大魔女が選んだもの ケダモノに遺したもの~雨宿りのカエルのエチュード今更感想~
賢者は知っています。
全てを、なんて傲慢な事は言いません。
ですが、変えられない未来の一端を賢者は知ってしまいました。
双子先生が告げる、逃れられぬ運命。
外れない予言……例えば、
孤高の魔王が唯一愛した中央の王子の死。
そして
大魔女チレッタの置き土産の、末路。
『チレッタが次に生む子は、
南の魔法使いを全滅させる。』
この受け入れ難い予言を賢者は始め、『賢者の南の魔法使い』のことを指していると思っていました。この時点で、一日寝込むくらいには落ち込みました。
よりにもよって、優しくて、健気で、他人思いのあの可愛いミチルが、大好きなはずの兄様を含めた三人を亡き者にしてしまうなんて。と。
でも。
そうじゃなかった。
『南の魔法使いを全滅させる』。
多分、これは、南の国に住んでいる、本当の意味で南の魔法使い『全員を』、言葉通り滅ぼしてしまうことを指しているんだと。
最近もう一度スノウとホワイトの話を読み返した時に気がついてしまいました。
賢者は三日三晩寝込みました。
何で、どうして、あの子が。
いや、分かってはいた。
ただのキラキラ元気っ子ちゃんキャラはcv村○歩じゃないんだよ。彼がカバーボイスするキャラは何かしらヤバいって分かってた。(ネタをぶっ込まなきゃ生きていけない病。)
まぁ御託は置いておいて。
その設定が出た当初(メインストーリー1部 16章 予言の子 参照)は、三日三晩寝込んだは寝込んだけれどもまだ言う程まほやくの全体像というか人間関係(人間ではなく魔法使いですが)というかそれぞれの因縁について噛み砕ききれていないところがあったんですよね。
だから、大魔女チレッタの二番目の子どもが予言を与えられていることも、その大魔女を北の魔法使いである、最強の魔王オズに次ぐ強さを持つミスラが師事していたことにも、そんなミスラがした約束にも、引っ括めたそれらの関係性も、その重さを測りかねていた。
そんな時。
こいつが我が身を襲いました。
いや。
都志見先生軽率にプレイヤー殺してくるやん。
このストーリーで、盗賊エチュで完璧に沼に落とされていた私は沼の最深部に沈められました。悔いはない。
まず、確信に触れるのが勇気がいるので個人的にこのストーリーの中で大好きだった我らがボスの言葉を掲げときますね。
そういうとこ。
これが私賢者が愛してやまないこの男の死生観であり、某飯屋が好きで堪らないのに隣で歩くと息が詰まるところ。
他者とともには生きられないはずの、この世界と繋がって生きることに向いていない筈の魔法使いで、しかも唯我独尊の北の魔法使いでありながら、何百年も続く盗賊団のボスであり続けられたのは、こういう考え方が出来るからなんだと。格の違いを見せつけてくる……
ふぅ。
閑話休題。
では、問題のシーン。
もとい、賢者大号泣シーン。
これはきっと、ミスラが言うから心に刺さるんだと思うんです。
魔法使いも人間も、数え切れないほど殺めてきて、獰猛で、学もマナーも理性も無い、誰よりも野性的なケダモノであると同時に、魔法舎にいる誰よりもある種、迷いがない点で言えばあのリケよりも無垢で、本能的で自分に正直で自分を誰よりも信じている彼の、飾り気のない言葉だから。
初めは永久凍土の底に封印するとかなんとか突拍子のないことを言っていた彼は、このエチュードから、長い長い時間をかけてルチルの思いと計り知れない優しさに触れて、ミチルの気遣いと憧憬を受けて、彼自身も知らない内に二人はただ約束で守らないといけない存在ではなく、居なくなったらなったでちょっと寂しいから護ってやりたい存在になりつつあるんだと、沢山のエピソードを経てこの二部に辿り着くまでに感じました。
きっとそれにミスラが気がつくのは随分先で、それはもしかしたら、最悪の場合、喪ってからなんてこともあるかもしれない。
でももしそれが少し早かったら。
ミチルが、ルチルを含む南の魔法使いを全滅させそうになったとき。
片方が死ねば自分の魔力は失われるというペナルティを負っている中、どっちを取っても絶体絶命の状況で、何よりも重要だったはずのそのことよりも、なぜかさらに大きく胸の内を占める感情を自覚したなら。
その時ミスラは、咄嗟にどんな行動を取り、どんな言葉を紡ぐのか。
きっと彼はこれからもずっと、彼自身にも周りにも良くも悪くも、ただ誠実で有り続けるから、それが裏表のないミスラの答えなのだと賢者は信じられる。
そのことがどうしようもなく愛おしくて、どうしようもなく辛い今日この頃。
彼が師のように、同志のように慕い、妹のように大切に思っていた大魔女が死の淵に立たされた時に選んだのは、確かに我が子だったのかもしれない。
でも、彼女がミスラに持ちかけた約束には、純粋な、自分の代わりに我が子を護ってやって欲しい気持ちとともに、そんな我が子と同じようにとはいかずともずっと小さな頃から傍で見てきた、情や人々の営みを知らない魔法使いの青年が、自分が居なくなっても独りきりに戻ってしまわないような何かを最期に遺したい、そしていつか愛を知って欲しいという親心のようなものがきっとあったのでは無いかと賢者は思っています。
そうでいて欲しいと願っています。
…なんでこんなにまほやくって重いんだろう。
激重感情の矢印多すぎて賢者潰れてしまう。
世界一幸せな圧迫だな……それはそれで。
語っても語っても語り足りないので定期的に吐き出したいと思います。
それではまた。
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