直線上のスラッシュ

 ボケーッと過ごしていると唐突に頭の中に変なフレーズが浮かんで消えなくなることがある。今回の表題もその一つだ。
 何となく語感が『G線上のアリア』に似ているのでそこからの連想ゲームで生えてきたのかもしれない。ただ私はクラシックを嗜む方ではないので脳内に『G線上のアリア』が漂っている状況がまず不思議である。謎や。ミステリーや。
 とはいえ浮かんできてしまったものはしょうがない。いったいこれがどういうものなのか考えてみる必要があるだろう。図示すれば下のようになるだろうか。

――――――/――――――

 …だからなんなんだよ。
 おわり




 とはいえこれで終わってしまっては面白くない。なにより生み落としてしまったものを粗末に扱うのは倫理的に正しくない気がする。責任を持って何かしら活用する方法を考える必要があるだろう。
 単体では特に意味がないように見えるが、造形がシンプルゆえに逆に可能性に満ち溢れているようにも思える。例えばだんだん何かの形に見えてくるような…

 それだ。この棒を何かに見立ててみるとしよう。なんだか想像力のトレーニングになりそうな気がしてきた。
 というわけでこの棒が何を表しているか考えてみることを試みる。重要なのは直線とスラッシュが交差しているという要素なのでスラッシュの位置をズラすことがあるのはご容赦いただきたい。

①ぶんぶんゴマ
 小さく切り出した厚紙の真ん中にタコ糸を通し、糸をタイミングよく引っ張ると厚紙がくるくる回るという子どもの遊び道具である。直線の部分が糸、スラッシュが厚紙にあたる。
 小学校の低学年ぐらいのころにこれで遊んでいた記憶がぼんやりとある。紙にペンで色を付けたり線を引いたりしてからぐるぐる回すと幾何学的な模様が出てきてなかなかキレイだった。今の子どもたちもああいうので遊んでいるのだろうか。それとも電子機器を通じた娯楽が一般的になってきてこうした玩具は廃れつつあるのだろうか。最近の子ども事情はよくわからない。

②ボリューム調節メーター
 だいたいデスクトップの右下にあるメガホンマークを叩いたら出てくるあのメーターだ。もしかしたらウィンドウズ以外だと配置が違うかもしれない。スラッシュが直線の上を移動するツマミである。
 あの手のメーターって縦型と横型のどちらが多いのかが少し気になるところ。一応ツマミをクリック&ドラッグで音量調節するのがデザインから読み取れる意図なのだが、ドラッグ中に手が滑ると爆音で鼓膜が死にかねないので結局ショートカットキーを使っていじることがほとんどである。ああかわいそうなツマミくん。

③刀
 ちょっとスラッシュの位置を変えて「――――――/――」みたいにすると刀に見えてくる。スラッシュを鍔に見立てたとき、長い方が刀身で短い方が柄である。「スラッシュ(斬る)」という動詞を冠した記号が一番斬れないパーツを担当するのが面白いところだと思う。
 現実世界においても長い木の棒が落ちているのを見ると刀や剣に思えてきてついつい振り回したくなる。筆者は少年の心を忘れていないのである。中身の成長が止まっているキモ人間とか言ってはいけない。言葉のナイフを振り回すのは木の棒を振ることよりもずっと危険で罪深い。

④きゅうりを切っているところ
 棒状の野菜ならなんでもいいじゃねーかと批判するかもしれないが、ここまで均質にまっすぐな野菜はそうそうない(と思う)。多分ごぼうかきゅうりぐらいではなかろうか。そして斜めに包丁を入れていくイメージがより強かったのがきゅうりだった。サラダに入れる時はただの輪切りよりもこうやって斜めに切った方がなんだかオシャレに見えるものだ。そうした細かい積み重ねがQOLの向上につながるのかもしれない。
 余談だが筆者は包丁を使うのが面倒なのできゅうりをかじって食べる。

⑤対頂角
 これについては見立てとか関係なく構造的に生じるものである。コトバンクには「二直線が交わってできる四つの角のうち、互いに向かい合った相等しい角」という定義が掲載されていた。こういう概念を文章で説明するのは大変なことで辞書作りに携わる方々は言語感覚が洗練されていくのだろうなと感じている。
 しかし対頂角という概念を使うこともめっきりなくなった。高校生の頃はあんなに図形の性質を頭に叩き込んで演習に取り組んでいたというのにそれももはや遠い過去のように思われる。もっともこうした知識は実生活に応用しようと思えばいくらでも手はあるので「使おうとしなくなった」と表現する方が正確かもしれない。いずれにせよ衰えたのだなという気持ちになる。

⑥抽象化したエリマキトカゲ
 もう少しヒネった見方がしてみたい、その一心でうんうん唸り続けて見出したのがこれだ。スラッシュが襟巻きの部分である。つまり、

          _______
          │クエー!│
            レ ̄
――――――/―

こういうこと。でもエリマキトカゲは立ち上がって走ったりするから少しイメージと違うかもしれない。まあ爬虫類の基本姿勢は腹這いなのでそれということで。
 未だにあの襟巻きの用途がわかっていないのだが、あれは有事における威嚇用であっているのだろうか。そうすると『ウルトラマン』に出てきたエリ巻恐竜ジラースが襟巻きを常時展開していたのはあんまり意味がないような気がする。結局引きちぎられていたし。

 これだけ思いつけば直線上のスラッシュも本望だろう。心なしか愛着も湧いてきた気がする。こうした思考トレーニングに興じるのもたまには悪くない。
 おわり

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