研究レポートNo.54【なんで言わない?】
K籐さんの強烈ビンタを目の当たりにして以来、来る日も来る日も彼女が張った強烈ビンタのシーンを反芻していた。
俄然K籐さんに興味を抱いた私は、K籐さんに関する情報を調べた。
【K籐さん情報】
・花屋の娘。
・お姉さんが超ヤンキー。
・バレーボール部。
ぐはぁ!
あの強烈ビンタを放てた理由が判明した。
そう、彼女は女子バレーの選手なのだ。
貰いたい……K籐さんからビンタを貰いたいっ!
今ならば瞬く間に交渉するだろうが、当時の私はいかんせん引っ込み思案。
話したことすらない女子に交渉など出来る訳もない。ならば、せめて──
某日、私は黒電話の目の前に鎮座していた。
ジーコ……ジーコ……(ダイヤルを回す音です)。
トゥルルル──
トゥルルル──
『はい、K籐です』
「もしもし、○美さんいらっしゃいますか?」
『あたしですけど』
「僕、○○中学一年の○○と申します」
「なんですか?」
「この間、下校時間ビンタしてましたよね?」
『は? してないけど』
「いやいや、ビンタしてたじゃないっすか」
「してないって言ってんじゃん」
私が架空の一年生を騙り、K籐さんに電話した理由──
それはK籐さんからビンタをした話を聞きたかったこと、そしてK籐さんに『ビンタ』と言ってほしかったからだ。
「ビンタしてましたよね?」
『だからぁ、してないって言ってんじゃん!』
ぐわあああぁぁぁ────! コイツビンタって言わねぇ────!
当時の私は、女の子がビンタというワードを言うだけでドキドキしていた。
K籐さんにビンタを貰うことが出来ないのなら、せめて『ビンタ』と言ってほしかった。
この後、「ビンタしてましたよね?」『してないって!』の押し問答となり、結局頑なにビンタとは言わず、電話を切られてしまった。
翌日、休憩時間にK籐さんは「昨日変な電話かかってきてさぁ」と、大きな声で話し始めたが、そこでも『ビンタ』とは言わなかった。
その後、彼女は友達と共に一年生の○○を探したみたいだが、架空の生徒ゆえ、勿論見つかるはずもない。
結局、K籐さんの口からビンタというワードが出ることなく卒業してしまった。
それから数年後、とある飲み会──
ふとK籐さんのことを思い出した私は、友人に彼女の話題を出した。
その友人はK籐さんと同じ高校に通っていたらしく、仲が良かったという。
私は友人からK籐さんの携帯番号をGETした。
中二の頃のリベンジを果たすために──
高校時代もバレーを続けていたというK籐さん。
ビンタは貰えなくとも、K籐さんにビンタと言わせたい。
私の目的はその一点に絞られた。
帰宅後、私はK籐さんに電話を掛けた。
「はい」
「突然すいません、中学時代に同じクラスだった○○です」
私はK籐さんに携帯番号GETの経緯を饒舌に説明、世間話から懐かしの話までトークを楽しんだ。
私はそのノリで、自然に『あの頃のビンタ』について聞いてみた。
するとK籐さんは──
『う~ん、ビンタだったかな?』
言った……ついにK籐さんにビンタと言わせた!
更に、変な電話についても質問──
『やけにビンタにこだわる子だったよ、ビンタビンタビンタ……』
また言わせた!
シャー‼
かくして、長年に渡る私のミッションは完遂した。
続く
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