描いた同人誌について語る 第一回〜スターアゲイン〜

同人誌のあとがきを読むのが好きです。
作品への想い、キャラへの感情、締切前ギリギリの修羅場感……。あとがきとして書かれるものは色々あるけれど、どんなに淡々とした文章でも、そこからは何かしらの"熱"を感じます。
その熱を浴びると、心の底からふつふつと自分も同人誌、描きたい!というパワーが湧いてきて、すごく元気になれる。だから同人誌のあとがきが好きです。

一方であとがきを書く側になると、途端にやる気がなくなります。
あとがきを書くのは大抵締切ギリギリなので、純粋に体力の限界だというのもひとつ。あとはまあ語りすぎるのは蛇足だし野暮だよなあとか、ページいっぱいにぎっちり書くの気持ち悪いよなあとか(自分は人のびっちり詰まったあとがきを喜び勇んで読むのに!)、色々考えてしまうのです。

自分の解釈を見て欲しくて同人誌を作るけれど、その物語を読んで得た解釈は読み手個人だけのものだと思っているし、そこに「正解」をお出しするのも憚られる。なので普段はだいぶ……これでも……あとがきを書きたい気持ちを抑え、なんとなくサラッと読めるぐらいの分量にしている、と思う。

でもやっぱりあとがき書きたいよね〜〜!!最近自分の本を読み直したら当時の熱が思い出されて、これはもう……我慢ならねえ!
我慢ならないので、ここで語りたいところだけ語ろうと思います。自分が見返して楽しい記録にしよう。


……と、振り返りに入る前に、前提としておきたいことがあります。
この先色々「描いている時に考えていたこと」、つまりはある意味「解釈の正解」みたいなものを書いてしまいますが、ここに書かれたことは、話を読んでくれた皆さんが最初に得た感想や解釈を否定するものではありません。書き手の描いた意図と読み手が受け取ったものが違うことは当然ありますので、読み手の方は自分が最初に感じたことを一番大切にして欲しいです。

「自分はこういう風に読んだけど、描いてる方はこんなこと思って描いてたんだな〜」みたいな感じであとがきもどきをお楽しみください!



第一回 スターアゲイン【Fate/EXTRA-CCC】

一回につき一冊、本ごとに分けて連載形式で語っていこうと思います。
最初にこの本を選んだのは、最近Fate/EXTRA10周年でリメイクが決まって(本当におめでとう…!)web再録したからというタイムリーな理由もあるけれど、何より自分にとってめちゃくちゃ思い入れが強くて、語りたいことがたくさんあるからです。一番喋りやすいし喋りたい本はやっぱりこれだなあ。
本を購入してくださった方は本を開いて、持っていない方はぜひ再録を読んでから/読みつつ読んでくださると嬉しいな。


1. 表紙

表紙……なんですけど……。死ぬほど時間と技量がなくてこんなに後悔したことないな!というくらい後悔してます!(いきなり?)
もっといい表紙を描いてあげたかった。この本は特に中身を描いても描いてもまっっったく進まず苦しんでいたので、最後に締め切りギリギリで描いた表紙は本当に力尽きている。表紙は余裕を持って、出来る限り最初にやろう!同人戦士との約束だぞ!

一応上部に水面が見える=ここは月の海の中=現実世界の話ではありませんよ、ということを表現しています。裏表紙にいる岸波がこちらを向いていない&ちょっとぼやけているのは、作中に岸波白野本人は登場しないから。全体的な色味が淡いピンクなのは桜色=BBちゃんです。


2.遊び紙

さて、ページを開いて最初にある遊び紙。現物を持っていない方向けに説明すると、桜吹雪柄のトレーシングペーパーが最初のページの前についていました。当然BBちゃん意識です!BBちゃんの介入によりこの本での出来事は始まったよ、という合図ですね。
そもそもこの本を描かなきゃとなったのがラストアンコールの放送でくちゃくちゃになっていたのと、緑陽社さんが桜吹雪遊び紙のフェアをやっていたのがきっかけです。あのタイミングでなければ描けなかったし、描かなかっただろうなあと思います。(ちなみに2018年の春コミでこの本を出したのですが、ちょうどラスアンユリウス回の直後で……情緒めちゃくちゃ……)

サンプル段階ではこの本にBBちゃんが出ることを隠していたので、本を読んだ方からは「なんで最初に桜?と思ったけど全部読んで納得しました」と感想をいただけてとても嬉しかったです。
サンプル時点でBBちゃんが出るということを載せるかどうかとても悩んだのですが、そういう感想をもらえたおかげで出さなくてよかった〜〜!と思えました。ありがとうございます!


3.本文

最初のページを一番最初に描いたのですが、ここは原作でも大好きなシーンであること、何よりユリウスの光なので、物凄く気合を入れていたのを覚えています。Fateにおける星のうつくしさを形にするのに必死だった。
岸波の髪と、ユリウスの表情がお気に入りです。今見ても良い表情で描けたな、と思えて嬉しい。

次のページの「それはわたしにとって〜」という唐突なセリフは、お分かりかと思いますがBBちゃんのものです。ユリウスの無いはずのものが在ることになった瞬間を受けて、BBちゃんは自分の記憶を想い、それゆえに次ページの「お前だけは許せない」に繋がりました。
この本のあとがき……というか人物紹介的なおまけページ(この形式にすると、普通にあとがきを書くより書くべきことを絞れて読後の余韻を持たせられる気がするので、最近の本でもよく使っています)にもあったように、「お前だけは許せない」部分はループ中のユリウスから岸波への感情であり、BBちゃんからユリウスに向けてへの感情でもあります。
こういうギミックは個人的にすごく好きなのですが、考えるのが難しいのと、乱用するものではないので中々使う機会がない。その分いい感じにできると気持ちがいい!


本文中の××××さんの服装はエクステラリンク岸波の衣装がベースです。あれ可愛いよね〜!
流石にテラリンのまんまだと露出が多くて話の雰囲気に合わないので、ちょっと着込んでいただきました。

××××さんが「死ぬときは必ず今の声を聞く ノイズ混じりで声の性別もわからないが」と言っていますが、この「声の性別もわからない」というのはノイズが酷かった+ユリウスとBBちゃんの声音が混じってるから。
別に気づかれなくてもいい自己満足の細かい描写ですが、そういうのを喋れるの楽しいな!


遠坂さんとの会話シーンは、B5本で調子乗ってコマ割りすぎて全っっ前終わらず辛かった記憶が強いです。当時は沢山コマ割ってある(1ページの密度が高い)本が好きで意図的に細かく割っていたのですが、これ描いた時が辛すぎた結果1ページ5コマぐらいで収めるようになりました。実際5コマくらいが一番読みやすいと思います。でもこのページの密度は気に入っているので、自分が描かないなら沢山コマ割りたい!!(正直)
椅子に座って目を閉じてる××さんの髪の毛がとても気に入っています。執念を感じる。こんなに真面目に髪の毛描いたのこの本が最後なのでは?

「気づいたからにはもう何もせず死ねはしない」というセリフもお気に入り。岸波白野が岸波白野たる由縁であり、××××が岸波白野と同じ魂を持ったものだという証です。


そしてユリウスさんパートだやったー!
彼がレオの死んだ後の世界でも動けている理由はキャラ紹介に書いた通りです。ちなみに自殺していないのにも理由があって、BBちゃんがその権限を封じていました。苦しめたいのに死なれては意味がないので。
個人的にはもしレオが死んだ後でユリウスが生き残ってるような世界線があって、そこで彼が光に出会っていない場合、まあ自殺するでしょ……と思っています。生きる理由がなさすぎる。

ユリウスもBBちゃんも7回戦の勝敗は知らないはずですが、こういう結果が最もユリウスを追い詰めるとBBちゃんが演算した結果がこれ、ということでひとつ……。(今気づいた)


ユリウスが「なぜ貴様の髪は長いのだ」と言うのはアシリアさんの容姿と被るな=オレの光を汚すな、というあれですが、封じられているけれど根底にある最後の光の記憶の相手が長い髪だったのにもかけています。二重負荷が彼の情緒不安定に拍車をかけている感じです。
こんなの絶対読んでる人には伝わらないな!セリフの表面的な意味も分かってもらえるかわからんな!ぐらいの気持ちで描いてました。こうして喋る機会が作れて嬉しいな〜!
殺される瞬間の××の顔、今描くならもっとぐちゃぐちゃにしてたと思います。


そんなこんなで最終ループあたりの××さんの髪は執拗に切られることとなりました。ユリウスは拷問とかするタイプではないけれど、最後の方のループでは色々したと思います。
この辺りのセリフはユリウスと岸波の関係性のサビです。

“どんなに姿が変わろうとも、どれほど年月が経とうとも。
その骨子にある魂が同じものであるなら、結論は必ず―――”
引用:竹箒日記

この本の構想自体はラスアン前からあったのですが、”岸波白野本人ではないが、岸波白野と同じ魂を持つもの”をメインに据えることに対して肯定的になったのは、奈須先生のこの言葉の影響が強いです。そういう意味でもあのタイミングだったから描けた本だなと思います。


「用意されたNPCが予期せぬ指向性を獲得」というセリフは、岸波白野発生のリバイバルであり、BBちゃんへのものすごい皮肉だな〜と思いながら配置しました。
そこに至ったのはBBちゃんの愛ゆえであり、彼女本人も予期せぬ指向性=恋を守るものなので、BBちゃんもこの結果には「ばか」というしかない。


ユリウスと岸波の関係性のサビが世界が割れる瞬間のセリフなら、BBちゃんとユリウスの意識の相違が明らかになるところはこの本のサビです。TwitterでユリウスとBBちゃんの近似性についてグダグダ壁打ちしていたのをちゃんと形にできて良かった。
ユリウスの表情をどこまで優しくしていいのかわからず難産でした。ずっとカワウソ…カワウソ……と念じていた気がするぞ。

ユリウス消滅シーンの見開きはすごく気に入っています!セリフも良いな(自画自賛)。
ユリウスの最後を彼の星への信頼と祈りで締められて満足です。

凝ったコマ割り考えるの苦手だし、この本も凝ったコマはないんですけど、最後コマの大きさでユリウスのデータを回収するBBちゃんを表現したのは良いじゃん……!と自分を褒めたい。良い感じに余韻ができたと思います。



長々と自作品語りにお付き合いいただきありがとうございました!
ほんとこういう話は出さない方が絶対スマートだし、読み手には必要のない情報でしかありませんが、私はとても楽しかったです。色々考えて描いたんだなー。

次回は書きたいことの量的にはFF14漆黒本なのですが、普通に在庫残ってて発行から一年立ってない本なので迷っています。書いたとしても有料記事かなんかにする気がします。お金が欲しい訳ではないので、良い感じに読む人を制限できる形で…なんとか…うーん……。

その辺考えるの面倒になったら違う本やろ!



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