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青天の霹靂25(冬眞が警察に言う)

強迫状を廉夏は見せる。
それを見て、日向は笑う。
「子どもが考えそうなとこだ」
トメさんは、褒める。
「イヤー、子どものわりには、考えられとるよ」
新人君は分からないらしく、首を傾げる。
日向は面倒そうに、それでも丁寧に教える。
「こっちのは2重になっている部分を並び替えて読んでみろ。で、こっちは平仮名だけを読め。そうすると読める」
「えっ、こんなものがあなたには来ていたのに、何故来たのですか?」
「悪い? あなたに何か迷惑かけましたか?」
少し機嫌を損ねたように、廉夏は言う。
「行けませんか?」
「君は悪いと思わないのか?」
「それこそ、なぜ?」
「彼女は君と間違われて殺されたんだぞ」
それを聞き廉夏は笑う。
「それを出したのは、彼女よ。しかも、そのコップを選んだのも彼女よ。つまり、渡すコップを彼女が間違えたからって、それまで私のせいにされてもお門違いじゃなくって」
「確かに、お前さんの言う通りだ。でも、これが警察だ悪く思わんでくれ」
トメさんが和やかに言う。
そして、静かに冬眞は告げた。
「あっ、そうだ。鑑識課の人に今回は、コンバラトキシンが使われた可能性があると、お伝え下さい」
「コンバラトキシン?」
それに、冬眞は、ニッコリ笑う。
『技とかよ。そう言えば、昔から嫌な性格だったよな、こいつは』
日向は溜め息を付くと、今度は簡単な説明を始める。
「コンバラトキシンは、1、2滴垂らせばいいと言う分けでもないし、無味無臭と言うわけでもない」
そこまで、日向が説明すると、その後をトメさんが継ぐ。
「百々(トド)のつまり、あまり殺人には、むかないってことだ」
「なるほど」
感心したようにトメさんを見る。
「ところで、何故お前は今回の事件にそのコンバラトキシンが使われていると?」
「別に意味なんてないですよ。ただ、学生なら、手に入れやすいなと、思っただけで、スズランがこの庭には沢山生えているようなので、材料には困らないでしょう?」
「確かにな」
日向は頷くが、新人刑事は納得いかないみたいだ。
だから、日向にがなりたてる。
「警視もっと真剣に調査してください」
そう言った新人君に冬眞が言う。
「刑事さん。覚えておいて下さい。あなたがこの先も、刑事であろうとするなら、言葉はときとして諸刃の剣になるということを」
「俺は別に……」
「では、忘れないで下さい。あなたは殺人を犯したわけではありませんが、言葉はそれと変わらないんだと、言うことを。言葉はときとして人を傷付ける刃となる。あなたが刑事だと言うのなら、これから先けして、それを忘れてはいけません」
「俺にそんな気は」
戸惑ったように、若手刑事は言う。
「あなたにはないのかもしれない。でも、受け取る側がどう取るかは、受け取る側の自由だと言うことを」
そう言うと、冬眞は、ニッコリ笑う。
「すいません。余計なことでしたね」
「お~い、部下を苛めるなよ」
日向が言う。
笑って冬眞も言う。
「苛めた覚えはありません。ただ、嫁を苛められ、少々頭に来てまして。申し訳ありません」
頭を下げる。
「つまり、俺に頭きているわけね」
笑って日向は言う。
「いえいえ、あなたには、感謝していますよ。妻を守ってくれました」
それに、廉夏はキョトンとする。
「守られた覚えはないぞ」
「廉夏は気付かなくて、良いのかもしれませんね」
と言って笑う。
「何をやっておる。私の娘はそこにいる者に間違われて、殺されたんじゃ。つまりは、犯人と変わらん」
「それは、どういう意味ですか? 私の身内を殺人者扱いですか? 良いご身分ですね。これから先、京極は、間宮さんとは一緒に仕事を行うことはないでしょう」
それを、聞いて間宮は焦るが、簾はもう話もしたくないとばかりに、日向に言う。
「俺たちの取り調べは後で良いよな」
「もう受ける気はないんだろう?」
日向は苦笑いをする。
「俺たちは、命を狙われたのに、身内が死ぬべきだったと言われて、頭に来てるんでね」
「そりゃそうだ」
日向が納得すると、また若手刑事が言う。
「その間に、証拠の品を隠されてしまうかも知れませんよ。先にやった方が」
「あ~あ、うるせぇな。こいつらの取り調べは後だ。それで証拠でも隠されたなら、上に言えばいい」
日向が言うと、彼は「どうなっても知りませんから」と言って、会場を出ていく。
「どこ、行ったんでしょうか?」
冬眞の疑問に日向は、笑って答える。
「便所だな」
「なぜ?」
「あいつはあの日かって言うぐらい、トイレで俺を愚痴ってるからな」
「ちなみに、その場面に遭遇したことは?」
「何度もあるな」
「そんなに頻繁なんですね」
「あいつが、カリカリし過ぎなんだよ。男のくせに小さいね。あいつは来る方向を間違えたね」
「確かにな。彼は政治家になるべきだったな」
廉も言った。
「ああ、でも奴は警察に来ちまった。もう、引き返せない。甘えたことは、言ってられない。それが刑事だ」
「だったら、お前が上を見せてやれば良い」
「そんな俺に働けってか? まぁ、奴が俺を使いこなせたら、それもありなんじゃねぇの? 俺は使われているのに、馴れてるからな」
そう言って、クスリと日向は笑った。

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