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『サッカーがしたくてもできない子どもたちが日本にいること』 2024年の申請期間を終えて

今年も「子どもサッカー新学期応援事業」の申請期間が終わり、40都道府県から延べ408人の申請者がありました。ラブフットボール・ジャパン代表の加藤遼也と、理事の河内一馬が、いまの気持ちを話しました。

※こちらの記事は音声で聞くこともできます


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—— 今年も「子どもサッカー新学期応援事業」の申請期間が終わりました。いま、ラブフットボール・ジャパンとして考えていることを話していけたらと思います。まず「子どもサッカー新学期応援事業」の概要をお話しいただけますか?

加藤:まだあまり認知されていないかもしれないですが、日本にも、経済的な貧困、ジェンダーの格差、人種や言語の問題で、サッカーをしたいけど諦めている、続けたいけれど困っている子どもたちがいて、その子どもたちを応援していこうというのが「子どもサッカー新学期応援事業」になります。

具体的な応援の方法は、サッカーに使える奨励金の給付、用具の寄贈、そして子どもたちは心の問題を抱えていることが多いので、プロサッカー選手との交流を通じたつながりを提供しています。

—— 何年から行なっているものですか?

加藤:2021年からなので、4年目になります。申請者は合計で40都道府県から408人の申請があり、日本各地から声が届いています。

—— 去年に比べるとすごく多いですよね?

加藤:毎年100人単位で増えている状況です。始めた当初は102人だったので、この3年で4倍に増加しています。去年から比べても100人以上は増えていますね。

—— どのような子どもや家族からの申請が多いですか?

加藤:圧倒的に多いのは、ひとり親世帯です。母子家庭や父子家庭からの申請が90%を占めています。ただ、私たちの場合はひとり親に限定していないので、二人親だけど実質一人で育てているようなご家庭からの申請も、だいたい5-6%あります。

あとは、408人のうち女性が48人。学年で見ると、小学生が一番多く、次に中学生、そして高校生の順番です。

河内:女の子の申請数も、毎年増えていますかね?ただ、まだまだ届き切っていないような印象はありますよね。

加藤:女の子も増えています。全体的に申請者が増えているのは、いろんな理由があると思っています。物価高によって金銭的に難しい状況にあったり、コロナの影響が続いており生活が厳しいということもありますが、この活動自体の認知が上がってきていることもあると思います。毎年やっていく中で、いろんな方々が発信に協力をしてくれていることを実感しています。ただ「まだ氷山の一角かな」という印象は否めないです。

河内:1%FCの選手たちも、発信を始め、多大なる協力をしてくれました。参加する選手たちも少しずつ増えてきて、それによって届く範囲が広がっているということもありそうです。

加藤:申請理由に「サッカー選手のSNSを見てこの活動を知り、申し込みました」という方々も少なくありません。


募ってきた危機感

河内:この活動は4年目になりましたが、今まで、そして今回の申請期間を経て、何か考えたことや、新たに感じたことってありますか?

加藤:「いよいよまずいぞ」という危機感がすごく高まっています。この問題はサッカー界が自ら招いている問題だと思うんです。サッカーを強くするとか、稼ぐとか、そういうことに対する知恵の部分と、子どもたちへの愛情や思いやりの部分が調和してこなかった。

いま、こうしてこのような問題があるということには気づき始めている。でも、それについて議論をするとか、考えるということが圧倒的にされてきてないと思うんです。サッカー界がこれまで通り活動をしていけば、お金の分断によって、居場所を失ったり、生きがいを失ってしまう子どもたちが増えていく、その危機感を強く持っています。

私たちが活動をしていくことはもちろん必要ですが、サッカー界の適切な場所できちんと検討をしていく、そのためのきっかけというか、仕組みづくりをしていかなければならない1年になると考えています。

河内:最近、僕の周りでも活動を見てくれる人が増えて、日本にも経済的・社会的な理由でサッカーができない子どもたちがたくさんいるんだということを話すと、「確かに…」という反応がすごく多いです。僕もそうですが、このような活動をするまではそこに目を向けたことはなかった。海外の貧困問題とサッカーの結びつきは、ある意味でイメージしやすいかもしれませんが、日本でも「サッカーがしたいのに、できない」という子どもたちがいることには、あまりまだ目を向けられていないのかもしれない。

4年経った今でも、それはあまり変化がない気がします。

加藤:当初始めた時から、課題やニーズを調査して、公表することをしていますが、それによって目を向ける人が増えたり、アクションを起こす人が自然発生的に増えることを期待していた部分はあったのですが「思ったほど変わっていない」というのが現状だと思います。

自分たちへの戒めも含めてですが、4年前まで僕らも何もしていなかったという立場にありました。でもすごく今思うのは、サッカーで育ってきた大人たちが、自ら子どもたちのサッカーの居場所を奪っているかもしれない、というのは、奇妙というか、皮肉に感じる部分でもあります。

そういう風にしたいと思っている人はほとんどいないと思います。でも、そうなってしまっている。

今年から「子どもサッカー新学期応援事業」についてや、子どもの機会格差について勉強会をオンラインで実施していて、そこで最初に伝えさせていただいているのが、「『知る』ということで止めないでほしい」ということです。例えば調査結果やデータに対して、自分が何を感じたか、自分だったらどうするかなどを、自分の内側に矢印を向けて考えて過ごしてほしいと伝えています。それを共有する場にしたいと。

というのも、この問題に対して、例えば1年に5時間でも考えている人は圧倒的に少ないと思っていて、考えていることの総量がまず少ない。だから現状に対する理解もそうだし、課題に対してどうアクションを起こしていくか、最適な答えが考えきれていない。それが大きな問題だと思っています。

河内:日本のサッカーで、今まで表に出てこなかった新しい課題ということですよね。それを前提にすると、いかにこの課題を知ってもらって、現状に対してアクションを起こす大人を増やしていけるか、が大切です。

ただこの事実を知った時、僕もそうでしたが「こんなにいるんだ…」という悲しみが襲ってくると思います。これを無視して、これからサッカーに携わっていくことは到底できないなと思ったので、同じように感じる人はたくさんいると思うんですよね。

加藤:3年間実施した中で子どもたちをたくさん見てきて、最初は困っているから助けたいという思いは当然あったんですが、それだけじゃなくて、子どもたちから気づかされること多くありました。支援することによって、サッカーができるようにするということだけではなく、子どもたちが本来持っている力を引き出していくことができるんだ、ということです。

「いつか自分が大人になったら同じ境遇の子どもたちを支援したい」と言う子どもが増えてきてます。それは考えるに、ラブフットボールや選手たちから「応援をされている」という経験が、次の誰かを応援したいという思いに繋がっているんだと思います。

子どもたちの中に自信が身につくとか、他人に感謝をするとか、そういった社会性の成長も多く見られます。もちろん困っているから応援したいんだけれども、本来子どもたちがそういう力を持っていても、発揮させられる世の中になっていけるかどうか、という観点がある。そこに対して良いアプローチができている、という状態が好ましいと思います。


事実に目を向けるか、目を瞑るか

加藤:「サッカーがしたくてもできない子どもたちがいる」というのがまず事実としてあって、その事実に対してこれからも目を瞑り続けるのか、そうでないのかが大切ではないでしょうか。こういった状況をすでに知りながらも、サッカーで大きなお金を稼いでいる人がいる、ということに嫌悪感を覚えてしまうときもありますが、怒りをフックにやり続けるのは難しいと思っているので、これからこの活動や課題に対して何か関心を持った時に、怒りではない別のエネルギーが必要です。それはサッカーへの恩返しの気持ちかもしれないし、子どもたちが成長していく様が嬉しいというポジティブな気持ちかもしれない。そういうものを、私たちも示していけることがあるんじゃないかなと思います。

河内:僕らが応援した子どもたちが、大人になった時にまた次の世代の子どもを応援して、という循環が起きるのはものすごく意味があることですよね。僕らの活動が仮に止まってしまっても、支援の輪が広がり続けるという状態、仕組みができるといい。みんなで支え合うような。

加藤:去年の振り返りで2人くらいいたんですが、「自分たちには応援団がついている」と言っていたんですね。これには、すごく響きました。

河内:「応援されることの喜び」というのは、たとえそれがプロサッカー選手でなくとも、自分がサッカーをすること自体を応援される、肯定される、というのはスポーツの本質のような気がしますが、そういう言葉が子どもたちから自然と出てくるのは、すごいことですよね。


行動が行動を引き起こす

加藤:できる限り多くの子どもたちを支援していく、という方針も思いも変わらないですが、この活動はラブフットボールに寄せられた寄付で実現していて、でも、すべての子どもの支援をしたり、申請者の希望通りに支援をしていくことは、現状では難しい状況にあります。

本年も、すべての子どもたちに希望通りの支援を届けることはできませんでした。サッカーで育った大人たちの協力をより必要としていますし、本当に力を貸してほしいと思っています。

河内:僕らが発信をする理由はそこにあると思うのですが、どういった支援方法がありますか?

加藤:個人の方に関しては、月額の寄付が500円から参加できます。月額が手間な方には単発の寄付もありますし、年に1回の寄付制度も今年から行なっています。サッカーコミュニティやプロサッカー選手には、1%FOOTBALL CLUBに参画していただいて、何らかの1%を寄付いただく方法もあります。

幸いにも、今年に入って2人の選手が新たに参画が決まっていて、毎年増えているのですごく感謝しています。周りがそれに勇気づけられていく連鎖ができたら嬉しいなと思います。

河内:いちばん声を大きく広げていけるのはサッカー選手かもしれないし、サッカーコミュニティの支援もものすごく大きな意味を持ちます。

加藤:サッカー界に関わっている、関わっていないとか、この問題の一端を担っている人も、そうでない人もいますが、誰であろうと、願って、行動していけば状況は変えられます。

個人単体では難しいかもしれないけど、いまマンスリーサポーター440人くらい、選手20人くらい、コミュニティも15組くらいいて、チームとして動いていくことによって変化を起こしていきたいと思っています。

一人一人の行動が、次の人の行動を引き起こしていく姿を私たちは何回も目の当たりにしてきました。自分が動くだけでは…と思うかもしれないですが、あなたが参画したおかげで周りの人が動く、ということは十分あるので、私たちもそのことを大切にしていきたい。力を貸してほしいです。

河内:サッカーというものは、子どもたちの居場所になりますよね。その居場所を子どもの時につくることができたら、ずっと残っていくものだと思います。「居場所が欲しいのにない」という状況は、サッカーを楽しむ楽しめない以上に悲しいことだなと思います。

加藤:最後に繰り返しにはなりますが、現状多くの人に目を向けられているという状態ではなく、困っている子どもの総数に対して支援の数が追いついていません。私たちも真剣にこの問題には取り組んでいますが、現実的にやれることは限られている。だから力を貸してほしいです。

子どもたちに必要なことを、チームとして取り組んでいきたい。その力を、貸してください。


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