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北海道のフライフィッシング 一「おいっ!」の淵の川で自分を釣る、2度も一 第6章 (全8章)『大物はゆらりと来た!』

 
第1話
 やっと辿り着いた流れで、一投目のフライにイワイイワナを選びました。
 護岸された右岸の直線的な流れの頭に着水したイワイイワナはしばらくじっと浮いていましたが、流れに乗ってこちらへ向かって流れ始めました。

 この瞬間の高揚感は日頃の生活の中では、なかなか味わえません。

 突然何かがパシャッと咥え去りました。
「来た!」
 手応えは強く、魚の姿はなかなか見えません。
 最初の一匹目をバラさないように慎重に取りこむと28cmの虹鱒でした。

 この二日間、様々なハードルを乗り越え、やっと手にした虹鱒を川へ戻すと、喜びで胸がいっぱいになりました。

 それからは調子よく釣れました。
 しかし、昼を回るとピタリとあたりがなくなってしまいました。


第2話
 時計は午後2時を回っていました。
 二度目の川だとは言え、ほとんど知らない川です。
 次なるポイントを目指してずんずんと上りました。
 と、ある開きが目の前に現れました。右岸はゆるくカーブしたコンクリートの護岸壁になっており、壁側の水底は深くえぐられ濃い緑色の流れになっています。
「こういう流れには大きいのがいそうだな。」
 呼吸を整え、フライを投じました。
 何の反応もありません。
「いないのか。」
と、そのままフライを流れに任せていると、緑色の深みからゆらっとフライに近づいてくる大きな魚が見えました。

 私の釣りスタイルは、水面に浮いて流れるドライフライをパシャッと魚が咥え去るのをあたりとしていますので、実際にフライを喰いにくる水中の姿を見ることは滅多にありません。

 そのときは一瞬のことではありますが、水中からフライを喰いに来る魚が見えたこと、そしてその魚がかなり大きかったことに驚きを覚えました。

「今回の釣行で最大級の魚に出会えるかもしれない。」
そんな予感がしました。


第3話
 ところがその大魚は、フライを目の前にして、くるりと反転して深緑色の流れに潜ってしまいました。
「あ〜、見切られた。」
 残念ではありますが、でかい魚がいること、そして、その魚が食い気を見せたことに期待は大きくふくらみました。
「このフライが気に入らないなら、別のフライで試してみよう。」
 実はとっておきのフライを出発前夜に巻いてきていました。そのフライは、イワイイワナのグリーンです。

 イワイイワナというのは、日本のフライフィッシング界の大御所「岩井渓一郎」という方が考案した岩魚を釣るためのフライパターン「岩井岩魚」のことです。
 フライフィッシングを始めた頃は、本の写真と解説を見ながら悪戦苦闘してこのフライを巻いていましたが、YouTube動画が普及した今や、天と地ほどの差で巻きやすくなりました。

 今回は、岩井渓一郎氏直々の動画解説でイワイイワナグリーンを巻いてきたというわけです。


第4話
「岩井渓一郎直伝のフライをプレゼンテーションするぞ。」
 もう、釣れるという確信しかないまま開きへの流れ込みにフライを投じました。

 イワイイワナグリーンは、ゆっくりとこちらへ流れてきます。
「来るぞ。」

「来るぞ。」

「来いっ。」

「来いっ!」

「・・・。」

「来んのかいっ!」

 一回ぐらいで諦めることはありません。

 続いて四回、同じことを繰り返しました。


「う〜む。警戒して潜ったか。」と、イワナイワナグリーンを諦めてフライをピックアップしたとき、
「バシャッ!」
猛然とあの大きな魚がフライを咥え去ったのです。


第6/8章 『大物はゆらりと来た!』完


 



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