「パルワールド」とは何だったのか-パクリ「騒動」について考える

はじめて記事を掲載します、「佐倉吉朗」と申します。
本来ならば僕が何者かという話から始めていくのが筋というものでしょうが、まあゲーム業界に勤める一介の会社員程度に思っていただければ十分です。
それよりも掲題の件について話を進めることを優先したいと思います。

「ポケットペア(以下ポケぺ)」から発売された『パルワールド(以下パルワ)』について、です。

ここで「パルワールドとは何か?」という説明は控えます。
また、ゲーム内容についても既に複数の方が優れたレビューを掲載されていますので、あらためてお話しするつもりはありません。
主に同作の発売により巻き起こったSNS上の「騒動」に軸足をおき、語らせてください。


◆発売直後から始まった「議論」

ご存知の通り同作が発売されて以降、インターネットでは「批判派」と「擁護派」が対立し様々な議論が巻き起こりました。
とはいえ「炎上」というほどのことではなく、この記事を書きはじめた1月25日の時点では落ち着きを見せており、一部の方以外は特に話題とすることもなくなったようです。
短い期間でフラッシュコットンのように燃え上がったわけですが、結論から申し上げますと、両派とも議題からずれた言説に終始していたと言わざるを得ない内容でした。

まず議論が過熱した理由は語るまでもなく、同作に出てくるモンスター「パル」が「ポケットモンスター」に酷似しているためです。これに対し、おもに既存のポケモンを好きな方から激しい批判の声が上がりました。

「酷似なんて書きやがってこいつ、著作権侵害だとか言って騒ぐつもりか」
と思われてる方、安心してください。同作が著作権侵害しているという論には僕も組しません。すべては著作権所持者が判断すべきことです。

「大して似てもいないのに言いがかりつけやがって、これだからオタクは」
とお感じの方については、大変申し訳ない。かけてあげられる言葉がありません。どうみても似てるよね。

「パル」は「ポケットモンスター」に酷似しています。しかし(現時点では)「著作権法違反」と訴えられてはいません。
丁度この記事を書いているところで株式会社ポケモンから声明が出ましたが、それも同作を訴えるという内容ではありません。
「パクリだ」「著作権侵害だ」という批判は、残念ながらこれは誤りです。

また騒動を生成AI問題と結びつける方もいるようですが、これも誤りです。
ポケぺCEOが過去に生成AIを使ってポケモンそっくりのキャラクターが作れると呟いたことは何の証拠にもなりません。
繰り返しますが、著作権については権利者が対応する事です。我々はあくまで消費者でしかないことをお間違えないように。

◆実はそれほど的を得ていない「擁護」

さて、ではパルワを「擁護」している方の言説はどうでしょうか。これも誤りが多く見受けられました。
以下に箇条書きで示していきます。

●「ポケモンのパクリパクりうるせえんだよ!ゲームってのはパクリパクられで大きくなってきたんだよ!」
 →
後半部分はゲームシステムが相互インスパイアにより発展したことを指していると思いますが、批判者の多くは「ポケモンのデザイン」についての指摘に終始しており、ゲームシステムが類似しているという指摘は少ないようです。(少なくとも僕は見ていない)
  
●「おいおいパルワのゲームシステムはArkライクだろ、ったくゲーム知らねえポケおじが」
 →
前述のとおり批判者の指摘点はデザインであり、ゲームシステムには言及されておりません。相互インスパイアをほとんどの方が理解しているため、指摘しないのでしょう。

●「なんだよデジモン知らんキッズか?おいちゃんがちっちゃい頃からこんなもんだったぞ」
 →
ポケモンとデジモンはデザインもゲームシステムも世界観も似てないから類似例として妥当じゃないよね?ご飯食べてあったかくしておやすみ、おじいちゃん。
 
このように擁護側にも論拠に脆弱なところが複数見られました。
お互いが貧弱な論拠で話していれば、議論が正常に着地しないのも当然です。 
そもそもゲーム評価とは「賛否」どちらかのみに所属して語るものではないでしょう。

たとえば擁護者に多く見られた、
「ポケモンのデザインにArkのゲームシステムで出せば売れるわけではない、ゲーム制作はそんな単純じゃないぞ」
という言説については僕も同意です。
既存のシステムとデザインを単純に組み合わせた程度で名作が作れるほど創作が甘いものではないことは、パルワに激怒しているクリエイター・絵描き諸氏も落ち着いて考えればじゅうぶん想像がつくのではないでしょうか。
 
とはいえ批判されていた方の、
「既存×既存って、普通はどちらかオリジナルにするんじゃない?」
という冷ややかな視線にも共感できるところがあります。

このように本来はある程度グレーゾーンを含んだうえで「ここは良いがここは悪い」という話になって然るべきなのですが、
両陣営ともに過激な言葉が飛び交う結果となりました。なぜこのようなことになったのでしょう?

それは「批判」側と「擁護」側で理由が異なります。まず、「批判」側からお話ししましょう。

◆批判側が過激化した「不快」

彼らの多くは「不快」に突き動かされ、言説を過激に加速させていきました。
しかしこの「不快」の正体については、あまり分析できていなかったというのが実際の所でした。

なにがそんなに「不快」だったのでしょうか?
そのためにはパルワの「エンタメ性」について語る必要があります。

既に何度か示した通り、パルワは
「Arkのようなサバイバルゲームでポケモンそっくりのキャラクターを狩猟・解体・使役する」
という楽しさで成り立っています。(Ark以外のゲームについてもインスパイアが見られますが、まあそれは本稿では触れません)

とうぜん「Ark」×「ポケモン」という点に意味があります。面白いものと面白いものをただ掛け合わせただけで名作は作れません。
売れている以上はこの「組み合わせ」にも十分意味があります。

「ポケモンそっくりのキャラクターを狩猟・解体・使役する」
から面白いわけです。
繰り返します。
「ポケモンそっくりのキャラクターを狩猟・解体・使役する」
から面白いわけです。

「ポケモンの洗練されたキャラクターデザインを意匠に採用」
ではないのです。
「ポケモンそっくりのキャラクターを狩猟・解体・使役する」
です。
つまり、
「実際に見たことがある既存キャラクター『ポケモン』に酷似したキャラクターを殺害したり、解体したり、使役する」
という部分が、明確にエンタメ性の主軸のひとつとしてあるわけです。(もちろんそれが全てではありませんが)

さらに言うと、
「パルのデザインをポケモンに寄せた」
でもないのです。
「パルのデザインはポケモンに『似ていなければならなかった』」
のです。

パルワのプレイヤーは、Arkのような建築サバイバルを楽しみつつ、何処かで見たことがある=ポケモンプレイヤーでなくとも知っているレベルの知名度のキャラクターを、銃で殺したり、と殺したり、労働させたりと言った「露悪」も楽しんでいるわけです。

パルワプレイヤーには
「せっかく丁寧な造りなんだからポケモンに寄せなくてもよかったのに」
とおっしゃっている方もいますが、それじゃダメなんです。
それでは「威力」が足らないんです。
ポケモン酷似の意匠は、ラーメンハゲが客を信じられずに追加してしまった鶏油ではなく、最初から組み込まれた味なのです。
(ラーメン発見伝知らない方ごめんなさい)

ポケモンが好きなユーザーが憤るのは、この露悪な味に対する部分が大きいでしょう。単純に意匠に流用が見られるだけなら、それほど感情的になることもなかったはずです。
意匠だけなら、このところXで目につく「キノコ伝説」の方が似てますし、ゲームシステムだけなら「龍が如く8」の「スジモンバトル」の方が似てるでしょう。
けれどそれに憤る人はほとんどいません。何故なら扱われ方が違うから。

ポケモンとパルワの関係を(あえてポケぺと同じ土俵に降りて)露悪的に例えると、「ポケモンを原作とした同人エロ漫画」とでも言いましょうか。
世間に広く認知され、戦略的にイメージを保護している「ポケモン」に対して、絶対に起こるはずのない「凌辱行為」ができる。これがパルワのエンタメの基幹部分です。

「ふざけんな、パルワをエロ同人と同レベって言うのか?雑に組み合わせただけじゃ名作はできないとあれほど(略」
とお怒りの方。冗談を言ってはいけない。まさかエロ同人誌が適当に作られていると思っているんですか?
だとするならとんだ考え違いです。パルワもエロ同人も、本気でキャラクターを凌辱しているから評価されるのです。
そんなに簡単に男根を屹立させられると思っているなら男根を舐めすぎです。

「知らねえよ、俺ポケモンやったことねえもん」
としらばっくれる方、原作をよく知らなくったってエロ同人が「使用可能」なことくらい、よくおわかりですよね?
もちろん、今現役でパルワを「使用」している方々にやめろなんて言いません。お母さん突然入ってきたら困るもんね!「賢者タイム」になってから話そっか。

まあこれは冗談ですが「他人がコンテンツを楽しんでいるところにわざわざ乗り込んでいって面と向かって難癖付ける」みたいなことはしません。僕と貴方は趣味が合わないけど、それぞれ別の方向を向いて楽しみましょう。

分かっていただきたいのは、ポケモンファン側としてはそれくらい「衝撃的」に映ったということです。
この衝撃がいちばんの火種になったんですね。
言葉では「パクるな!」とおっしゃってるんですが、実際に嫌がっている点は「似ているかどうか」ではなくて、「どう扱われているか」なんです。
愛着を持ったキャラクターが雑に扱われていれば不快に思うのも自然なことです。
でも言葉としては類似性を指摘しているようにしか聞こえないから、
「こんなことでパクリとか言ったら新しいものは生まれてこないだろ」
という反論を受けるわけです。
そして「割と丁寧に作られているゲーム性に目を向けず上っ面だけで批判している嫌な奴」というレッテルを貼られてしまう。
当人たちですら錯誤している感情を、相手が正確に受け止められるわけが無いのですから、まあ仕方がありません。

これがポケモンファンが怒り、論争が極め続けた「第1の理由」でした。
では「第2の理由」とは?
それは「擁護者」が陥った錯誤とも関連します。

◆擁護側が信じた「物語」

事態を見ていて特徴的だったのは、「批判者」だけでなく「擁護者」も感情的だった点です。
「またまたお気持ちで難癖付ける連中が現れやがったぜニヤニヤ、おもちゃにしてやるか」
というスタンスの方はどのような論争にもいらっしゃいますし、感情論で他人の社会的な立場を奪う連中に嫌気がさしている方も昨今は増えてきている傾向にありますが、それにしてもパルワに関しては高圧的に批判者を罵倒する向きがありました。

もちろんそれはフラッシュコットン化して燃え上がっている批判者の態度のせいもありますが、もう一つある大きな要素としては、
「擁護者も別の正義を握りしめ相手を殴っていたため」
でした。

パルワ発売前、ポケぺCEO自身がnoteに発売までの経緯を物語形式で掲載しました。

掲げる理想、阻んでくる現実、苦節の毎日、そこに綺羅星の如く現れる若き「天才」たち、奇跡の連続でローンチされるゲーム。

この物語は多くの方にとってそれこそ「三国志」的英雄譚のような痛快さで読まれたようです。
「ようです」というのは、僕としてはやけに扇動的な記事にしか読めず、「物語」を飲み込むことがとてもできなかったためです。(胡散臭いと鼻白んだというより、なにやら圧が強いなと半笑いで引いちゃった)
ただプライベートの友人たちの反応を見るに、共感を生みやすくカタルシスを得やすい内容だったみたいですね。

記事を読んだ方は
「停滞し鬱屈したゲーム業界に風穴を開ける英雄がインディーズという有象無象の中から現れた」
といった類の「伝説」をパルワに見出したのでしょう。

もちろんこの「伝説」通りの側面はあります。日本のインディーゲームがsteam同時接続数歴代最多を更新。これが痛快でないはずがない。実際にパルワは記録を樹立した訳です。
「こんなすごいゲームなのに『ポケモンと似てる』の一言でばっさり切り捨てるなんてバカバカしい」
そう感じるのも当然です。

そのうえで、発売直後から雨後の筍のごとく現れる「パルワはパクリ!!」と絶叫する方々。
「こんなもの出しやがって!」
「任天堂に訴えやがればいいんだ!!」

そりゃあ「擁護≒パルワプレイヤー」たちは義憤を滾らせるでしょう。

「悪質なお気持ち老害ポケモンユーザーが、俺たち『明日を生きる新進気鋭』の息の根を止めに来てる!!うおお!!みんな戦え!!お気持ちで新しい才能の芽を奪う悪に負けるな!!打倒!古き価値観!!」

ま、これも「お気持ち」なんですがね。

そしてこのパルワが背負った「ストーリー」こそ、「批判者」の火に油を注ぐ最後の1点なのです。

「あいつら、パクリのクセしてデカい顔しやがって!!全部ポケモンのおかげだろうに!!」

これはこれで
「お気持ちはお察ししますが少し冷静になってもらえませんかね」
なんですが。

どちらも2、3割くらいは当たってますが、大半は正義で膨らんだまやかしです。パルワはポケモンとArkを雑に掛け合わせただけで出来上がったものではありませんし、同じように「ポケぺは綺羅星のごとき英雄」というのもさすがに実態に対して粉飾が過ぎます。

しかし正義どうしの戦いですから止むわけがありません。聖地を奪い合っているような状態です。どっちも本気で自分の「正義」を信じてるわけです、信じられないことに。

ポケットモンスター「パクリ野郎が」「お気持ち正義が」同時発売。
ま、どっちか好きな方を買ってください。僕はどちらも要りません。

ある程度良識がある方がこの騒動を静観しているのは、「慎重に扱うべき内容を雑に引っ掻き回しやがって」と両陣営に呆れているからです。

ではどうしてこんなに混迷を極める状況となったのでしょうか?
それは明確に「絵図を引いた人間がいる」からです。

その人間というのは、他ならぬ「ポケットペア」じしんです。

◆計画的に用意された「戦略」

前述のとおり同社CEOは発売に際し「ストーリー」を提供しました。
それも自分たちを「英雄」に塗り替える、誇大なストーリーです。

これはいわば「戦略」のひとつでしょう。
パルワをプレイする人が全員
「ポケモンを殺害するとか最高じゃーん」
と考えるわけではありません。罪悪感を持つ人もいます。むしろそれが普通でしょう。現代に生きる僕らは基本的にお行儀がいいんです。

この罪悪感をナーフする「プロパガンダ」として用意したのが、
「既存のゲーム業界に挑戦を挑む!同志たちと共に!!」
ストーリーです。
たしかに効果的なプロパガンダではあります。そうまるで現実世界で「トリリオンゲーム」をやるような痛快さ。
罪悪感を払しょくし、反論相手を「異教徒」に追い込むにはちょうどいい。

しかしこういった「プロパガンダ」をポケぺが用意したのは、パルワが「既存IP頼りの露悪的なエンタメ」であることを認識していたことを逆説的に証明しています。パルワはプロパガンダを用意する必要があるタイトルでした。プロパガンダ無しには成立困難な要素を「意図的に」含有させたゲームでした。故に物語が必要だったんです。

枠の外から普通にみれば
「ここまで既存IPをアテにした造りのくせに綺麗ごとばかり並べやがって」
と苦笑いを浮かべるところですが、渦中にいるプレイヤーにしてみれば
「これはパクリじゃない、僕たちの……物語なんだ!!」
となるわけです。

極めつけは1月23日に出た「本ゲームの誹謗中傷が散見され、デザイナーが殺害予告を受けた」というポケぺ側のポストです。
まずはじめに、誹謗中傷も殺害予告も愚かしい、あるべきでない行為ということは断っておきますが(これをわざわざ言葉にしないといけないことすら馬鹿々々しい)、正直シリアスに受け止める気にはなれませんでした。
まったく信ぴょう性がありません。嘘と断定はしませんが、さすがに「準備された物語」の匂いが強すぎます。

これもしかし、ユーザーやファンの義憤を刺激しました。
「気高い理想をもって停滞したゲーム業界へ果敢にこぎ出した僕たち!しかし汚い大人たちの魔の手が襲い掛かる!!誹謗中傷に晒される大切な仲間!!!負けるなポケぺ!!!!」
もうちょっとほんとお腹いっぱい。

「なんてひどい事を言うんだ、誹謗中傷を受けた方々のお気持ちに寄り添うことができないのか?このひとでなしめ」
とお思いになる良識派のかたもいらっしゃるでしょう。
しかし冷静になって考えてみてください。反発するポケモンファンが出ることぐらい、ポケぺが想像つかないわけがないでしょう。まさか
「パルワを発表しても何の反論も湧かない」
と悠長に構えているとでもお思いですか?そんなわけがありません。仮にそうだったとしたら、さすがに知性が低すぎます。
「半裸でヨハネスブルクのスラムを歩いて強姦され憤慨する女」
みたいなものです。馬鹿じゃなかろか、そらそうなるわ。

真実だったとしてもブラフだったとしても、この状況で所謂「ぴえん」をかまして、被害者としての立場をかすめ取ろうというのは、さすがに図々しいにもほどがあります。

◆ポケモンが必要とされた「理由」

ポケぺはこういった「プロパガンダ」を放流し、世論を両側から沸騰させ、自社タイトルを話題の中心に置かせたわけです。
その結果が「steam同時接続新記録」「初週700万本」の達成だったのです。

この達成にはもうひとつ、からくりがあります。

ポケぺが作るゲームが
「過度なリプレイ性を求めず、消費されることを前提とした設計」
であることは、過去のインタビューでも語られていることです。
売るためには高い初速が必要でした。
というか、初速のみに専念する必要があった。
そのためには論争が巻き起こってほしい。
いや、巻き起こさなければいけない。
もちろん安い役者で論争はまきおこらない。
有名で「好感度」が高い相手を巻き込まなければいけない。
そのためにはユーザーの反応が(いい意味でも悪い意味でも)大きいタイトルでなければならない。
だからこそ、パルはポケモンと酷似して「なければならなかった」んです。
そうして達成されたのが前述の「煌びやかな記録」なのです。
はじめから瞬間風速を狙った戦略だったのは火を見るよりも明らかです。

退屈ですがいちおう念のために断っておくと、ゲームの面白さも加点されたうえでの評価には間違いありません。
話題になったところで、「クソゲーじゃん」という評価では意味がない。
最低でも初速を落とさない程度に遊べるようになっていなければいけない。
ポケぺは「議論の紛糾」と「話題形成に必要なクオリティ」の両方を用意することに成功し、記録を樹立した訳です。

こうしてポケぺの手により、不毛で結末の見えない議論がインターネット上で巻き起こることとなったわけです。

そもそもではありますが、企業とは利益を追求する存在です。
それが漫画の主人公のような清廉潔白な理想だけで出来ているはずがないのです。
営利団体とは、運営していくにあたって否応なく清濁併せのむ姿勢となっていくものです。
企業が用意した「ストーリー」は、せいぜい「3割」くらいに受け止めるのが丁度よいのです。嘘だけでもありませんが、真実だけで造り上げられるほど、会社というものはシンプルにできていない。

とはいえ「気高きプロパガンダストーリー」の読者の方々に向けてこんなことを話しても鼻白まれるだけでしょう。
チープな幻想を打ち消すには、幻滅を誘うたとえ話が一番です。

◆綺羅星のごとき英雄の「正体」

繰り返しますが、パルワは決して
「きらびやかな新規性を纏った奇跡のような名作」
ではありません。
パルワが実際にゲーム業界に行ったことに最も近いのは恐らく、

「転売」

でしょう。

「ポケモン」シリーズは、1996年の第1作発売以来、四半世紀以上の年月をかけて「ポケモンが存在する世界」と「ポケモンそのもの」のIPイメージを育ててきました。
これは
「企業がイメージ育成に資本を投じて」
「同じイメージで安定供給できるよう」
行ってきた事業です。
この成果を
「資本を投じていない第三者が」
「安定供給されていたイメージを侵害するかたちで」
利益を得たのがパルワです。

「企業がインフラ維持に資本を投じて」
「安定した価格と品質で供給していた」
ものを
「資本を投じていない第三者が」
「安定供給されていたサービスを侵害するかたちで」
利益を得ている転売行為。

それこそパルとポケモンのように「同一ではないが酷似」です。

転売が違法に当たらないのと似て、パルワも違法には当たりません。
しかし転売と同様、迷惑行為に違いはないでしょう。しかも転売のようにエンドユーザーが直接被害を被るものでもありません。
エンドユーザーも被害を受けた「PS5転売」行為でも、法的な対処は行えず、SCE側の企業努力で対処するしかありませんでしたが、本件はユーザーに理解を得られにくい状況で対抗しなければならないわけです。

これは明確にゲーム業界全体の課題です。
「普通ならそんなことやらんやろ」という不文律を踏みぬく連中が現れたんですから、そりゃあ一大事です。

してみると「ディズニー」が自社商標に厳しい態度なのも納得です。
こういう「普通やらんやろ」をやってしまう人間が一定数いると踏んでいるが故の「威嚇」なのでしょう。

この件に対する「対策」がどのような形でやってくるかは、僕のような人間にはまだわかりません。
一番想像しやすいのは、「全社ディズニー化」でしょう。

「株式会社ポケモン」がポケぺを訴えるということは、正直万に一つもないと思いますが、もしそのような流れとなったとしても、ポケモンファンの方は「ざまあみろ!」などと思ってはいけません。
それは株ポケをはじめとした任天堂系列の会社が、今後ディズニーのように商標に対して真顔で対応するコワモテ会社になっていくということなのです。
当然、他の会社もこの流れに続くでしょう。
ゲームキャラ周りが息苦しい訴訟の繰り返しとなって初めて、ポケぺがやったことのマイナスが可視化されるというわけです。

そんなゲーム業界、嫌ですよね?
であれば「任天堂法務部門は怖いぞ~キャッキャ」という態度もやめましょう。

繰り返しますが、対策を担うのはゲーム業界側です。キャンセルカルチャーのようなやり方でパルワとポケぺを追い込んだところで、根本的な解決には至りません。
念のためもう一度断っておきますがスタッフに誹謗中傷など言語道断です。

申し訳ないのですが、この問題はゲーム業界が抱えるものであり、一般消費者の皆様が正義の着火剤とするものではないのです。

◆あっという間に終息していった「論争」

さて、パルワ論争に話を戻します。
迷惑な転売(に酷似した)行為によって生まれたのが「パルワールド」でした。
こういう企業が「気高い理想をもって停滞したゲーム業界へ果敢にこぎ出した僕たち!」のはずがないことは、ここまで本稿にお付き合いいただけた方なら、お分かりになるでしょう。

ポケぺが自分たちの行為を粉飾するために用意したストーリーに感化された方々と、自分の感情を正確に言語化できなくなるほど強大な義憤にかられた方々が、互いに違う方を向きながら相手を罵倒し続けたのが、この騒動の実体でした。
タイトルリリースにあたってポケぺが意図して流したプロパガンダによって巻き起こった事件だったわけです。

とはいえ、大半のユーザーは「平熱」でプレイしていましたし、ポケモンユーザーの全員が憤ったわけではありません。
僕と同じ会社で働くポケモンファンの女性には「まさか他のゲームでもポケモンみたいなキャラを動かせるなんて思ってませんでした~」と無邪気に喜んでいる方もいました。
瞬間的に燃え上がったのは、あくまで一部の方々でした。
大半の方は「目撃者」でしかなかったため、騒動自体がショーアップされ、パルワに興味を持つユーザーも多く現れたのでしょう。

しかしこの騒動、想像よりもずっと早く終息しました。
これは何故でしょう?

ひとつとしてはパルワ自体の設計にあったと推測できます。
当初の設計通り、数日でゲームの「底」に行き当たり、
「面白いけど、まあアーリーアクセスだしこんなもんか」
という感想に行き当たった。

もう一方の理由としては、早いうちに話題の主軸が別の者に入れ替わったからでした。

Xの話題は早々に「パルワパクり」論争から離れており、発売から4日経過した「1/23 18:00」の時点で「ゲーム」ジャンルのトレンドに「122,472」ポストであがってきたのは「ゴッドイーター」でした。

これは
「そういえばモンハンもゴッドイーターにパクられてたよね」
からの
「ゴッドイーターはただパクっただけじゃないぞ」
という反論に繋がり、ゲームオタクたちが「ゴッドイーターがいかに素晴らしかったか」を口々に語り始めたからでした。

「パルワ」に対する不快と興味より、
「いかにアリサの下乳が素晴らしいか」
という快と懐かしさでの連帯がすぐに勝ったんですね。
オタクらしい話です。

結果、パルワに対する「論争」はフラッシュコットンのように瞬間的に燃え上がり、消えたわけです。

僕が本稿の題名を「パルワールドとは何『だった』のか」としたのもこのためです。
瞬間的に燃え上がり、SNSを駆け抜けて『いった』パルワールド。
その正体は、新たにゲーム業界に波紋を生じさせるような形で生まれ、計画的に論争を巻き起こした「異端児」でした。

なお、今回の騒動を
「オタクがまたキャンセルカルチャーを起こそうとした」
とそしる方もいます。
キャンセルには至りませんでしたし、炎上とまではいきませんでしたが、論争が起こったのも事実です。

しかし僕は、オタクというのはキャンセルカルチャーに対し、他の界隈にはない「強さ」を持っていると信じています。
これは長短両面に通じることですが、我々オタクはとかく「快」に寄せられやすい性質を持っています。
これは「不快」で連帯し続けることで初めて成就する
「キャンセルカルチャー」
とは相反する性質です。

とはいえ、なかなか難しいことも事実です。
これを書き始めた1月25日中にも、
「FF14とコラボした『ぬこー様ちゃん』氏がユーザーの不興を買いコラボ解消される」
という事件がありました。
スクエニ側の発表としては、
「コラボ中の発言に問題があった」
としていますが、実際のところタイトルのコミュニティで不満を表明したユーザーに敏感に察知し過剰な対応を行ったというのは間違いないでしょう。

これはしかしユーザー、コラボ相手、コラボを選択したスクエニ、三者三様に「ちょっとアレ」が相まってキャンセルを呼び込んだものです。
キャンセルカルチャーはカスですし、くれぐれもこうならないようお気持ち連帯は控えるべきですが、これを「オタクが陰湿だからキャンセルを呼びやがった」と認識するのも偏向が過ぎます。
お気持ちに対して「配慮」が発生しやすい現状を打倒するには、
「ダセえなオタク、気持ちでコンテンツ焼きやがって」
という「お気持ち」では決してありません。

現代のゲーム会社は
「余分なコストを払うくらいなら早めにキャンセルしちまおう」
というスタンスです。それが一番得なので。
これはこれで非常に良く無い態度ですが、あくまでコスト面でしか考えていませんので、皆がキャンセルカルチャーの恐ろしさに理解を示せばすぐに変わります。執着するほどの理由もありません。

危険なのは、今回の騒動のように「ストーリー」を流し込まれた時です。
オタクは「快」と同じくらい「カタルシスを持ったストーリー」に弱い。「正義」のストーリーを流し込まれたら、それと知らずにキャンセルカルチャーに加担する可能性はあります。
くれぐれもお気持ちでコンテンツを焼かないようにしましょう。

◆「結論」

では本稿の締めくくりとして「実際のところ今後ポケットペアが新規性を持ったタイトルを今後配信するか?」というお話をしましょう。

未来のことは分かりませんが、なかなか難しいんじゃないかというのが本当の所です。
ポケぺがこれまで作ってきたゲームと言えば「Overdungeon」「Craftopia」「AIアートインポスター」などです。これで全部かな?
ではこの3作はどのような内容だったかというと……

◆「Overdungeon」→ Slay the Spire+Clash Royale
◆「Craftopia」→ ブレワイアセット+既存OW
◆「AIアートインポスター」→ AIイラスト+Among us

自分で列挙していて「あのさぁ……」という声が漏れてしまった。
流石にここまで「ネタ元」が透けて見えるというのは「お行儀が悪い」では済まされないレベルでしょう。

そもそも「Craftpia」は発売から4年ちかくたった現在も「アーリーアクセス」版で配信されています。
つまり「パルワにツッパした10億」のうちのかなりの額が「Craftpiaを完成するので協力してください」と言ってかき集めたお金なわけです。
流石にこれは企業としての姿勢が問われてしかるべきでしょう。
延々とゲーム業界が造り上げたIPにフリーライドされても、焼き畑農業のようなもので先があるとは到底思えません。

纏めますが、

・違法性が無いものに不快で連帯してはならない
・結果コンテンツが消えることがあったらそれは勝利ではなく敗北
・そもそも企業が発信した物語は3割くらいで受け止めよう

これを胸に楽しいゲームライフを送りましょう。
本当の自分にとっての「面白い」が分かれば、誰が何を言っても、世間にどんな風が吹いても、胸を張って楽しめるはずです。

さて。
もともとは自分がプレイして面白かったゲームの寸評でもnoteにあげれば楽しいんじゃないか、くらいのつもりだったのですが、期せずしてゲーム業界を揺るがすレベルの問題が起きたため、なにやら真顔で話すことになってしまい正直気恥ずかしいです。

次回は発売が近い「ファイナルファンタジー7リバース」にそなえ、同タイトルの前作にあたる「リメイク」の話でもしたいと思います。

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