命題
私が生まれた意味は何?
親のせいとか 環境のせいじゃなくて
私がここにこうして 生まれた意味は
何か 何か
ヒントがありそうなのに
くやしい
音楽と無縁の家で育った意味
医者の家系に生まれた意味
それをここまで踏襲してきた理由
期待を裏切れなかったこと
プライドを捨てられなかったこと
道を外れる勇気がなかったこと
それでもここまで歩いてきたこと
叶わなかった夢
叶えられなかった世界線
出会いたかった人々
変わりたかった自分
置き去りにしてきた夢
今も夢にみる世界線
ボロボロになってしまった自分
あれも何かの伏線だったのだと
いつか 納得したくて
敵わなかった自分が 悔しくて
本当は未だに認めたくないだけ
なのかもしれない
どうしてあの子が。
私が行くはずだったのに。
私が進みたかった道を。
どうして。どうして。
折にふれて思い出す
あの屈辱。
そう、屈辱
言葉にするのも口惜しいほど
苦虫を噛み潰すようなこの感触
妬み、苦しみ、僻み
我ながら醜くて目を逸らしたくなる
この世の黒という黒を寄せ集めたような
醜悪な感情。
見たくない、感じたくない
できるなら蓋をしていたい
でもそれじゃ立ち行かないらしいことは
誰より自分が知っていて
私が抱くはずの醜い感情を
私より先に吐き出すひとがそばにいて
その様はとても醜かったのと
本来清らかであるはずのこの関係が
いかにも複雑に、劣悪な感情にこじれてしまったようで
外面だけ良い母親が
裏で彼女らをどんなに罵っているか
私だけが知っているのが
とてつもなく苦しくて
私の中のぐるぐると、親が吐き出す毒やらで、
ついに私が選んだ術は
私がわるものになる ことだった。
幼子の必死の抵抗だ
大事なものたちが
悪に染まらないための
苦渋の決断。
決死の覚悟。
そこには何も起こらなかった
だって 私が わるいのだから。
縁もゆかりもないあの子が
私の母親に我が物顔で甘えることも
それを能面のように受け入れておいて
裏で口汚く罵る母も
密かに対抗心を燃やす様も
見ていていやな気持ちになろうと、
すべて私がわるいから。
誰にも真実を言う必要はない。
だって皆 体裁を保つのに必死だから。
そこで繰り広げられる茶番に
「洋子ちゃんは良い子」として参加するしか
場を滞りなく収めるすべがない。
くやしくても
むなしくても
さみしくても。
私はあの子が嫌いだ。
聖女のような成りをして
ひとの大切なもの平気でかっさらっていくところも
それでいて、自分は被害者であるかのように語るところも
治療者を気取る装いも
すべて鼻持ちならない。
でもそれを人が言うのは嫌いだ
私は私の中に確固たる理由があってそのように感じていて
あなたにそれを押しつけられる筋合いはない
悔しくても、虚しくても、屈辱でも
情けなくても
これは私だけの感情だ
あなたのとは違う、違うと思いたい
あのひとのそれはとても汚い
私が抱くこれも 本当は同じもの?
いやだ いやだ 認めたくない
私を支配するな
あなたと私は違う
同じであるかのように振る舞うな
これは私の感情だ
私の邪魔をするな。
きっとあの子は信じていたんだよ
純粋にあなたのことを。
彼女は彼女なりの、必死の、抵抗だ
あなたはそれにどれだけ誠実に応えた?
そしてそれを見る私の気持ちに、いつか少しでも配慮した?
どうしてそんな酷いことができるの
私は彼女に顔向けできない
悔しくて、悲しいし、苦しいけど
どんな顔して今さら会えばいいのか
それとも彼女も承知の上だったか
これは茶番で、本当に他人の母親が欲しいわけでないと
あくまで自分の母親の気を引くための
手段に過ぎないと
わかっていなかったのは私だけだったか
勝手にここまで抱えて苦しむ
わたしがいちばん馬鹿なのか
いつもいつも 狐につままれているようで
狸とやらの化かしあいに
巻き込まれているようで
私だけが 要らぬところに傷ついて
無意味に苦しんでいるような
気づいてしまえばあっけなくて
何のことはない、いけしゃあしゃあと
自分もその場をやり過ごせば良いのだろうけど
結局いくつになっても
それができるようになるとは全然思えない。
なんて損な身分。
ああ、それで、なんの話だったっけか。