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司法試験受験生が事例から考える、ステマ規制・第2問

ステルスマーケティング(以下、「ステマ」)とは、消費者に広告・宣伝とわからないように商品・サービスの利用を促す発信をすることをいう。

ステマ規制とは一般消費者が、商品を自主的かつ合理的に選択できるようにすることを目的とした、消費者庁が定める不当景品類及び不当表示防止法(以下、「景品表示法」)第5条第3号に基づく規制であり、2023年10月から施行されている。

平たく言えば、インフルエンサー本人の投稿に見せかけて、事業者自身がその商品の広告を行っていると認められる場合、その投稿はステマに当たる。

本記事ではステマ規制について、令和6年司法試験受験生(令和5年予備試験合格者)が、事例を用いてその解釈と適用を試みる事例検討を行う。(ライター:サカモト/The Law School Times編集部)


事例

最近、司法試験予備試験用教材の開発・販売を行う新興事業者が、受験生に教材の無償提供等をしてその感想等を投稿させているが、その投稿がステマに当たるのではないかと話題になっている。

そこで今回は、上記事例の規制該当性を検討することを通して、どのような表現がステマに当たってしまうのかを考える。

・A氏は、司法試験予備試験用の教材を開発・販売する事業者の代表である。
・A氏は、司法試験予備試験受験生でインフルエンサーのB氏ら複数名に、自社で販売する予備試験用の教材を無償供与した
・上記無償供与に際して、飲食店においてB氏ら複数名と食事をし、その際の会計はA氏が全額を支払った。またその際、教材の良かった点について、SNS等で宣伝を促す旨の発言を行った
・その後、B氏は、自己のポストとして無償供与された上記教材の画像を添付し、上記教材を入手した旨のポスト(以下「本件ポスト」)を行った。
・B氏は、数年前からA氏の受験指導を受ける等の交流があった一方、他の者はA氏との交流はなかった。
・上記予備校教材の無償供与の数か月前に、B氏はA氏から同教材のサンプル(ほぼフルスケールの内容)を交付され、それについてA氏からポストを行うように指示があり、それに従い、B氏は上記サンプルを受け取った旨のポストをしていた。
・A氏は過去に、ある受験生のインフルエンサーに対して、その個人情報を公開するなどして粘着的に攻撃を繰り返し、結果当該受験生のアカウントを削除させたことがある。B氏もこのことを知っており、断りきれずに上記行為に及んだ。

複数の司法試験受験生、修習生に対する聞き取り調査をもとに作成

「ステマ規制」に関する法令、趣旨、要件

消費者は、企業による広告・宣伝であれば、一定程度の誇張・誇大が含まれているものと考えることができ、それを踏まえて商品・サービスを選ぶことができる。

一方で、広告・宣伝であることが分からないと、企業ではない第三者の感想であると誤って認識してしまい、その表示の内容をそのまま受けとることになり、消費者が自主的かつ合理的に商品・サービスを選ぶことが出来なくなる。これを防ぐための法がステマ規制である。

ステマ規制(景品表示法5条3号)の要件は以下である。
➀「事業者が…行う表示」であること
➁一般消費者が事業者の表示であることを「判別することが困難である」こと

事業者が第三者に対して表示を明示的に依頼していない場合にも以下の場合には➀の要件に該当する。

㋐事業者と第三者との間に事業者が第三者の表示内容を決定できる程度の関係性があり、客観的な状況に基づき、㋑第三者の表示内容について、事業者と第三者との間に第三者の自主的な意思による表示内容とは認められない関係性がある場合。

規制の趣旨や要件の考慮要素など、詳しくは第1問の記事を参照されたい。

事例の検討

1.要件➀「事業者が…行う表示」であること

まず、本件事例においては、A氏はB氏に対して、良かった点についてポストを促す旨の発言を行っているが、あくまでポストを行うか否かは任意であり、教材に関する表示を明示的に依頼していないとも考えられる。
しかし、この場合にも、㋐事業者と第三者との間に事業者が第三者の表示内容を決定できる程度の関係性があり、㋑第三者の表示内容について、事業者と第三者との間に第三者の自主的な意思による表示内容とは認められない関係性があれば本件ポストはA氏が行う表示であるといえることになる。

(1)㋐について
A氏は過去に、ある受験生のインフルエンサーに対して、その個人情報を公開するなどして粘着的に攻撃し、アカウントを削除させたという事実がある。
また、A氏は(少なくとも自称は)弁護士であり受験生に対して、社会的に高い地位にある。
そうすると、B氏はA氏からの攻撃を恐れて自主的な表現を萎縮する可能性が客観的にないとは言えず、A氏とB氏の間には、A氏が本件ポストの表示内容を決定できる程度の関係性が認められうる。

(2)㋑について
第1問の通り、具体的なやり取りの態様や内容、表示に対して提供する対価の内容、その主な提供理由、事業者と第三者の関係性の状況等を考慮して判断する。
本件事例においては、SNSでの宣伝を促す内容の発言をしているものの、その内容については全く言及されておらず、本件ポスト自体も強制ではなかった。そうすると具体的なやり取りの態様や内容だけを見ると㋑の要件は否定されうる。
もっとも、上記無償提供された予備校教材の市販価格は約30万円であり、一般的に高価である。また、飲食店での食事代も数千円であると考えられ、これらは本件ポストの表示に対する対価ととらえることができる。そして、これらの提供理由は、B氏に対しては、先行して数年間にわたって受験指導をする等の関係があったことからすれば、その関係から上記の対価を交付していたと考えられるため、主な提供理由は宣伝目的であったとはいえないが、付随する目的として宣伝目的があったと考えることができる。
そして、A氏はB氏に対し、3か月前に上記予備校教材のサンプルという名のフルスケールの教材(対価)を無償供与し、ポストという表示を促していたため、過去に事業者が第三者の表示に対して対価を提供していた関係性があるといえる。(※なお、これ自体もステマ規制の対象となりうる行為である。)これは以前から、A氏がB氏に対価を提供して表示を行うような関係があったといえ、このような関係性は本件ポストにあたっても、B氏の表示内容の自主性なかったことを推認させる事情になり得る。
これらを踏まえれば、本件ポストについて、A氏とB氏の間に、B氏の自主的な意思による表示内容とは認められない関係性がある。

(3)したがって、本件ポストが事業者たるA氏が行う表示にあたる。

2.要件➁一般消費者が事業者の表示であることを「判別することが困難である」ことについて

本件ポストには、事業者たるA氏の表示であることを表す文言は全くなかった。そして、B氏は、自己のポストとして無償供与された予備校教材の画像を添付し、上記教材を入手した旨のポストを行っている。

一般消費者からすれば、このようなポストにより、B氏が自己の意思により上記教材を購入したことを誤信する可能性がある。ましてや、それが試験直前期というタイミングでなされた場合には、不安からB氏のフォロワーの購買意欲が掻き立てられ、消費者の自主的な判断が害される恐れがあることは言うまでもない。このような状況は自主的かつ合理的な選択が阻害されるおそれのある状況といえ、ステマ規制の趣旨が妥当することになる。

したがって、本件では、一般消費者はB氏のポストが事業者たるA氏のポストであることを判別する事が困難であるといえ、上記要件を充足すると考えられる。

結論

したがって、上記のA氏の行為はステルスマーケティングとして、景品表示法5条3号に該当する可能性がある。

消費者庁の見解

The Law School Times編集部は本件事例がステマに当たるか、消費者庁への問い合わせを行った。

ーー受験用の教材を販売する事業者が、SNSで一定のフォロワー数がいる者に対して、教材の無償提供を行なった。その上で「内容を読んで感想を投稿してほしい」と依頼した場合、ステマに当たるか

その投稿に事業者の表示であることを示す表記が何らなければステマに当たります。
ガイドライン通り、例えば「PR」、「広告」など、SNSで一般的に利用されている方法で、事業者の表示と判別できる表記が必要です。

ーー投稿自体への対価がなくてもステマに当たるか

当たります。商品を無償で提供されて、表示を依頼されているから。

ーー内容自体の指示はなく、「感想」を投稿してほしいと依頼されているが

個別に具体的な指示がなければ、ステマに当たらないという考え方もあります。ただ、フォロワー数をお持ちの方に阿吽の呼吸でそういった指示をするということは、基本的にはステマに当たると判断されると思います。

罰則等

消費者庁の調査の結果、違反行為が認められた場合、事業者に対して、措置命令が行われる(景品表示法7条各号)。措置命令については、その内容が公表される。
措置命令の内容(例)
・違反した表示の差止め
・違反したことを一般消費者に周知徹底すること
・再発防止策を講ずること
・その違反行為を将来繰り返さないこと

景品表示法違反に関する情報提供窓口

消費者庁表示対策課(情報管理担当) 
TEL.03-3507-8800㈹
〒100-8958 東京都千代田区霞が関3-1-1 中央合同庁舎第4号館
オンライン又は郵送にて受け付けております。詳しくは受付窓口ページをご覧ください。
http://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/contact/

消費者庁:景品表示法に関する情報提供・相談の受付窓口

次回予告

次回は、今回のThe Law School Timesのnote記事が不正競争防止法に該当するか、The Law School Times編集部の見解を示す。

さらに、A氏が公表している経歴について、複数の関係者への取材で明らかとなった矛盾点の指摘などを行う。


The Law School Timesは司法試験受験生・合格者が運営するメディアです。「法律家を目指す、すべての人のためのメディア」を目指して、2023年10月にβ版サイトを公開しました。サイトでは、司法試験・予備試験やロースクール、法律家のキャリアに関する記事を掲載しています!noteでは、編集部員が思ったこと、経験したことを発信していく予定です。


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