映画「FIRST COW  ファースト・カウ」


原題:First Cow
directed by Kelly Reichardt
starring: John Magaro, Orion Lee, Toby Jones, Ewen Bremner, Scott Shepherd, Gary Farmer, Lily Gladstone

西部開拓時代のオレゴン州。アメリカン・ドリームを求めて未開の地にやってきた料理人のクッキー(John Magaro)と、たまたま知り合った中国人移民のキング・ルー(Orion Lee)。互いに成功を夢見る二人は自然と意気投合し、やがてある大胆な計画を思いつく。この地に初めてやってきた「富の象徴」、提督の家が連れてきたたった一頭の牛から、夜陰に紛れてこっそり乳搾りをして、それを使ってドーナツを作って売って、一攫千金を狙うという、甘い甘いビジネスだった。ドーナツを通して男だちの間に少しずつ友情が芽生えていく。やがて、この地を監督している提督の舌をも虜にするのだが・・・その元になっているのが、自身の飼っている牛の乳だとは知らなかったのだが・・・

冒頭は、現代の空き地・・・川べりの空き地に少女がたまたま見つけた2体の人骨、二人は手をつなぎあって静かに眠っていた・・・
  このシーンが割と長い・・・最初は違和感を感じたが、見終わってから、しみじみとこの場面に記憶が戻っていく・・・この演出は見事だった。
  私も思い出した・・・コロラド在住時、ドライブで「Pownee National Grassland」というプレーリー(平原)そのまんま国立公園にしてしまってるという場所・・・ただ、その紹介をしているHPでも、ところどころに西部開拓時代の名残の乳搾りに使ったミルク缶とか、馬車の部品とかが放置されてたり、ゴーストタウンと化した街もそのまんま残ってると・・・
だから、こんな風に、西部開拓時代の誰かの・・・名も無い誰かの人骨が見つかるってことはあるんだろうなぁと。
そこから紡いだ物語・・・なかなか印象的な始まりでした。

そこからは、ぐっと照明が落とした薄暗い画面構成で、西部開拓時代、ネィティブ・インディアンと、開拓移民が「なんとなく」同じ土地で暮らしているという微妙な空気感の中で、たまたま知り合った料理人と中国移民の友情物語。
万事丁寧で、物静かなクッキーの一つ一つの所作や言葉が、「未開の地のパティシエ」という雰囲気を作り出していて、中国移民のルーが「あやうい綱渡り」」という暮らしを改めて、二人でコツコツドーナツを作って売っていく。あまりベタなセリフで友情を語らないところがいい。こっそり、牛の乳を絞りにいくという「盗み」でも、牛に丁寧に言葉をかけて「ちょっと搾らせてくれな」と優しく優しく扱うクッキー。クッキーの丁寧さに呆れながらも、自分には無いそういったところを見守るルー・・・
しかし、結局、「夜の作業」がバレてしまい、二人は別々に逃げる・・・途中、足を滑らせて山中でケガをしたクッキーはネイティブ・インディアンの家に匿われるが、全く意思疎通ができない中、クッキーはやっぱり、ルーと暮らしていた家に戻る。
ルーも河に飛び込んで逃げ切ったのに、結局、クッキーを探して家に戻ってくる。

互いに「なんで逃げなかったんだ?」「もういっちまったと思ったのに」と言いながら、互いに戻ってきた姿・・・
その二人を実は追手が見ていた・・・

その最後は見せないで、ぶっつりと終わっていく。

でも、冒頭のあのシーンがあったから、観客は「ああ、あの二人だったのね」という、心あったかくなって、いろいろ余韻に浸る・・・素晴らしい始まり方であり結び方だった。

でも、よく考えれば、映画になりそうな話とは思えない・・・でも、見事に映画作品として心に残る話になっている。
ケリー・ライカート監督・・・この名前記憶しておこう。
しかし、A24・・・最近「え?」と思う作品もあるんだけど、やっぱり、こういった「地味だけどきらりと光る作品」を世に出してくる、だからやっぱり「A24」と予告で見ると、マイマストリスト(絶対見る映画リスト)に入れてしまう。さすがです。

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