ワクチン接種率と感染率・死亡率の国際比較

 新型コロナワクチンの3回目となるブースター接種が急がれ、5歳から11歳の子どもに対するワクチン接種も開始されようとしている。

  すでに2年に及ぶコロナ禍の中、全世界で100億回を超えるワクチンが接種されている。映画『コンテイジョン』では、ワクチンの普及によって感染は急速に終息し、明るい日常が戻った。しかし、新型コロナに対するワクチンはそのような切り札ではなく、未だ出口すら見えない。ワクチンが決定打ではなかったことは明らかだが、未だにわが国は、ワクチン接種を新型コロナ対策の最優先施策に位置づけている。

 接種が進められているファイザーやモデルナのmRNAワクチンの有効性の治験は発症ベースで行われている。無症状感染が多いと言われる新型コロナについて、感染予防の効果があるのかは治験の対象となっていない。後追いの調査によって一定の感染予防効果が確かめられたとする報告もあるが、オミクロン株に関する感染予防効果については、厚労省サイトでも明らかにはされていない。

 そもそもワクチンによる感染の収束や終息が望めるのか。

 各国のデータを網羅的に分析した例は、僕が検索した範囲では確認できない。

 ワクチン接種状況と感染者数はわかっているのだから、クロス集計するのは、むつかしいことではないはずなのだが、そうしたデータは見当たらない。

【国際比較の方法】

 そこで、仕方がないので、自分で、国際比較データを集計してみることにした。

 多数の国のワクチン接種状況と感染者・死亡者の累計数が同一のサイトから得られるロイターのCOVID-19日本語版サイトのデータを使った。同サイトのデータを選択したのは、109カ国と多数の国を網羅していることや信頼性の他、素早く多数国のデータにアクセスできる作業の簡便性を考慮した。なお、接種率に用いた数字は少なくとも1回以上、ワクチンを接種した人口の割合である。

 この接種率と各国の新型コロナ感染率(人口100万人当たりの累計感染者の数)、新型コロナ死亡率(人口100万人当たりの累計死亡者の数)をプロットした(なお、トルクメニスタンについては、同サイトに接種率のデータは示されているが、感染者や死亡者のデータはリンクの不備か、得られなかったので、分析対象からは除外した)。

 用いたのは、2022年2月19日16時09分更新のデータである。

 人口に対する割合に求めるのに用いた各国の人口は、世界銀行によるとされる2019年ないし2020年の人口データである(グーグルで国名と人口で検索して最初に結果が表示されるものを用いた)。

【接種率と感染率の国際比較】

 まず、ワクチンの接種率と感染率のグラフ(散布図)を示す(108カ国)。

図1 世界各国の接種率と感染率の関係

正の相関があることがわかる。つまり接種率が高いほど、人口に占める感染者数が多いという関係にある(T検定によるP値は、0%を20桁以上、下回る水準にあるから偶然の要素は排除できる)。

 感染率が高い国は、おしなべてヨーロッパであり、また、中東、南北アメリカ等であることもわかる。

 とくに、ヨーロッパには、すでに人口の半数近くが感染している国があること、イスラエルも人口の40%近くがすでに感染していることがわかる。これらの国にとっては、すでに新型コロナはあまりにもありふれた病気となっており、感染率30%に迫る英国を初めとするヨーロッパ諸国で規制撤廃の動きが出ることは必然ともいえる。それ以外に脱コロナ禍の方法は見いだし難いからである。しかし、日本の感染率は3.5%程度であり、これら諸国とはかけ離れた実情にある。

 地域的に大きなばらつきがあり、中東を除くアジア諸国の感染率がヨーロッパ諸国等と比べて明らかに低く、上記のグラフからアジア諸国の実情がわかりにくい。そこで、サンプル数は減少するが、この中から中東を除くアジア諸国を抽出して、プロットした。抽出したのは23カ国である。

図2 アジア各国の接種率と感染率の関係

 ここでも、正の相関関係があることが判明した。つまり接種率が高いほど、感染率が高くなるという関係がある(T検定によるP値は0.024%で非常に低く、偶然の可能性は排除される)。

 アジア諸国の累計感染率で10%を超えるのはモンゴルのみで約14%、ついでシンガポールとマレーシアが10%に迫っている。約7%のカザフスタンを含む4カ国を除くと、他のいずれの国も感染率は5%を下回っており、ヨーロッパ諸国や中東、南北アメリカに比べて、顕著に感染率は低い。こうした限定されたサンプルでも、接種率が高くなるほど感染率が高いという相関は明らかに認められる。

 

【接種率とコロナ死亡率の国際比較】

 ついで、接種率と死亡率の関係を、世界とアジアについて、示す。 

図3 世界各国の接種率と死亡率の関係
図4 アジア各国の接種率と死亡率の関係


 ワクチン接種率と新型コロナによる死亡率にも、正の相関がある。P値は、世界で小数点以下20桁弱、アジアで0.0013%で、有意であり、偶然の要素は排除される。

 アジア地域では、パプアニューギニアのデータが目を引く。接種率3.4%と非常に低い同国の100万人当たりの感染者数は4422人、死亡者70人に過ぎない。日本が同じく、100万人当たりの感染3万4540人、死亡171人であるのに比べ、同国の感染・死亡レベルは顕著に低い(中南米ではハイチも接種率1.3%に対して100万人当たりの感染率は2642人と少ないことを想起させる)。

【中間まとめ】

 これら総体として言えるのは、マクロな分析によれば、ワクチン接種は感染を却って拡大させること、後に述べる重症化防止効果を踏まえても、ワクチン接種の拡大はコロナ死亡者を増やすという関係にあることである。

【ワクチン接種と致死率の国際比較】

 最後に、致死率(新型コロナに感染した場合の死亡率)について、示す(グラフ作成の都合上、致死率が18%と格段に大きいイエメンを除いた)。

図5 世界各国の接種率と致死率

 今回の分析で明らかになったワクチンの唯一の有益な作用が、感染した場合の死亡率を押し下げる効果である。つまり接種率が高いほど、感染した場合の死亡率が下がることが明らかになった(全サンプルの解析で、P値は小数点以下47桁)。ワクチンの重症化防止効果は、世界規模のマクロの分析でも裏付けられると言える。ワクチン接種率の向上に伴う死亡率の上昇が、感染率の上昇より抑えられている(グラフの傾きが緩やかになる)のは、ワクチンの重症化予防効果が作用しているためと考えられる。

 ちなみに、ワクチン接種率1.3%のハイチでの致死率は2.7%、接種率3.4%のパプアニューギニアの致死率は1.6%である。

【まとめ】

 以上、マクロレベルのデータを一覧することで見えてきたことを改めてまとめる。

① ワクチンには感染拡大防止の効果は見られない。むしろ、ワクチン接種の拡大は、感染を拡大させる。

② ワクチンにはコロナ感染死亡者を減らす効果は見られない。むしろ、ワクチン接種の拡大は、コロナ感染死亡者を増加させる。

③ ワクチンの重症化予防効果は、マクロな観察によっても、顕著である。但し、感染拡大効果と相殺されるために、死亡者は②記載のとおり、増加する。

 このまとめ方には、ワクチン接種と感染拡大・コロナ感染死亡の増加の相関関係と、ワクチン接種による因果関係と混同しているという批判がありうる。しかし、接種と感染、接種と感染死亡の間には極めて強い相関関係が認められ、偶然である可能性はほぼ完璧に排除されることを踏まえると、逆の因果関係としては、感染が拡大するからワクチン接種率が向上したという因果関係しか考えにくい。しかし、そうであれば、ワクチン接種率の向上によって感染が減少した国がある筈であるが、コロナ禍から2年、100億回を超える接種を経ても、そうした国は、少なくともデータからは、見当たらないと言ってよい。以上によれば、「感染拡大→接種率の上昇」という逆の因果関係は考慮しなくてよいものと考えられる。

 ワクチン接種が、感染と感染死亡を拡大させるのである。

【結論】

 わが国が直面しているのは、ワクチンを2回接種しても、感染も死亡も収まるどころか、却って状況が悪化し、深刻化しているという事態である。

 その場合、一度、立ち止まって、社会総体に対するワクチンの有益性を検討するという議論があってよい筈である。ワクチンによっては事態を打開できないことを率直に受け止め、ワクチン政策の失敗を認めて、ワクチン接種のあり方を改めて考え直す方向性が出てくるのは本来、論理的には必然的に出てくる対応の一つである。

 しかし、現実は、こうした検討を経ることなく、初期の株に対してピンポイントで開発された旧型ワクチンの3回目接種を急ぎ、ワクチン接種対象年齢を5歳まで引き下げて、ワクチン接種対象者を増やすという方向だけが示されている。

 これが、本当に正常な筋道なのだろうか。

 今回、マクロな分析を通して、明らかになってきたことを踏まえれば、全体として低水準の感染率・死亡率にあるアジアでは、ワクチン接種の拡大は、感染者の増大を招き、重症化防止効果を踏まえてもなお、感染拡大が重症化防止効果を上回ってしまい、コロナ死亡者を増やす弊害の方が大きいという事実である。

 ワクチンが『コンテイジョン』が描き出したような万能な対策でないことが明らかになった今、欧米等と比べて一桁低い感染状況を踏まえれば、感染状況をこれ以上悪化させないために、ワクチン接種は限定的にするべきである。接種対象は、重症化防止効果を必要とする高リスク群に限定し、高齢者と基礎疾患を有する人たちに絞るべきである。何のことはない、これは日本政府の初期の方針に立ち戻るだけのことである。

 そうした人たちが、自由意思によってワクチン接種の是非を判断してもらうことが正しいワクチンのあり方である。

 以上、ワクチン接種に関するマクロな分析が見当たらないため、敢えて分析を試みた。ワクチン接種を考える一助になれば幸いである。

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