10代の恋愛(5)

かみひこーきさんの仕事が終わってから、

30分くらいでオオタさん宅へ着く予定だった。

1時間近くもすると、さすがに遅いと思いだし、

電話をしてみる。

かみひこーきさんは、まだ自宅にいた。


「そっちはそっちで、楽しんでいればいいじゃない」


言葉が出てこなかった。

何か、怒っているような、

何か、違和感。

あたしは元々、そんなに積極的ではないのだ。

ちょっとでもキツい言い方をされたら、

返事も出来なくなってしまうのだ。

「どうしたの?」

「なんかあったの?」

そんな風に言えればよかった。

確かに、

4月の誕生日以降、

あたしはかみひこーきさんに電話もしていない。

気を使ったのだ。

つきあってるわけでもないのに、

毎日のように電話なんかして、

迷惑に思われたくなかった。

それも、

何か誤解を生むことのひとつだったのかもしれない。

はっきりはわからない。

何かを言われたわけでもない。

なぜかはわからないけど、

かみひこーきさんの言葉は、

あたしに対する嫌悪があった。

その言葉に驚いて、何も言えなかった。

ただそれだけ。

「ごめんなさい」

と、あたしは電話を切った。

どう思っただろう。

どういう「ごめんなさい」だと思っただろう。


それからあたしは心にずっとモヤモヤを抱えていた。

夏になり、合宿の時期。

体育館に椅子を並べて、

空調もない場所での練習。

同級生の中でも一番の美人と言われるサシコが倒れた。

真っ先にかけよったのがかみひこーきさんだった。

血の気が引いた。


そのあとのことはまるで覚えていない。

何もかもやる気が失せ、

どうでもよくなった。

コンクールまでは続けたけど、

その年の秋のコンサートのことは覚えていない。

けれど、そのコンサート終わりに、

OBが部員をそれぞれの家まで送っていく中、

あたしを降ろしたあと、運転席から手招きされた。

かみひこーきさんの手には、あのノートがあった。

かみひこーきさんの誕生日に渡したあのノート。

何も書かずに返してきたのかと思った。

けど。。。


帰路につき、部屋にこもって思い切り泣いた。

たくさんのかみひこーきさんの詩とイラスト。

最初のページにはまえがきがあり、

「目標、誕生日!!」

覚えててくれたんだ。

あたしの誕生日。

半年近くかけて書いてくれた。

それだけであたしは幸せだった。


冬になり、高校2年のバレンタイン。

かみひこーきさんへのチョコレートを用意して、

体育館の出口で、

周りに人がいなくなったのを見計らって、

無理矢理渡した。

あたしがかみひこーきさんを好きだってことは、

周知の事実で、

みんな、あたしを気遣ってくれていた。

そういうのも含めて、

辛くて、

3年の夏、

コンクールに向けての合宿前に、退部していた。

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