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一千文字映画評

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2022年6月の記事一覧

【一千文字評】ニューオーダー - 秩序化する暴力の段階的進化

『ニューオーダー』を1本見れば、様々な暴力のバリエーションを見ることができるだろう。 メキシコの気鋭ミシェル・フランコの新作は徹頭徹尾、暴力が充満した現代の寓話だ。 幸福そうな富裕層家庭の結婚式から始まり、唐突な暴力の介入。市民たちの鬱憤が爆発し起こる暴力的市民革命。そして新政権が生まれ、社会状況は変化していき…という話ではあるのだが、見ている間は細かい話はわからない。 描かれるのはその渦中にいる人々を支配する暴力についてだ。 そのため寓意性を高めた現代のおとぎ話のようで

【一千文字評】犬王 - 美と凡庸、醜とユニーク

実在したとされる猿楽師、犬王。 湯浅政明を中心に松本大洋、野木亜紀子ら現行のドリームチームが結集し、彼の物語をアニメーションで描く。 「物語を拾い、語り継ぐこと」について、その表裏一体として「語られなくなれば、忘却される」ことをテーマに据え、それが「犬王」という今や忘れ去られた人物の生涯を描くこの作品そのものと一致する。その意味で非常にコンセプチュアルな作品だ。 そしてなにより、この話をロックミュージカルにしてしまう大胆不敵さ、奇想天外さこそが最大の魅力。とんだ飛躍でありな

【一千文字評】トップガン マーヴェリック - トム・クルーズ、移動性のスター

トム・クルーズは移動性のスターだ。 彼は一点に留まることなく、常に運動し、移動し続ける。そのフィルモグラフィは、彼の移動してきた軌跡だ。 トムを正真正銘のスターへと推し上げた『トップガン』は最初にして移動性の極地だと言っていい。彼が演じたマーヴェリックは、空をも切り裂くスピードの世界を追い求め、そのためなら容易に命をも危険に晒す無茶な若者だった。彼が操るバイクやF14戦闘機は男性的な直線軌道を描き、その姿が世界中を虜にした。 『トップガン』がそうであるように、当初のトム・