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彩(あや)とラッキー(1)

彩は多摩市に住んでいる中学3年生。
ラッキーは神戸に住んでるキャバリア犬。
今は入道雲さんからいわし雲さんに
バトンタッチが済んださわやかな初秋。
彩も来春はいよいよ受験戦争に突入だ。
彩は横浜のA高校に行きたいけど、
ちょっと偏差値でギリギリの状態だ。
担任の先生は、希望の学校よりランクを
一つ下げたB高校を推薦。
しかし、彩はがんとして初心どおり
A高校を受けることを決定。

彩も目の色を変えて猛勉強。
勉強も進んでいる11月の日曜日に、
A高校の受験の説明会が開催された。
彩とお母さんは説明会に参加して、
受験の条件を聞いてビックリ仰天。
なんと、今年から他府県からの受験は
原則禁止になっていた。
一般説明会が終わった後の個別面談で再度
東京都からの受験の可能性を確認。
説明担当者からは冷たく、
「彩さんの場合はこの原則に
当てはまりますので受験できません」。
彩はショックで涙ぐんでしまったが、
こればっかりはどうしようもできない。
元気印のお母さんも、彩の姿を見て
さすがに肩の力が抜けてしまった。

しかし、そこは百戦錬磨のお母さん。
「彩。A高校はあきらめて、
東京都で一番のS高校受験しな。
そこに合格してA高校にしまったなあと
思わせてやろうよ」。
そうは言っても彩はガックリ状態なので、
もう一つ勉強に力がはいらない。
お母さんは食品会社の多摩営業所の事務員をしていて、
年に一度やってくる監査室の課長さんとの昼食時、
彩のことを愚痴ったら、
「彩さんは犬は好きですか?
もしも好きだったら我が家の心のセラピー犬の話が
役にたつかもしれません。
私は仕事上怖い人と思われていますが、
趣味で我が家の心のセラピー犬のラッキーを
主人公とした癒し系の童話を作っています。
きっと彩さんの心のお友達になってもらえるかも」
と言って、お仕事が済んだ翌週に
「ラッキーの日記帳」というタイトルの童話が送られてきた。

子供向けではないけれど、中学生以上なら結構面白くて、
ほろっとして読める童話でしたので、
お母さんはさっそく彩に
「会社の人が作った童話だけど、
勉強進まないときに読んでみてくれる?と
送ってきてくれた童話集と
主人公のラッキーという犬の写真だよ。
一度読んであげてね」と置き土産。
いつものように晩ご飯を食べて彩が二階の
勉強部屋に上がって行った後、
食事の後片付けをしてテレビを見ていると、
ドタドタと彩が駆け下りてきて、
「お母さん、ラッキーって本当にいるの?
写真があるから本当にいるんだよね。
彩、ラッキーみたいな犬がいてくれたら、
受験勉強も苦にならないのにな」と
ニコニコしながら写真と童話集をながめている。

「我が家では犬は飼えないので
その写真であきらめて、受験勉強頑張って。
S高校合格したら、大きな写真もらってあげるから」と
安請け合いしちゃった。
そうしたら、なんとS高校に合格。
えらいことになっちゃった。
彩がきっちり写真の事を覚えていて、
「お母さん、ラッキーの大きな写真頼んでくれた?」と督促。
こわごわ監査室の課長さんに問い合わせたら
「彩さんヤッタね。ラッキーの写真で良いのなら喜んで送るよ。
会社では怖い監査人だけど、
彩さんにとってはサンタクロースになれるんだから」。

今では彩さんの部屋にラッキーの写真がデンとかざってくれている。
お母さんも彩の部屋の掃除をするときに、
「おはようラッキー」と一声かけてから掃除開始。
彩もお気に入りの制服姿で学校から帰ってきたらラッキーに
「ハ~イ・ラッキー!元気だった」とご挨拶。
今では、ラッキーは彩家での心のお友達になっている。

彩はイラクの戦争やイスラエルの紛争のテレビを見ると、
いつも悲しくなってしまう。
どうして鉄砲を持って同じ人間同士が
憎しみあって戦うのだろう?
どうして、子供たちやお母さんやお父さんたちが
犠牲になってしまうんだろう。
そうだ!鉄砲を持っていくから戦ってしまうんだ。
私が国連の事務総長だったら、ラッキーを隊長とする
10,001匹のキャバリア和平軍団を引き連れて、
心の癒し系の童話とラッキーの大好物の
いもかりんとうをお土産に、
心のふれあいと心の豊かさをみんなに与える伝導士として
イラクやイスラエルに行きたい。

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