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ブエノスアイレス1日目 2006/2/10(金)

大学卒業と就職を目前に控えた2006年、卒業旅行の旅先は南米一人旅を選んだ。前年の夏休みに人生初の海外一人旅でバックパックを背負い、シリア~フランスまで一か月の陸路&海路の旅の成功に味を占め、今回は一か月かけて陸路で南米大陸を横断することにした。飛行機の都合が良いのはエアカナダでチリ・サンティアゴIN~ブラジル・リオデジャネイロOUT。地図とにらめっこして事前に考えた旅程は、サンティアゴからアルゼンチンのメンドーサを経由しブエノスアイレスへ。現地でサッカー観戦が目標だ。可能ならウルグアイにもショートトリップ、ここからは北上しパラグアイに入ってからアルゼンチンに戻りイグアスの滝を見て、ブラジルに入国しサンパウロを目指し、そしてカーニバル真っ只中のリオデジャネイロをゴールとする。2006年2月3日出国、3月4日帰国の一か月間の南米一人旅。ここではこの旅で最大の出会いと刺激に満ちたブエノスアイレスの旅日記をほぼそのまま記す。その後ブエノスアイレスには2010年、2018年と合計3回訪れている。リオデジャネイロは2014年にワールドカップ観戦で再訪。初めて旅した2006年以来、社会人になっても4年に一度南米を旅するとはこの時点では想像もしていなかった。

ブエノスアイレス到着

 メンドーサ18時半発、22時消灯。しばらく寝たけど寒さで目覚めた。寒すぎる。朝方4時くらいになんとか寝て7時に目覚めた。気付けばブエノスアイレス市内らしい。天気は曇り。雑然としたエリアを通り、走る車も古めかしい。しばらくするとリーベル・プレートのスタジアムが見えてきた。ものすごい大きさだ。遂にブエノスアイレスにやってきたことを実感。9時20分、スラム街の横を抜けてバスターミナル到着。バスの機内食では昨夜の夕食の後にワインが出たのがさすがアルゼンチンと感じた。メンドーサから一緒だった隣の席の17歳の少年(ラシンのファン)と握手をして別れた。

 レティーロのバスターミナルは活気に満ちている。外に出ても雑然とした熱気といった感じ。インディオ系の人も多い。駅を横目にサン・マルティン広場へ。テレビか何かの撮影をしている。そのまま目当てのビクトリア・ホテルまで歩くことに。もう一つ日本人バックパッカーにとってメジャーな日本旅館はドミトリーなのでやめた。街を歩いた感想、綺麗な建物も多いが混沌さも感じる。とにかく活気がある街だ。歩く女性の美人さはメンドーサの方が上かもしれない。

ビクトリアホテルでの滞在の始まり 

 11時くらいにビクトリアホテル着。チェックインしようとしたら早速日本人女性に声を掛けられる。ブラジルから降りてきて、これからチリ方面に向かうらしい。メンドーサについて少し話す。女性二人旅らしい。ここは3泊で1泊15ペソになる。1USドル≒3アルゼンチンペソなので1泊5ドルでシングルルームに泊まれる。アルゼンチンの物価は日本やアメリカのおよそ3分の1だ。ペソが弱い。とりあえず3泊はするけど、それ以上の滞在は後で決めたいとフロントの人に伝えようと思ったら横にいた日本人の男性がスペイン語で伝えてくれた。スペイン語を話せるなんて格好良すぎる。

 宿のおばちゃんに案内された部屋は道路沿い!最高だ。廊下もいい感じでいかにも安宿という感じが一発で気に入った。廊下の椅子にいた日本人男性にここ長いんですか?と話し掛けてみた。今日の俺はやる気がある。ビザやブラジルのことを聞き(やはりリオデジャネイロの宿はカーニバルの時期は空いていないとのこと)10分ほど話した。奥さんと二人で旅をしている30代くらいの男性、いい人だ。

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 考えた結果、今日ブラジルビザを取りに行くことにした。サッカーを見たいし。地下鉄に乗りサン・マルティンへ。今のところ危険を感じない。この街にいるのがすごく自然な気分だ。まずはアメックスでトラベラーズチェックを両替、300USドル分をアルゼンチンペソに替える。そしてブラジル領事館へ。写真も就活のもので問題なく、何とかビザ申請完了。その後銀行でビザ代金を振り込みオッケー。5日後の水曜16時に出来るらしい。

 次はレティーロ駅あたりでサンドイッチを買い、サン・マルティン広場で食べた。ここの広場ものんびりしていてすごくいい。ベンチに座るカップル、芝生に寝て日光浴を楽しむ人、みんな自然体だ。俺もしばらくのんびりする。おばちゃんに時間を聞かれたりするのも街に馴染む感じがして嬉しい。

 16時頃、歩いて文野旅行社へ。サッカー観戦について聞きに行く。担当者は日本人男性、スペイン語もペラペラで格好良い。聞くと今日も観戦ツアーがあるらしい!サンロレンソ-オリンポ。明後日の日曜日はリーベル-バンフィエルド。正直個人で見に行くのは怖いが、ここでサッカーを見ないのは旅に来た意味がないと考えツアー参加を決めた。本当は土曜にラシン-ベレスもあるらしいがなんとなくスルー。1試合あたりのツアー料金は40USドルなので、3試合分の120USドルはさすがにきつい。ちなみにボカの試合は来週らしい。ここまで来たらボンボネーラで試合を見ないなんて馬鹿だろうと思う。どうにかして個人で行ってみたい。ホテルからも近いことだし。旅行会社のオフィスのテレビではトリノ五輪の開会式を放送している。北半球は冬なんだなと実感。

 地下鉄に乗って宿に戻った。サッカーを見られるということでテンションが上がりまくりヤバい。やっと旅に出て良かったと心から思えた気がする。洗面台で洗濯をしてから、近くのスーパーで水とオレンジジュースを買ってまた宿に戻った。ベランダからはブエノスアイレスの普通の街角が見える。なんか得した気分だ。到着してまだ1日目だが、この街がすごく気に入った。無条件で肌に合う感じだ。想定している旅程上、これから6日間も滞在できると思うと嬉しい。居心地良さげな宿、独特の雰囲気を纏う街、最高だ。一見ヨーロッパ的だけど南米らしい熱気を感じる。

人生初のアルゼンチンリーグ観戦

 19時半にサッカー観戦ツアーのガイドが迎えに来た。握手して挨拶し車に乗り込む。他の参加者は4人、イギリス人カップル、スペイン語を話す男2人。みんな大人しい。リチョ(エメルソンに似ている)という名前のガイドがツアーの説明をしてくれる。全てスペイン語だが、なぜか大体理解できた気がした。サンロレンソの15番はアルゼンチン代表らしい。ところでお前はどのチームが好きなんだと聞かれ、ボカと答えた。「俺もボカだ」とリチョが一言、そしてガッチリ握手。今の所属選手ならテベスのことが好きだと伝える。

 車は高速道路を西に向かい、降りるとスラム街が見えてきた。「ここがファベーラだ」とリチョが説明、何故ここを通るのか分からないが、車のカーテンが閉じられている理由が分かった気がした。しかし一見先進国のようなアルゼンチンだが、東南アジアのようなスラムがあるのだなと実感。そしてサッカーをして遊ぶ子供たちも沢山いた。その後も強烈なスラムを見た。壁がない家に人が住んでいたりもした。こういうツアーでないと見られない光景。サンロレンソのスタジアムが見えてきた。この近くもスラム街っぽい。こんな所に一人で来られるわけがない。ツアーでないと無理だ。

 到着、ゲートをくぐり入場、メインスタンドへ。スタンドのサイドは青赤に塗られている。いかにも南米という感じのカンチャだ。20時に着いた時点では二軍?の試合をやっていて客もまばら、ゴール裏もバンデーラが広がっているだけで応援は無し。しかし徐々に観客が増えてきて、面白いのはガイドのリチョの態度の悪さ。前の席に足を乗せてパンフレットを破って紙吹雪を作っている。試合中も同じ姿勢で、声もドスが効いているしボカファンというのも納得だなーと思った。

 21時5分、試合開始。感動したのは試合開始までショボかったゴール裏にインチャが旗を振り、歌いながら入場してきたこと。一瞬にしてゴール裏が埋まった。メインスタンドの客層は若者から年寄りまで男達、家族連れ、若い女の子とそれぞれ。スラム街のチームと思いきや、金持ちそうな人もいる。しかし女性なんて見に来ないものだと思っていたけれども意外だった。応援は終始歌いっぱなし、90分間全く途切れない。正直言って雰囲気は昨年見に行ったサンシーロのミランの方が圧倒されたけれど、アルゼンチンの独特さも良い。

 前半の途中からはコーヒールンバが長く続いた。チャンスになるとメインスタンドでも手拍子、手を振りながら歌う人もいる。そして分かりやすく声が大きくなり、ゴール裏全体で飛び跳ねる。このスタンド全体で飛び跳ねるのは本当に圧巻。これぞ南米!という感じ。ノリの良い歌に変わった時とかのカンチャ全体の雰囲気はすごい。全員が試合の流れを分かっている。応援は上里の歌や東京の「立ち上がってみんなで歌おう~」とかもう一つくらい聞いたことがあった。あと面白かったのがキーパーの母親?が画用紙を持ってキーパーに大声で話し掛けて、キーパーもそれに応えているところ。その直後にフリーキックからサンロレンソが先制。前半は1-0、後半はオリンポが攻めるも結局2-0。試合自体は正直普通だった。大味な試合だった。でも雰囲気はやはり良い。メインスタンドでも展開に合わせて手を振り歌う観客、最高だね。車に乗り、24時近くに宿に到着。他の客とは終始話をしなかったけど面白かった。ますますボカが見たくなった。現在2時半、ブエノスアイレスいいなー!

人生初のアルゼンチンリーグ観戦はサンロレンソ、この12年後にサンロレンソの試合を再訪している。日記では"こんな所に一人で来られるわけがない。ツアーでないと無理だ。"と書いているが、12年後は一人で路線バスに乗ってしっかり自力で観戦することが出来た。人は成長することが出来る。この2006年に観戦した試合のゴールシーンをYouTubeで発見した。スタンドに空席が目立つ。日記でサンシーロの方が圧倒されたと率直に書いているが、対戦相手のオリンポはブエノスアイレスから遠く離れた地方都市の弱小クラブ、閑散としたスタンドもやむなしである。




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