埼玉県営の水上公園での水着撮影会中止騒動について。その13「行政不服審査申し立ての結果採決について。」

さて、水着撮影会の件の続きです。

2023年(令和5年)10月23日に埼玉県知事を相手に申し立てた行政不服審査について、その採決が出ました。

今回は「行政不服審査」の申し立てた顛末の整理と分析、解説を行いたいと思います。
ひとつはもちろん、今回の申し立てについての反省を行って今後の参考にしたい、という点ですが、もう一点として「『行政庁の公権力の行使』に対する不服を行政機関に対して申し立てる手続」である行政不服審査を今後新たに行う場合の参考事例となれば幸いである、と考えるので記録を残しておきたい、という事からです。
実際「救済三法」の他の二法とされる国家賠償法や行政事件訴訟法での手続きに比べて「行政不服審査法」に拠る手続きは比較的一般人の行うハードルが低いので、ぜひ今後ナニカがあった場合に生かしてほしい、と思うのです。

なにせ行政不服審査の申し立ては基本無料なんで。
あと審査申し立てには「不受理」の規定が無いので、刑事告発などと違って形式に従って申し立てれば相手方行政府は不受理にできません

こちらが「審査申立書」で請求した「審査請求に係る処分の内容」です。行政不服審査法では審査請求の申し立ては「処分のあったことを知った日の翌日から起算して三月」とされています。
共産党が埼玉県庁に申入れをして即日主催者へと「撮影会の中止」の打診を行ったのが6月8日でしたので、ざっくり考えれば9月の第一週が申立ての期限である、という訳です。

なので手続きに手間取って時間切れなどという無様を晒さないに様に一週間はクリアランス(余裕)を取る事とし、申立書の提出期限を8月末と定めました。

処分直後の6月あたりの状況は、関連する主催者やその周辺から伝え聞く「水着撮影会が中止となった経緯」や報道などしか情報がありませんでした。
個人が「憶測」や「お気持ち」を述べた情報はSNSなどを中心に拡散されていましたが、根拠となる情報が無い話は基本的には信頼に値せず役には立ちません。正直参考となる意見もほぼ無い状態だと考えていました。
なので、

①実際に指定管理者から主催者へと行われた「行政処分」の正確な把握
②「処分」が行われた背景や周辺状況の確認
③行われた「処分」がどのような経路や権限、根拠法によって
 指示され執行されたのかの確認

以上の3点についての情報収集と整理分析が、提出期限の8月末までに行うべき作業として定めた次第です。

①については、当初の情報は「水着撮影会にプールが貸せない。今後も貸さない方針である」という情報が主催者サイドから出たのが発端の情報でした。これによって6月8日に共産党埼玉県議団が埼玉県庁へと申入れを行った事が確認され、数日のうちに報道が成された訳です。

県営プールの利用については「施設の使用許可処分」が当然あった、と考えられますから、指定管理者が「使用許可処分の取消し」を行ったのであろう、と考えられた訳です。
誰がどう言い訳をしようとも状況的に共産党の申入れが処分の引き金になった事は明白なので、申入れを受けた埼玉県庁の都市整備部(指定管理者の管轄部署)が「県知事の補助機関」として指定管理者に何らかの指導を行ったという事になります。

申入れ翌日の6/9(金)の県知事のTweet。世間へと出ている情報はこの程度のものだったので、「許可しない」というのが法的な根拠に拠る指導なのか、強制力の無い「お願い」としての要請を行ったのかの確認などが必要である、と考えた訳です。

こちらは埼玉県庁都市整備部(指定管理者の管轄部署)へと行った質問の回答メールよりの抜粋です。報道やSNSなどで足りない情報について、埼玉県庁および埼玉県公園緑地協会(指定管理者)へと数度、この様なメールで6月から7月にかけてやり取りをし回答を得ています。

こちらは県公園緑地協会から8/25に受け取った問い合わせの回答メールの抜粋です。
6/8(木)の時点で「プール使用の取消処分」がされたと考えられる主催者は6者ありましたが、そのうち2主催者は「そもそも許可申請書が未提出」だったことが判明しました。残りの4主催者は許可申請書が提出されていた事は判明しましたが、この時点でも「どの主催者に『使用許可処分』が出されていて、どの主催者にはまだ許可処分がだされていないのか」は判然としない状態でした。

ある程度の状況整理ができた7月下旬には埼玉県庁都市整備部(管轄部署側)と県公園緑地協会(指定管理者側)にそれぞれ「公文書開示請求」を掛けました。
法で定められた開示の期限は「14日以内」なので8月第1週には開示がされて8月末までに整理と準備ができる、という目算でしたが、ご覧の通り開示は延長されそれぞれ12月末と10月末までとなってしまいました。
当然ながら9月第一週の「審査請求の期限」には間に合いません

つまり、水着撮影会について「どの主催者がどんな処分を執行されたのか」については判然としないままの状態だという事でした。なので、ここで利用したのが行政不服審査法の第二十三条でした。

法第二十三条は審査請求書が提出された後、書類に不備があった場合に審査庁(提出された側)は「補正」を命じることを定めた条文です。
総務省の通達によれば「審査請求が不適法であっても、審査請求人が審査請求を行う意思が明確であれば、審査請求書の提出を受けることを拒むことはできない(法には審査請求を不受理とすることを認める規定はない。)」とされています。
つまり、多少良く分からない申立書を出されても、審査庁はやさしく聞き取り聞き出して「申立者の意図」を組んであげて受理しなければならないのです。書類不備なら門前払いが日常のお役所でこれはかなりの親切設計といわざるを得ません。

なので私は「6主催者の一旦許可された一旦許可された使用許可処分に対する使用許可取消処分」を対象処分する「処分取消」を求めた訳です。

こちらは「審査申立書」の結論部分からの抜粋です。
いくら親切設計の制度でも、あまりにおバカな申立てだと「読まずに却下」されたら嫌なので、ご覧の通り判明している事項については付記をしました。
結果、6主催者も居たのに「処分取り消し」を求められるのは1主催者のみとなってしまいました。状況によっては全滅の可能性もあったので、ギリセーフといったところでしょうか。


「費用がかからない」「審査申し立てに基本的に不受理は無い」という点は一般市民にとっては使いやすい制度だと思います。国家賠償や行政訴訟などでは弁護士を立てねば無理ですので、費用もン百万クラスでかかってしまい一般市民には利用不可能な制度だからです。

しかし公文書を開示したり、行政への問い合わせなどを行うと「審査申し立て期限」の3ヵ月はあっという間であり、正直足りません。
「行政不服審査」の申し立ての直近の事例を見ても生活保護法での申立てがほとんどで、要するに「補助金がもらえない」などの事例がほとんどでした。行政不服審査法はそういった「目先の行政処分」への異議申し立ての為の設計となっている法律あって、今回の様な「資料を取り揃えて不正を申し立てる」様な類の事例への対応は想定していない、と感じました。


こちらが行政不服審査申し立てに対する裁決書となります。

ご覧の通り審査請求は「却下」となりました。

「却下」とは「審査請求が不適法」であるとされるものであり、審査庁が内容の審理を行わずにいわゆる門前払いとした、という事です。

「審査請求が不適法である」とは「審査請求の対象とならない行為を対象としている」、「不服申立人適格を有さない」(自己の法律上の利益に関係のない処分を対象としている場合等)、「審査請求期間を徒過している」、「審査請求の目的が消滅している」(処分がすでに取り消されている場合等)など、形式的な要件を欠く状態の事です。

今回の申し立てでは「不服申立人適格を有さない」「審査請求の目的が消滅している」の2点でしたが、正直この採決理由は予想していました

なので不服申立書の「審査請求の理由」の冒頭で「審査請求人適格」を有すし請求人として適格である事をご覧の通り述べておいたのですが。

なので裁決書の2ページ目にも「審理関係人の主張の要旨」としてその旨はご覧の通り書かれています。

そして3ページ目からは採決の理由についてです。

理由1では「最高裁昭和53年3月14日第三小法廷判決」の判例を引用しています。この判例は「主婦連ジュース事件」と呼ばれる判例であり、行政書士の試験レベルでも出てくる判例です。
参考
裁判所「判例 昭和49(行ツ)99」 
裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan

「法制のもとにおける行政上の不服申立制度は、原則として、国民の権利・利益の救済を図ることを主眼としたものであり、行政の適正な運営を確保することは行政上の不服申立に基づく国民の権利・利益の救済を通じて達成される間接的な効果にすぎないもの」
公益の保護の結果として生ずる反射的な利益ないし事実上の利益であって、本来私人等権利主体の個人的な利益を保護することを目的とする法規により保障される法律上保護された利益とはいえない」
といったあたりが判例となっているので、公の施設の使用許可という「私人(この場合は主催者)」の利益を保護する「反射的利益」として「撮影会に参加する権利」が発生する私には「保護すべき法律上の利益が無い」という事になります。

うん。知ってましたw
判例はポピュラーなものですし、却下されるならばこの理由だろうなと思ってましたから。
「原子炉の周辺に居住する住民は、原子炉設置許可処分の無効確認訴訟の原告適格を有する」という「もんじゅ訴訟(平成1(行ツ)130 原子炉設置許可処分無効確認等請求事件)」の判例の方でワンチャン行けないかな、と思いましたが、やはり無理でした。

また採決理由2の「水着撮影会予定日の経過した場合の審査請求を求める法律上の利益について」では「最高裁昭和28年12月23日大法廷判決」を引用しています。
この判例は「昭和27(オ)1150皇居外苑使用不許可処分取消等請求」の事で、「訴えの利益は、申請にかかる使用期日を経過すれば喪失する」という判例です。こちらも行政書士試験レベルで出てくるポピュラーな判例なので、まあ出すならこれでしょうね、というものです。
参考
裁判所「判例 昭和27(オ)1150皇居外苑使用不許可処分取消等請求」
裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan

1、2の理由ともに、ぶっちゃけ行政不服審査請求を出した時から「まあこの理由で却下されるんだろうな」と予想していたものでした。そしてその通りに却下されたんで、特に採決の内容に不服はありません

という訳で、ご覧の通り却下採決が下った訳です。
正直、もうちょっと早く公文書の開示をしてくれてれば、全く違った切り口での申立てができたんじゃないのか、という気持ちはあります。

たとえばこちらは10月末で開示した公文書による、申入れのあった6/8(木)時点で開催予定だった水着撮影会の主催者の状況表です。

各公園では施設利用予定者の希望日が重なった場合は「抽選」で利用者を決定しています。「開催予約日」とはその抽選日であり、6月のプール利用の抽選はしらこばと公園では2月10日、川越公園では2月1日に行われたという事です。この抽選に当選すればいわば「仮予約」の状態となります。6月下旬に行う撮影会の申し込みが6/8時点でまだ2社申し込まれていなかったのはこの「抽選による仮予約」があったからです。

ご覧の通り「施設の使用許可の状況」「中止申入れの状況」「許可取消処分を執行した状況」などが表としてまとめられた公文書などもあり、こういった資料が8月末までに入手できていれば、行政不服審査申し立て書の内容も違ったものにできたのに、という気持ちもあります。

その6で審査申し立て書を提出した直後の状況をまとめていますが、裏で暗躍していた「■■■の●●●●」さんの存在もエビデンスが無かったので、正直当時の資料ではあれで精一杯でした。

3ヵ月という行政不服審査の期日もあり、また「一事不再理」という原則もありますから、今から再度申し立てる、といった事はできません。
つくづく「行政の適正な運営の確保」を目指す仕組みではない設計だなというのが今回の行政不服審査申し立てで思う事でした。


まあちょうど、10月末期限の県公園緑地協会(指定管理者)側の公文書開示が枚数で320枚ほど開示されましたし、12月末には埼玉県庁都市整備部(管轄部署)側からも追加で公文書の開示があるものだと思っています。

新たな資料の精査分析と公開はするつもりですし、資料を集める事で判明した事実を行政不服審査とは違う方法で生かすことを考えておりますので、
とりあえず現時点では「審査申し立てが却下されました」という報告となります。


では。

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