法律実務基礎科目

法律実務基礎科目とは?


法律実務基礎科目とは、司法試験予備試験の論文式と口述式で課されている科目であり、正式には「法律実務基礎科目(民事)」と「法律実務基礎科目(刑事)」があります。
司法試験や予備試験は、裁判官、検察官又は弁護士になるための試験であり、憲法・民法・刑法・商法・民事訴訟法・刑事訴訟法・行政法の7科目については試験の知識を得たらそのまま実務に入ることができます。(もちろん、知識の深化やアップデートは必要です。)
これに対し、法律実務基礎科目は、その大部分を司法修習で習う内容でありながら、予備試験の科目として課されているものです。
このため、他の科目と異なり、ほんの触り部分が試験として課されているわけで、その分レベルは低いです。したがって、対策をきちんとすれば圧倒的な得点源とすることができます。

法律実務基礎科目(民事)の対策

法律実務基礎科目(民事)(以下、単に「民事」という。)では、要件事実と実務認定の基礎が問われます。

要件事実というのは、訴訟において当事者が立証すべき事実のことであり、主要事実と呼ばれるものです。例えば、売買契約が成立したことが認められるためには、「売ることの意思表示と買うことの意思表示の合致」が要件ですが、それに該当する具体的事実である「Aは、Bに対し、令和〇年〇月〇日、〇〇を〇円で売った」というのが要件事実です。
証拠によって何を証明すれば訴訟に勝てるのかという対象を適切に設定できるか?が問われているわけですね。
これは本来、司法修習などで生の事件に触れながらでないと体得することができないので、予備試験の民事を受ける時点では理解することができません。したがって、理解はできなくとも、なんとなく本に書いてあることが分かるというレベルで十分です。(なお、要件事実を使いこなせば司法試験に合格できる!という言説がありますが、そんなわけはありません。使いこなせるレベルに行くためには司法修習が必須であり、受験生は司法修習を受けていないのですから、当然です)
したがって、予備試験段階での要件事実論は、いわゆる大島本などに紹介されている事実適示の仕方を覚え、条文と照らして答案に反映できれば十分です。

次に、事実認定ですが、これは「事例から考える民事事実認定」という司法研修所が出している公式本を使えばOKです。
民訴法248条4項の「二段の推定」を確実に理解した上で、
⑴類型的信用文書である直接証拠があり、成立の真正に争いがない事案
⑵類型的信用文書である直接証拠があり、成立の真正に争いがある事案
⑶類型的信用文書である直接証拠はないが、直接証拠である供述証拠がある事案
⑷類型的信用文書である直接証拠がなく、直接証拠である供述証拠もない事案
の4つの類型のどれに当たる事案が出題されているかを把握した上で、それを答案に示せば合格です。

法律実務基礎科目(刑事)

法律実務基礎科目(刑事)(以下、単に「刑事」という。)は、捜査実務と公判実務が問われます。

捜査実務とは、公訴提起前における法曹の活動であり、検察官は発生したと思われる犯罪の犯人や内容を捜査し、裁判官は捜査のための強制処分(逮捕・勾留、ガサ入れなど)の必要性を判断し、弁護士は逮捕・勾留による身柄拘束からの解放や不起訴獲得に向けた活動をします。
捜査実務と言っても、指紋を採るとか、聞き込みとか、そういう警察官が行うような実務が問われるわけではなく、あくまで法曹が携わる捜査実務が問われます(なお、法曹である検察官が行うものであっても、弁解録取とか取調べのノウハウは問われません)。
必然的に、法曹が行う捜査実務というのは、最も人権制約が大きい身柄拘束(逮捕・勾留)の関係となります。
そして、逮捕・勾留の目的は罪証隠滅と逃亡を防ぐ点にあるので、これらの有無・程度を分析する問題が出題されます。
罪証隠滅については、対象・態様・客観的可能性・主観的可能性の4要素を分析することになりますので、これができれば合格です。
たとえば暴行事件で、「殴ったという事実【対象】がなかったと偽装するために、被害者を威迫すれば【態様】、被疑者のことを怖がっている被害者は怯えてしまって殴られていないと言ってしまうかもしれないので【客観的可能性】、前科がたくさんあって実刑が予想される被疑者は何としてでもそれを避けようとして威迫行為に及びそうである【主観的可能性】」といった感じです。
次に、逃亡については、「家族もおらず失うもののない被疑者は、逃亡に及ぶ可能性が高い」とか、「長く同じ会社で働いて配偶者や子と同居している被疑者が、執行猶予が見込まれる本件事案のために家族や仕事を捨ててまで逃げることは考えづらい」とか、「家族はいるけど、死刑すら有り得る事案だから、命には代えられないから逃げる可能性もある」とか、そんな感じです。事案の軽重、生活状況などの要素から判断していく感じです。

また、犯人性認定についてもよく問われます。
要するに、被疑者=犯人と言えるか?という問題なのですが、直接証拠があればそれが信用できるか。証言であれば、その証人が被疑者を庇う可能性があるのか、視認状況(距離、明るい時間帯か)がどうだったのか、などです。間接事実から固めていくのであれば、たとえば「犯行に使われた包丁に被疑者の指紋がついていた」として「被疑者が別の機会に使用した包丁が犯行に使われた」という反対の可能性を検討する感じです。

公判実務とは、起訴された後の法曹の活動です。
法廷においては、冒頭手続(人定、起訴状朗読、罪状認否)、証拠調べ(証拠請求、取調べ)、論告・弁論、判決が行われますが、予備試験刑事で問われるのはほぼ証拠調べです。
どのような証拠を取調べ請求するか、相手方の請求証拠に対してどのような証拠意見を述べるか、証拠調べのときに配慮すべき点(秘匿措置など)、証人尋問の際の留意事項(主尋問における誘導尋問はダメ、など)が問われますが、ほぼ刑訴法と刑訴規則に書いてあるので、条文を引ければOKです。

まとめ

民事も刑事も、以上ができれば間違いなく法律実務基礎科目は合格点がもらえます。
短答が終わってから着手しても余裕で間に合うので、是非勉強してみてください。
有用な参考図書としては、以下が挙げられます。
【民事】
(要件事実)
完全講義民事裁判実務の基礎(大島眞一)
紛争類型別の要件事実(司法研修所)
(事実認定)
事例から考える民事事実認定(司法研修所)
【刑事】
(捜査実務)
基本刑事訴訟法Ⅰ(吉開多一ほか)
検察終局処分起案の考え方(司法研修所)
(公判実務)
プロシーディングス刑事裁判(司法研修所)

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