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ブエノスアイレス10日目 2006/2/19(日)

 ブエノスアイレス滞在10日目に書いていた日記である。いよいよボンボネーラでボカーサンロレンソの試合を見に行く。安宿の隣人、ヒデさんが買ってくれたチケットは最も安いゴール裏の席。流れでボカの応援団が陣取るアウェイ側2階席に入り、ボカの試合の観戦ではなく応援を行うことができた。試合後は安宿で親しくなった人たちとみんなで遅くまで食事、楽しかったブエノスアイレス滞在の最後の夜を過ごした。

サンテルモのマーケットを散策

 7時半に腹痛で起きてトイレに行き、また寝て11時20分に起きた。洗濯したりして12時半に宿を出てサンテルモへ。日曜のマーケットが賑わっていていいなー。今はレサーマ公園にいる。ボカの服を着た人を見かける。今日は試合の日だ!

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 ここに来るときに路上駐車している車の見張り役のおっさんに話し掛けられた。横浜マリノスを知っているようだ。よく分からないけど最後に金くれないかと言われたので、俺たちアミーゴだろとごまかして別れた。その後は露店でミラネッサを食べて、ゆっくりサンテルモを散歩。楽しかった!買い物客で賑わい、ストリートミュージシャンも楽しい演奏を繰り広げる。ビートルズを歌う2人組と横に座ってそれを聞く女の子、バイオリンを入れてゴキゲンなカントリーミュージックのバンド、ウォールペイントのアーティスト、そこら中に楽しい雰囲気が漂っている。日曜日のサンテルモは特にいいなー。

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いよいよボンボネーラでボカの応援を行う 

 15時前に宿に戻り、ヒデさんと合流。アメリカ人のおじさんジム・ブレインとソンにバナナをもらった。そして二人で出発。アンブルゲサ(ハンバーガー)屋に行き、29番のバスでボカへ!まだ時間が早いからか車内にボカファンは5人くらい。そして日本人の俺らがボカのユニフォームを着ているからかよく人に見られる。空き地の前で下車、もう既にボカファンだらけだ。露店も出ているし、いつもとは全然違う雰囲気。馬に乗った警官もいるし!歩いているとモネダ!(カネくれ)と言ってくる男登場。断るとタカハラ!と笑ってきた。後味が悪くないのがアルゼンチンの良いところだ。

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 入場の列に並ぶ。目の前の男の背中にはディエゴのタトゥーが。ボカのエンブレムのタトゥーを入れた男も数えきれないほど多い。元々男女問わずタトゥーが多い国だけどこれはすごいな。そして1回目の荷物検査、手ぶらで来ているがライターや紙など燃やせるものはダメなので、ポケットに入れていたメモ帳が引っ掛かりそうになる。その後2回ほど荷物チェックがあった。持っていたペットボトルは回収。急いで飲んでいると、チーノ早くしろ!と取り上げられた。チーノ(中国人)はアジア人の総称だから別にいいんだけど少し気になる。そして入場ゲートへ。おっさんが2階に行っとけ!と言うので2階へ。するともう結構埋まっていた。アウェイ側の2階席が応援の中心らしく、俺らは左側に行ったけど右側が特に中心みたいだ。ヒデさんが言うにはマリファナの匂いで一杯とのこと。周りの奴らはとにかく柄が悪そうでビビる。すると一人のこれまた悪そうな男が登場。カメラは気を付けたほうがいいぞとか、外国人は好きだ、ボリビア人以外はな!とか言って意外にいい奴かと思っていたら、コカはいるか?と聞いてきた。コカ?コーラ?と思っていたら、ヒデさんによるとコカインのことらしい!コカインの売人がスタジアムにいるのか!と驚いた。

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 しばらくすると選手登場。アルゼンチンでは試合前に練習をしない。ピッチの感触を確かめながら歩く感じだ。今日はなぜかトロフィーを持ちながら歩いている。そしてゴール裏の前で記念撮影をしていった。その後はチアガールが登場。3人がボカの旗を持っていてほぼ水着だ。その後ろにも別の衣装の人が並んでいる。あまりやる気の感じられない歩き方含めて良かったな。更にチアガールは応援歌に乗せて謎の踊りを開始する。スタジアムのBGMでなく応援歌の歌に合わせて踊るなんて札幌では考えられないな。こっちの方が好きだ。

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 そして選手入場!やっと歌に太鼓が参加する。太鼓とインチャシンバル、リズム感が他の国とは違って最高だ。まずはコーヒールンバ、俺も手を振りつつ歌う。ボンボネーラのゴール裏でボカの応援に混じるなんて最高の経験だ。信じられない。隣の男(肩にボカのタトゥーが入っている)はものすごい真剣に試合を見ている。そして自分のタイミングで声を張り上げ手を振る。自分のタイミングでやる、これが重要だと思う。このタイミングが自然に揃った時にものすごい迫力の応援が生まれる。そんな時は反対側のゴール裏、バックスタンド、メインスタンド全体の観客が応援を始める。右隣の男は時々自分の意見を友人に語る。悪そうな顔をしているが真面目だ。その男は俺に時間を聞いてきた。日本人相手であることを特に気にせず、普通に聞いてきてグラシアスと親指を立てる。この自然な感じが心地良い。

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 メインスタンドの観客も熱狂的だ。ライン際のプレーでは身を乗り出して見ている。ゴール裏は無数の煽り役の男達がいる。試合は見ずにこちらを向いて手を振りながら煽る。一人「ボカ」とカタカナで書かれたTシャツを着た男がいた。2000年のトヨタカップに関連しているのだろうか。ボカと日本は仲間だ。歌は色々あるけど浦和でも使っている歌など知っている歌は歌えた。知らない歌も覚えて歌った。時には飛び跳ねて歌う。

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 試合はボカがなんかしっくりこない。11番のコロンビア人がブレーキ。14番の若手パラシオがいないのも大きいようだ。サンロレンソは鋭いカウンター。そしてPKゲット、なんとキーパーが蹴ってゴール。そして奴はあろうことかボカサポーターに向かってガッツポーズするという挑発を!それを見て激しいブーイングとペットボトルが投げられる。すごい光景だ。0-1で前半終了。ハーフタイムにはまたチアリーダーが登場。今度は流れる音楽に合わせて踊っていた。

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 そして後半、今度はサンロレンソのGKがこちら側に陣取る。当然のことながらものすごい数のペットボトルが投げ込まれる。中には中身入りのファンタも。なのでGKはゴールに近寄れない。そしてやっとパレルモが相手のGKと一緒に来てボカファンに落ち着くように言って少し収まった。

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 このトラブルで10分遅れで後半開始。その後も何かあるたびにペットボトルが投げ込まれる。後半ボカは11番に替えて20番を投入。20番が右サイドから突破してチャンスを作るもなかなかうまくいかず、逆に2点目を奪われる。そして終了5分前くらいになってチャンスが生まれ、ボカファンの空気が変わった。日本では歌われていないがよく聞く歌だ。それまでとは違って本当に全体が応援する。心底興奮したし、この場所に居られて本当に良かったと思った。サンロレンソファン以外、スタジアムにいる全員が手を振りながら歌い応援しているのだから!歌詞の意味は分からないけれど、とにかく気持ちがこもっていることが分かる。そして右からのクロスをパレルモが頭で落とし、10番インスーアのゴール!そしてそのまま同じ歌を歌い続ける。なんと1-2のまま試合が終わっても誰も気にせず同じテンションで同じ歌をずっと歌う。誰も怒ることなく、選手がピッチを去るまで歌いながらずっと鼓舞し続けた。これがボカなのかと心の底から感動した。

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 ヒデさんによると、ボカの選手に対してプータ!とか言うのはそれをきっかけにスタジアムが盛り上がって欲しいから敢えて言うらしい。すべての行動には理由があるということだ。自分が死んだらボンボネーラのゴール裏に骨を撒いてくれという人も多いらしい。ボカはそれほどの存在なんだな。負けたのは残念だったが、ものすごい経験をした。終了5分前からボカのゴールを導き、負けた後も選手が去るまで後押しし続けた応援が忘れられない。

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 2階席の観客がゲートに出るまでしばらく待機。なぜかまだ太鼓は鳴り続ける。そして退場。周りは男ばかりだ。ほんの少し女性がいる。歩いてコンスティトゥシオン駅まで向かう。道行く人3人に試合結果を聞かれた。ボカが負けたと聞いてみんな悲しそうだ。

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ブエノスアイレス最後の夜

 スブテのE線に乗ってコリアンタウンにあるソンの働く韓国料理店へ。喉がすごく乾いていたのでビールが美味かった。そしてチヂミ、春巻きみたいなもの、キムチ、辛い蕎麦みたいなもの、最後に日本のもりそばを食べた。途中でソフィーも合流。ヒデさんはペルーやエクアドルで現地の彼女がいたらしい。言葉も上手くなるわけだ。ビールのおかげでテンションが上がって、ソフィーともやっと打ち解けたと思う。言葉がポンポン出てきた。彼女はフジロックを知っているらしい。60年前の西ドイツのカメラを買ったようで見せてくれた。ロモみたいなトイカメラのようなものらしく、韓国で人気と言っていた。そしてそのカメラで写真を撮ってもらい、メールアドレスと住所を教えた。彼女はカタカナが書ける!俺の住所にフリガナを振っていた。

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 その後23時頃に宿までタクシーで戻る。ソフィーがサンティアゴで泊まった宿のことを聞く(ペルー→チリ→アルゼンチンと旅している)。水原三星ブルーウィングスのことを話したらYou are オタクと笑われた。一旦宿に戻って4人で外で飲むことにしてサンテルモのバーへ。いい雰囲気の店だ。酒のおかげもあってかだいぶ英語にも慣れた。バンドをやっていることを言ったらソフィーが興味を持ったらしくバンド名を聞かれた。変な名前だけどと名前を告げたら私はその名前好きだよと言ってくれた。ジャンル分けできない音楽だと伝えた。将来のことを2人に聞くと、ソフィーは英語の学部にいて、将来は映画ディレクターになりたいらしい。だから映画をよく見に行っているのかと納得。ソンはインドかチベット、貧しい国で先生になりたいらしい。その為に色んな言葉を勉強中。確かに彼女はスペイン語をよく話す。次は中国語習得を目指している。ヒデさんは料理学校に2年間通い、最終的には日本に戻ると言っていた。てっきりこっちにずっと住むのかと思っていた。ちなみに林さん(同じ階のおじさん)は水曜に日本に帰るらしい。タンゴの先生だしな。

 店を出て部屋に戻って写真を撮り、政治について話す。二人とも台湾は一つの国だと言っていた。もっと英語力があれば俺も色々話したかったな。二人は韓国は先進国だと思っていない、北朝鮮の問題もあるしと。さっき行った韓国料理レストランのオーナーは堅気の目をしていなかったとソフィーが言っていた。シックスセンスで感じたと。ソンも多分彼はマフィアだと言う。韓国で破産してここで借金してレストランを始めたが、名目上はレストランでないから看板を出していないらしい。もちろん違法。他にもビジネスをやっていて偽ブランド品を売ったりもしている、コリアンタウンの有名人らしい。ブエノスアイレスに渡って1年のビクトルという男。そんな話をして2時半に解散。ソンはメールアドレスのところに別れのメッセージを書いてくれた。読んでいるとやはりブエノスアイレスを出発することが悲しくなった。そして明日の出発の準備をして、4時に寝た。

 念願のボカの試合を応援席で実際に応援しながら見ることができた。試合はボカの負けだが、終了5分前からのスタジアム全体での応援によって流れが作られボカの得点が生まれたこと、そして1-2で負けた後も結果に対しては誰もリアクションすることなく、選手たちがピッチを去るまでそのままのテンションで応援が続いたこと、これが応援の力で選手を後押しすることなのか、と体感し深く感動した。

 この試合を含めて、私は過去に外国でイタリアで1試合、アルゼンチンで10試合、バングラデシュで1試合、ブラジルで2試合、マレーシアで1試合、イングランドで1試合、インドネシアで2試合の合計18試合を観戦している。ブラジルでの1試合はW杯の日本-ギリシャで、自国の応援を行う為に応援席で90分誰よりも大きな声で応援した。それ以外は基本的に現地のサッカーの応援や試合を見ることが目的だったが、このボカ-サンロレンソは唯一ゴール裏の応援席でボカのファンと共に声を出し、飛び跳ねて応援した試合だ。外国人の自分はあくまでお客さんではありつつも、試合の当事者としての感覚をも抱くことができた唯一の試合である。これまで外国で見た試合で最も印象深い試合はどれかと問われれば、間違いなくこのボンボネーラでの試合を挙げる。

 日記で書いている通り、アルゼンチンのサッカーファンは自分のタイミングで応援を行う。日本人のように90分フルで声を出すことはしない。太鼓が鳴っていても応援団の一部の人間しか歌っていないこともしばしばだ。2007年に日本で開催されたクラブW杯にてボカの応援席に行ったが、遠くアルゼンチンからやってきたボカファンは、友達と話をしたり売り子からビールを買ったりしている人も多く、90分ずっと応援しているのはほとんどが日本人だった。アルゼンチンで行われる試合でも歌がフルボリュームで歌われることはそれほど多くない。その代わりこのボカ-サンロレンソの後半最後の5分のように、ここぞというタイミングでは応援席のみならずスタジアム全体のファンが一斉に歌い飛び跳ねる。その雰囲気は言葉では言い表せないくらい熱狂的で美しい。

 スタンドが文字通り揺れる、スタジアム全体で繰り広げられる熱い応援はアルゼンチンでサッカー観戦すると1試合に何度か味わうことができるが、この試合が特別だったのはボカが負けた後も応援が続いたことだった。応援席にいたボカファンは、愛するクラブの敗戦を告げるタイムアップの笛を誰も気に留めていないように見えた。試合の最後にファンと選手が一体となって奪ったゴールの興奮そのままに、試合結果など気にせず選手たちをひたすら後押しする姿に衝撃を受けた。
 
 そしてここで経験したことを日本に帰国後、必ず札幌の応援に活かそうと決めた。単にこの試合のボカファンを真似て、負けた後も必ず応援を続けたいという話ではない。応援とは自らが持つ情熱を感じるまま表現するものだ、という気持ちの話だ。自分のクラブへの情熱を絶対的な自信を持って応援として表現する。そんな人間が大勢いたら、この日のボンボネーラのように美しく熱狂的な光景が生まれるのだろうと思った。

◆この試合のハイライト動画

◆3階席で応援していたサンロレンソの応援の様子

◆後半終了間際にボカのゴールを導いた際に歌われていた応援歌のメロディ
 ※歌詞はこの動画とは異なるはず


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