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山田君 不動産で世を渡る(プロになる)※平成バブル 曙橋 確定測量が不調になるVOL3


曙橋の立ち退き合意書が全部整った。最終の住民の引越しは2か月後になる。
擁壁の上の桜が咲いている。古い賃貸マンションは次々と住民が引っ越して天寿を全うする老人のように徐々に生命力が衰えていった。桜の木の下花びらの散るなかで。


確定測量はその隣接住民を除いてすべて完了した。法的に処理するか、法務局に筆界特定を頼むか。いずれも時間がかかりすぎる。筆界特定はとくにそうだ。境界に紛争が生じた場合に仲裁する制度がほとんどないに等しい。
そして俺は喉に魚の骨が刺さっているような、気持ちがさえない日々を送っていた。

立退き合意が全て揃ったあと暫くして役員が俺のデスクにやってきた。なにやらこの物件を買いたいという業者があるとのことである。同席してくれという。秘密裏にやっていたのに密かに自分の懇意の業者に情報を漏らしていたか、または業者は俺が仕掛けているのを知って、役員を通じて接触してきたのか。まあ深くは考えない。もともと転売目的だったのだから。

俺は確定測量が不調の件と通行権の件でこの業者に話すべきかどうか迷っていた。まだ問題は解決努力中である。そうだ仕掛物件である。だったらあるがままの状態で説明して想定価格を聞いてやれ。

後日その業者が訪問してきた。

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