イカル目線

高校時代のある先輩が人身事故を起こしたって、

急いでナキに電話してそれを知らせた。


中学からの友達のナキは、

高校卒業後上京して専門学校を出て、

そのまま東京で就職して彼氏も出来て、

滅多に帰省してこなくなってた。

彼氏がいるとホント帰ってこない。

年イチの帰省で積もる話をしたり、私も何度か遊びに行ったり、

電話も固定電話、当然親名義で県外通話料も高いので年に数回。

今のように携帯電話が無い時代のこと、

もちろんメールもLINEも無い。

当時ナキは、パソコン通信というオタクなことしてたけど、

私は自宅にパソコンなんて必要なかったし、

軽自動車買うような値段のモノに興味もなかった。

ナキはチャットとかいう根暗なことに夢中になって、

毎日パソコンに文字を打って誰か知らない人達と会話してた。

私には理解できなかったけど。

まあそんな時代、先輩の起こした人身事故、

しかも先輩公務員だからもしかして懲戒免職かも!

という話、ナキに連絡しなきゃ。

その先輩、かみひこーきさんは高校のブラバンのOBで、

私らの4つ上なんだけど、ほぼ週末になると同期のオオタさんと

練習見に来てくれて、帰りが遅くなると車で送ってもらったりしてた。

私とナキとタカの3人は、

時々休みの日もかみひこーきさんオオタさんと遊んでた。

ルパン三世の最初の映画を見に行ったこともあったなあ。

あとはドライブしたり、ボウリングしたり、スケートに行ったりしてた。

運動音痴なナキだけど、ボウリングだけはうまくて、

ハンデなしで男子と競える腕前。

夏休みになると、大学生のOBも練習見に来てくれたりして、

その中に私の将来の伴侶もいた。

ブラバンの顧問は名前だけだったので、

コンクールの指揮は

当時大学生で7才上のOBでフクイさんって人がやっていて、

このフクイさんと将来の私の伴侶カワノさんと、

他にも数人大学生OBが集まって、練習帰りにご飯食べに行ったり、

フクイさんちに行って大富豪(当時仲間内で流行ってた)したり、

ボウリング(別にあの頃ブームだったわけじゃない)したりするのに、

なぜか私ら3人も一緒だったことが多かった。

オオタさんなんか実家が学校の裏手で、

仕事が休みだとかみひこーきさんが来なくても一人で来ることもあった。

高2のとき、学校のクラス対抗球技大会で、

出場しないヒマな私らは「サボろう」ってことになり、

学校の公衆電話からオオタさんに連絡して家におしかけたっけ。

何がきっかけだったかは忘れちゃったけど、

私ら3人と先輩2人は仲がよかった。

ただ、ナキだけは下心があった。

(私はまだカワノさんとはこれっぽちも関係なかった、

というより当時同級生のコウキと付き合ってた)

ナキ本人は隠してたつもりかもしれないけど、

かみひこーきさんが部室に入ってきたのがわかると

話し声がワントーン上がってたし、

顔がニヤケてしょうがなくなるし、もうバレバレ。

優等生タイプというか、根暗でクソ真面目なナキが、

とにかく

かみひこーきさんと一緒にいたがっているのが丸わかりだったから、

私らが協力してあげたというか、

まあ実際楽しかったなあ、高1の時は。

かみひこーきさんも、もしかしてナキのことを?

って思うこともあった。


時々練習帰りに車で送ってもらうとき、

最初のうちは学校から近い順に降ろしてたのがいつの間にか、

遠い順になってた。

私やタカを先に送って、

一番近いナキんちを最後に送っていくのってどうよ。

ナキんちの傍で車を止めて、

1時間くらいおしゃべりするのが定番になってたんだよね。

雪が降った日に、

寒いのでエンジンかけっぱなしでおしゃべりしてたら、

バッテリーがあがってしまったこともあったんだって。

ナキから、口実を作って電話してたこともあった。

昔はイエ電だったから、

当然かみひこーきさんの親が出るのだ。(コワ~)

ナキと付き合ってるわけじゃないから、先輩は電話を待ってない。

風呂に入ってることもあったそう。

とはいえ、なんやかんや先輩は嫌な顔もせず毎回1時間や2時間、

おしゃべりにつきあってくれた。

1度だけ、あのナキがどう誘ったかはわからないけど、

2人だけでボウリングに行って、十和田湖までドライブしたらしい。

奥入瀬川で滝を見ようと川を渡ろうとして、

コケで足元が滑ったときに初めて手を握られたって

騒いでたことがあった。

それから何の進展もなかったけど、

Г今度2人で映画行くの!」だって。

なんだっけ?銀河鉄道999だったか

キャプテンハーロックだったか火の鳥?

よくわかんないけどアニメよアニメ。

2人ともアニメオタクでお似合いよ。

ただ、この映画は時期が悪かった。

私ら高校生には試験前の日曜日。

当然ナキの親は見逃さなかった。

まさかオトコと映画とは思ってもいなかったらしいが、

試験前に友達と遊びに行くことは許されなかった。


高1のバレンタインに

チョコと手編みの5本指手袋を渡したんだって。

ホワイトデーのお返しはあったとかなかったとか。

いつだったか私ら3人とオオタさんで

かみひこーきさんちへ遊びに行ったことがあった。

かみひこーきさんはポエムを書いていて、

ちょっとしたイラストが添えられて

可愛い丸文字で書かれた大学ノートがたくさんあった。

私はちょっとひいたんだけど、ナキは目が輝いてた。

そうなんだよねぇ、ナキも書いてるんだよねポエム。

ってか作詞作曲してたよね、たしか。

フォークギターとかピアノで作曲してたよね。

私は聞いたことなかったけど、コウキと聞かせあいっこしてたね。

そういえばナキって文化祭でギターの弾き語りやってたね。

オリジナルじゃなくさださんだったけど。

高1で天までとどけ、高2で防人の歌。

高3のときは軽音楽同好会に誘われて、

カーバタと組んでミニライブしたことあったね。

さださんの他に中島みゆきとーーーペガサスの朝って誰だっけ?


ギター弾くきっかけ作ったの私だよね、中学のとき。

さださんのこと教えたよね。

あ、嘘嘘、ごめーん。

ギターはもっと前からやってたね。

ナキってホント冗談通じないんだから。

まあでも、

私ら3人ともさださん好きでよく聞いてたね。

そういえばかみひこーきさんの車に乗ると、

ずっとさださんの曲だったね。

オオタさんの車ではアリスだったけど。

高1のバレンタイン、チョコと手袋だけじゃなくて、

ナキのお気に入りの大学ノートも渡したんだよね。

そのノートに先輩のポエムを書いてほしくて渡したんでしょ?

ホワイトデーにお返しはなかったけど、

ノートにイラストとポエムが数十作も書いてあったって。

それってバレンタインのお返しだったんじゃないの?


そのあと高2の春、先輩の誕生日プレゼントに、

またノート渡してたでしょ。

ノートというよりあれは本みたいだよね。

白いハードカバーの小説みたいな作りのノートでさ、

あれ、デザインはさださんだったよね。

100ページくらいあったね。

また「お願いします」って?

それプレゼントっていうのかなあ。

でも先輩喜んでたんだよね、きっと。

だってノート受け取ってくれたんだもの。

4月最後の土曜日だったね。


どこからズレたんだろうね。


高2になってから、

野球部やめたムラサがブラバンに入ってきたんだっけ。

楽譜なんか見たことないって人だったから、

イチから教えてたけど、

ムラサって女子から教わるの、プライドが許さなかったのかな。

くっだらないプライドなんだけどさ。

特にナキのこと、何が気に入らないのか、

目の敵にしてたような気がするんだけど、気のせい?

ムラサはかみひこーきさんと同じ中学出身で、

当然ムラサは先輩を慕って、

先輩も同じ中学の後輩だからか

可愛がるようになってたのは見ててわかるんだけど。

なんで、ナキを先輩から遠ざけるように仕向けたんだろう。


ちょうどその頃学校側から、

部活が終わった後OBに車で送ってもらうことを

問題視する動きがあったんだよね。

だからうちら、

しばらく自粛しようってことになったんだよね。


そんな中での球技大会サボろう事件、事件?w

オオタさんちでアリス聞かされながら、大富豪しながら遊んでた。

あのときナキさ、

かみひこーきさんに連絡したんだよね?

でもつかまらなくて、

かみひこーきさんちの人に伝言してたの?

してなかったの?出来なかったの?

ナキ、ずっと待ってたでしょ?

結局かみひこーきさん来なかったよね。

いったい何があったの?

かみひこーきさんが不機嫌そうだった?なんで?

わかんないって、

なんで聞かなかったの?

付き合ってもいないのにそんなこと聞けないって、

なにそれ!


ムラサになんか言われたの?


そのあとの夏の合宿、サシコが体調不良で寝込んだときに、

なんでかみひこーきさんが様子見に行ったりしてんの?

いつの間にそういう仲になってんの?

あのときのナキ、顔面蒼白。

ショックだったよね。

なんだよ、

結局かみひこーきさんも美人がいいの?

しっかし、いつ出てきたんだ?サシコ。

(まあ1年からずっといたけどw)

いつ、かみひこーきさんとそうなる?

確かにサシコは透き通るような肌で、

目鼻立ちが整ってて美形だし、

病弱で守ってあげたくなるんでしょうよ。

そりゃあ勝手に片思いしてたのは間違いないけどさ、

はっきり断りもしないから

ナキだって脈あるかもって勘違いするよ。

ひどくない?

ナキはさ、

中2のとき初めてかみひこーきさんに出会ったんだよ。

中学と高校のブラバンが合同練習したとき、

部長だった先輩を一目見て憧れて、

高校で会えるの楽しみにしてて、

やっと会えて仲良くなれて。

それなのに、この仕打ち?

大袈裟かなあ。

先輩知らないでしょ。

あのあとナキの書いた詩、

みゆきかハコかってぐらいの真っ暗な恨み節だよ。

合宿も終わって、

夏のコンクールで無事金賞、

そして秋のコンサート。

ちょうどナキの誕生日頃、10月の始め。

久々にOBが車で送ってくれた。

前みたいにナキは最後じゃなくて、車から降りる。

離れて車道を横断しようとするナキを、

かみひこーきさんは運転席から静かに手招きして、

白い何かを渡しながら

「はいこれ。約束の-----」

それだけ言って車を出そうとする。慌てて

「ありがとうございます------」小さな声で答えてた。


ナキは渡したことを後悔していた。

中には何も書かれずにそのまま返されたと思った。

そんな事をされるくらいなら、

捨ててくれたらよかったのに。

車を見送った後パラパラめくると、文字が見えた。

覚えていてくれたんだ。

半年前の誕生日に渡したノートを、

ナキの誕生日に返してくれるなんて。

あとで見せてもらったんだけど、

表紙をめくると最初のページにあったのは

「目標10月の誕生日」

かみひこーきさんは始めから

ナキの誕生日に完成させるつもりでいたのだ。

何てことしてくれるの、先輩。


冬休みも日曜日以外は毎日練習に出て、

卒業する1つ上の先輩を見送って、

春に新入生を迎えて、

3年の夏、

ナキは部活をやめた。


ねぇ、ナキ。

先輩が人身事故だって。

運悪く、徘徊してたどっかのおばあちゃんを。。。

しかも自分の結婚式の一週間前。

相手聞く?

サシコだよ。

ふーんって、それだけ?

まあそうだよね。

もう彼氏いるしね。

幸せなの?

ならいっか。

じゃ、また電話するね。

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