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昭和のガキ大将 一おばん池の攻防一 第4章『吉垣捕まる!』

            全3話

第1話
「よし、あいつらとは逆におばん池から高取山を通って帰ろう。」
 私達は、再びおばん池へ向かって歩きだしました。
 すると、おばん池の土手を下りてくる堀川君の姿が見えました。

「大丈夫やったか?」
「うん。製材所の材木の下に隠れとってん。」
「そうか、良かった。それでも、お前ら無茶なことすんな〜。」
「ごめん。あんまり腹が立ったから。」

 私は常々母から言われる「かっとなったらあかんよ。」という言葉を思い出しました。
 怒りのままに仕返しをしてしまったことによって、仲間を窮地に立たせてしまったと気付きました。
 まんまとまいたけれど、あいつらはそう簡単にあきらめるとは思えません。
 堀川君は、
「あいつら、どっちへ追いかけて行ったんや。」
と、次の対策を考えているようです。
「中学校の方へ追いかけて行ったで。」
と答えると、
「それやったらお前ら家へ帰られへんやん。」
「大丈夫。おばん池に戻って高取山から回って帰るから。」
「そうか。それで無事に帰れたらええけどな。これ、持って帰れよ。」
「あっ、それ習字道具。忘れるとこやったわ。」
「もしあいつらがおばん池に戻ってきて習字道具が残ってたら、お前らの名前バレるやろ。そしたら後でややこしいことになると思て持って来たんや。」
「さすが堀川君。ありがとう。」
 小学生ながら堀川君の冷静な判断は大したものです。


第2話
「堀川君、ほんまに頼りになるなぁ。」
 三人とも感心し、感謝もしながら帰路に就きました。

 おばん池から高取山の麓を通る道は、途中から登山道と合流します。
 私達は、登山道との合流点に着くと、人気(ひとけ)がほとんどない通称「笹山」と呼ばれる笹薮の斜面を通ることにしました。
 ここは小学生ならすっぽり隠れてしまうほどの笹が一面に生えており、町内から高取山へ登る近道として使われていました。細い道が塹壕のようにうねうねと何本も通っていて、身を隠すには絶好の場所です。
 さらに、この斜面の一角からは私達の住む町内が見渡せます。このまま一気に家へ帰ることもできましたが、念のため町内の様子を調べてみることにしました。
 斜面の西端に楠の大木があり、その木の上を、私達は秘密基地として使っていました。そこからは、枝葉で身を隠して町内を見張ることかできるのです。
 三人とも木に登り、町内を眺めました。


第3話
 夕方のせいか、町内には多くの人達が家路に就いていました。
 みんな、バス道から町内へと入って来ます。それらの人々の中に奴らはいませんでした。
「大丈夫そうやな。」
と私が呟きました。
「でも、もうちょっと様子を見てみよか。」

 しばらくすると陽ちゃんが、
「健ちゃん、あれ!」
と驚いた表情でバス停の方を指差しています。
 そこには、あいつらが見えました。
 なんと五人もいます。
「仲間を呼んできたんか!」
と思いましたが、よく見ると、あいつらは一人の小学生を取り囲んでいました。

 哲ちゃんが、
「あれ吉垣とちゃうか。」
と、囲まれているのが同級生の吉垣君だと気付きました。
 吉垣君は、私達が手打ち野球や鬼ごっこをしていても、決して「入れてくれ。」とは言いません。たいてい私達が遊んでいるのを遠巻きに見ています。
 いつも一人で行動し、町内のみならず近隣の町をぶらぶらと歩き、周辺の土地や人間のことにはとても詳しいのです。
 その吉垣君が、怒り心頭に達した連中から私達のことについて問い詰められているようです。

「まずいことになったな。」

      
         第4章『吉垣捕まる!』完 
        


 

 



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