漫画読書感想文②「魔人探偵脳噛ネウロ」

※一部ネタバレがあります。ご注意ください。

 「好きなジャンプ作品を一つ紹介してください」と言われるほど困る質問はない。ジャンプ作品には好きな作品があまりにも多すぎる。その中から一つだけというのはなかなか難しい。それでも尚紹介するのであれば「魔人探偵脳噛ネウロ」だと思う。

 本作は松井優征の描くなんちゃって推理物漫画だ。ちょっと食い意地の強い平凡な女子高生桂木弥子の父親が何者かに殺害された。悲しみに暮れる彼女の前に現れたのは、魔界から来た脳噛ネウロという魔人だった。彼は「謎」を養分としており、人間界に「究極の謎」を求めてやってきた。さらに魔界道具という不可思議な道具を使い、彼は犯人を探し当てる。しかし、あまり注目されたくない彼は桂木弥子に探偵役を半ば脅迫に近い形でお願いする。そうして女子高生探偵桂木弥子とその助手脳噛ネウロの数奇な日常が始まることとなった。因みに「なんちゃって」をつけているのは著者自身が「推理物」の皮を被った何か、と表現したいたのでそう評した。

 本作の魅力の一つは、表現が非常に極端で分かりやすいことだと思う。犯罪を犯す人間の心理状態の「異常性」の部分をこれでもかって位にハッキリと描く。それはそのキャラクターの主張であったり、演出として描かれるキャラクターの風貌だったり、と読んだだけで「言いたいことは分からなくもないけど、いくらなんでも極端だろう」と思わせてくれる。例えば、食を通して人体改造しようとしてドーピングコンソメスープを作ったシェフの話はインターネット上のパロディなどでよく見かける。話によっては意外性のある人物が犯人で一気に風貌や雰囲気が変わるので読んでいて飽きないし、演出や構図もかなり独特なのでそういう部分も話に惹き込んで来る要因だと思う。特に犯人でなくても特徴的な性格をハッキリと描いてくれるのでそういう面でも面白い。

 また、本作を読んでいて飽きないのは「例え話の表現」が一々面白い部分にもある。話の中で何某か難しい概念や関係性について説明するときに、その補完として「例えの絵」をよく入れてくるのだが、これが面白い。大体の例え話が何かしらの有名な作品のパロディになっているので元ネタが分かるとクスリとしてしまう。しかもネタで終わらせずにちゃんと伝えたいことの説明になっている辺り作者の頭の良さが光るなと感じる。

 後は、主人公の桂木弥子の成長を楽しむ、という側面はこの作品全体に通じていると思う。彼女はハッキリ言って巻き込まれた人間だ。ある種の利害関係はあるがネウロと出会うことがなければ今頃フードファイター女子高生として名を馳せていたであろう人物だ。彼女はネウロのドS行為にツッコミを入れながら渋々と事件について行っては、探偵として犯人を指し示す役割をこなす。序盤は謎やトリックを解くことはできないので、現場で好き放題するネウロのツッコミ役の様に振る舞っている。しかし、話が進むに連れて多くの事件、多くの人間に触れる内に彼女は「人間に対する観察眼」を養っていき、事件を解いてスッキリしているネウロを横目に事件関係者へのフォローなどをしていくようになる。物語の中盤に差し掛かるある大事件(僕はこの事件が一番心に刺さりました)でその素質が開花し、終盤に向かっていくに連れ確かな力として養っていき、最後にはネウロと共に歩んでいける程になる。ジャンプ漫画の主人公としては普通のことかもしれないが、一見するとトンデモ推理漫画でギャグみたいな内容だろう、と思っていたら、「まさかここまで丁寧に描くと思わなかった」と心底思わされた。

 この作品を初めて読んだのは大学生の頃だったが、今読み返しても面白いと感じ、こんな事も描いてあったのかとか、新たに発見する部分があって未だに飽きない。そういう不思議な魅力に包まれた作品だなと思いました。


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