プロジェクトKV開発中止の法的観点から見たオタクの醜悪さ

 あんまりにも酷すぎて黙ってられないので、ちょっと語らせて下さい。


■プロジェクトKVの何が問題だったのか

 はっきり言います。法的には殆ど問題がなかったと言わざるを得ません。スタートラインがそれなので、プロジェクトKVを叩いてた方々全員、私の目から見ると醜悪な代物にしか映っていないです。

■「アイデア」は著作権法で保護されない

 まず、プロジェクトKVが盗作だ何だと喚き散らしていた人々が大勢いたのですが、著作権法で保護されるのは「著作物」のみであり、アイデア、もっと言うなら、世界観や世界設定みたいな抽象的、かつ「著作物の前提部分になるもの」は保護されません。なので、世界観が共通だろうが、明らかなヘイローらしきものが映ってようが、それが「著作物として保護されているレベル」でないのなら、法的に問題ありません。

 ブルアカと間違って買ってしまうようなまぎらわしいデザインでも全くないので不正競争防止法にも違反してません。適当こくなマジで。根拠もなく犯罪認定する行為は名誉棄損になりますがね。

 著作権法的に問題がない以上、問題になるのは「競業避止義務」のみで、競業避止義務を負っているのであれば、退社後に関係作品や盗作と思わしきものを製作する事は出来ません。しかし…

■isakusan始めネクソンを退社したメンバーは競業避止義務を負っていない

 isakusan氏の退社報告にある通り、isakusan氏はネクソン社の平従業員に過ぎず、一般に取締役かそれに準ずる高い地位でなければ負わせる事が出来ない競業避止義務を、負っていない可能性が極めて高いです。isakusan氏のXアカウント上での退社報告にある「単なる会社員に過ぎない」というのは、暗にこの事を指している可能性が高いとみています。

 そもそも、退職後の競業避止義務は憲法上の重大な人権である職業選択の自由を制限する事になるため、無制限には認められず、当該従業員を競業避止義務に値するほど高い地位に置き、また期間や地域も制限し、厳格に狭い限られた範囲での競業避止義務を負わせる事しか出来ません。

 単なる平従業員程度では、広範囲の競業避止義務を負わせる事なんてできませんから、そんな安い地位で使い続けてる以上、突然退社されて類似作品を作られても、企業側が一方的に悪いものと思われます。

 なお、仮に競業避止義務を課せたとしても長くて1~2年が関の山ですから、退職後1~2年経てば、世界観を共有する別作品を作る事は何の制限もされないし、されるべきでもない事を意味します。

 デモンエクスマキナ、ゼノサーガ、ゼノブレイド、百英雄伝など、退職後のクリエイターによる在職中の類似作品はいくつかありますが、これらがリリースされてるのは法的に問題がないからにほかなりません。

 一般に、フランチャイズのように(フランチャイズはそもそも雇用契約じゃありませんが)特別なノウハウを雇用側が提供している場合ほど競業避止義務は認められやすいと思われますが、特にシナリオライターは特別なツールを要するわけでもなく、一切所属企業に頼らず個人の力で生み出しているものですので、単なる平従業員に競業避止義務が認められる事自体疑問があります。

■企業の根幹を担うクリエイターを取締役にしなかったネクソン側が一方的に悪い

 はっきり言いますが、退社後に類似作品を作られたくないのであれば、クリエイターを重用し、高い地位に置き、それに見合う競業避止義務を負わせればよいのであって、企業の根幹にかかわるほど重大な著作行為を行ったクリエイターに対し、競業避止義務も負わないような不安定かつ安い立場で漫然と使い続けた以上、いつ退社されて競合作品を作られても、文句は言えないものと思われます。

 あらゆる法分野の中で、労働分野はブラック企業気質の日本人と司法関係者の間で最も意識が乖離している分野の一つです。つまり、日本人がブラック気質に基づいて無制約に乱発している「退職後の競業避止義務や守秘義務」については、違法な範囲が結構含まれているという意味です。
 Xで「これが社会の常識!」とイキリ回っている企業人の退職後の競業避止義務、守秘義務については、訴えられたら負けるようなものが相当数含まれていることを意味します。
 職業選択の自由は重大な人権であり、退職後は契約関係にないのでお互いの自由を制限できないのが原則なんだから、退職後の自由を、企業側の一方的な利益保護のために無制限に奪うのは、合意によっても不可能であるという事です。

■従業員の引き抜きも、原則自由である

 クリエイターの引き抜きも、労働者には退職及び職業選択の自由という憲法上の重大な人権が存在する以上、原則自由です。

 もちろん、競業避止義務として従業員の引き抜きが制限されたり、取締役等の重大な地位にあったものについては、引き抜きが一定程度制約される可能性があります。

 しかし、繰り返す通りisakusan氏はじめ開発メンバーは単なる平従業員であり、競業避止義務を負う程高い地位にあったわけでもない可能性が極めて高いです。

 プロジェクトKVにかかる全てについて、ほんっとうに、「クリエイターを重用せず、競業避止義務を負わせる事の出来なかった会社側が一方的に悪い」で全て結論がつく話なのです。
 クリエイターを役員にし、莫大な報酬を与え、退職する気すら起こらないような環境を作らなかった以上、退職されて類似作品を作られた責任は、全面的に企業側にあるというのが私の感想です。

 たとえ元メンバーが開発資料を持ち出したのだとしても、ほんっとうに何度も繰り返す通り競業避止義務や完全資料廃棄義務を負わせられなかった会社が悪いです。これが憲法上に定められた労働者保護の帰結です。

■在職中に別会社の開発を行う事も、原則自由である

 最近、日本のブラック企業気質により規定されていた副業禁止規定は、大半が違法である可能性が指摘されています。
 
明らかな就業時間中にサボっていたならまだしも、有給取得は法的権利ですし、有給中などの就業時間外に何をしようが、別会社の利益になるような事をしようが、競業避止義務が定められていなければ全て自由です。

 プロジェクトKV開発スタッフが元会社に就業していた期間に競業避止義務が定められていたのかは不明です。しかし、定められていなかったのであれば在職中にプロジェクトKVを作るのすらも労働者の権利です。

■クリエイターは企業の奴隷ではない

 クリエイターは、無尽蔵にアイデアを出せるわけではありません。自分の何10年の人生で積み上げた感性を生かした有限な発想の一つを企業にささげたにも関わらず、そのアイデアを会社に盗られ、退社してしまえば自分が生み出した世界観に二度と関わる事すらできず、類似作品を作る事が出来ないというのであれば、クリエイターは実質退職する事が不可能になり、重大な人権制約を受ける事になります。

 著作権法に違反するような「同一作品」というわけでないなら、どんなに世界観が類似してようと、退職後に何作ろうが自由であるべきです。

 退職の自由は、憲法上の極めて重大な人権の一つです。就業中に自分が作ったアイデアを全て会社に奪われ、自分が作ったはずのアイデアについて退職後に二度と関与する事が禁止されるのであれば、退職の自由など存在しないに等しいです。

 著作権法でキャラデザイン等の著作物は保護されるけど、アイデアは保護されない、という事は、当然、企業側は従業員が生み出したアイデアについて、それを徹底的に保護するためのあらゆる手段を講じなければ、そのアイデアを持ち出されても文句は言えないのが当然だという意味です。

 嫌なら、企業の根幹を揺るがすほどのアイデアを生み出したクリエイターは、取締役にしてでも徹底的に重用しろというだけの話です。

 「裏切って退社したんだから盗作じゃなく別の作品作れ」と恥ずかしげもなく口にしてる方いましたけど、そのライターが作った世界設定である可能性が極めて高いにもかかわらず、その発言はクリエイターの退社の自由をどれだけ奪ってるか、自覚した方がいいと思いますよ。

 百英雄伝やゼノシリーズ等の退職後クリエイターによる精神的続編・関連作品は賛美するのに、プロジェクトKVは叩くという違いは、おそらく企業崇拝の信条から、円満退社し企業に媚売ってない限り退職後の類似作品制作は許さないという思想によるものなんでしょうけど、奴隷根性と言わざるを得ないです。敵対的退社をしても退職後に類似作品作る権利はありますし、そういうひたすら権力側や企業側の顔色を窺わなくては個人の権利を認めないという発想が、どれだけ人権をないがしろにしてきたのか。

■オタクの悪い部分が全部出た

 正直、プロジェクトKVとブルアカ周りの問題については

  • 権力者や企業側を徹底崇拝し、功労者である個人のクリエイター労働者を全く守らない(思考回路がブラック企業のアジア的発想)

  • コミュニティを去った者には容赦しない(裏切者扱い)

  • 法的に問題がないその人自身のアイデアに対してすら、パクリだなんだと騒ぎつけて炎上させる

 という、オタクの悪い部分が全部出たような感じがしています。
 法的に問題がない以上、ポリコレ棒で叩いて作品発表を潰すソーシャル・ジャスティス・ウォーリアーの方々と何が違うのか、理解できません。法的に問題がない事を知りながら「責任が」「倫理観が」と騒いでる方もいましたけど、一番無責任なのは自社作品の根幹になるようなアイデアを出した従業員に競業避止義務を課す事すらできなかった企業側では?

 クリエイター労働者の保護が第一であり、退職後に制限を課せるほどクリエイターを重用する事を懈怠した企業側が真っ先に悪いという、クリエイター労働者保護視点のスタートラインに、まず立ちませんか?

 正直、日本、というか韓国中国含むアジア圏での労働者の人権保障に関する意識の低さを痛感する結果となりました。そもそもプロジェクトKV炎上のスタートラインが「企業に離反したクリエイターに対する、企業側の内通者からのリーク」というのがまず終わってます。スタートラインから、企業内で裏切者をリンチするために始まった炎上なんですよこれ。そんなものに加担して退職者を叩くなんて…。発想がブラック企業そのものですよ。

 法的に問題なくても「スジ」通さなかったライターが悪いとか、人道的にどーのとか、そういう理由で退職者を叩いてるあたり、マジで終わってんなという感想しかないです。労働者の権利守らない奴が一番人道的に終わってるんですが、発想が反社と同レベルなんですよ。

 犯罪じゃない行為を根拠なく犯罪だと吹聴する事の方がよっぽど名誉棄損罪という犯罪事実になるんですが、自分のやってる事分かってるんですか?

 この手の問題で企業側を崇拝してそうな人達がよく持ち出す「最強任天堂法務部()」ですら、ティアリングサーガ訴訟で著作権侵害部分につき敗訴しています(唯一、タイトルがファイアーエムブレムと紛らわしかった部分で不正競争防止法違反を問われただけで、タイトルをティアリングサーガに変えたので殆ど問題ありませんでした)。いかに企業側にとって部の悪い話かが分かると思うんですが、それでも訴訟チラつかせるのはもはやSLAPP訴訟に等しいです。法的に勝ち目ないのに大企業の訴訟圧力で退職クリエイターの創作の自由を不当に奪うような行為を、よりによってオタクが追従するんですか?

 盗作だ何だと騒ぐという事は、ブルアカの世界観について、そこまで騒ぐほど重大な財産だと認識してるものと思われますが、それほど重大な財産を作ったクリエイターに対して、競業避止義務を負わせられるほど重用しなかった企業側を、なぜ批判しないのか、なぜ退社した方が批判されているのか、理解に苦しみます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?