore は、エドガー・アラン・ポーの詩「大鴉」(The Raven, 1845年)から採られました。

4行目の détone は、détoner(爆発する)ではなく同音の détonner(調子外れに鳴る)という動詞のことであり、さらに半過去の détonnait の意味であるという説に従って訳しています。

8行目の or vivant(生きた黄金)は中世の錬金術に由来する表現ということですが、忠実に訳出するのはあきらめました。

 *

ダリウス・ミヨーによる歌曲(1964年)があります。


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