恋愛体質

私、むかしは自分のこと、恋愛体質なんだと思ってた。
たぶん周りからもそう思われてた?し、自分でもそう信じてた。

だから、私のこの重ための愛を臆さず受け止めてくれる人を探さないといけなかった。
「その人」に出会いさえすれば、きっと私の心の中の闇はみたされて、いつしか光も怖くなくなるはず。
あまりにも生きていたくなさすぎて、それが唯一にして最大の望みになってた。

でも違った。
私があのとき恋愛感情だと思っていたものは、ただ不安が形を変えただけのものだった。

私が誰かを好きかもしれないと思うとき。
それは、所属していたい集団のなかで、碇のような存在がいてほしいと望むときだ。

人が怖くて、どこにいても、誰といても不安で仕方なかった。
仲の良い友達ならまだしも、部活だとか組織の形を成すもので、必ずしも皆が自分の味方とは限らない(社会に挑む)とき。

私をそこに繋ぎ止めてくれる、碇が切実に必要だった。
立ち振る舞いの下手な私が、その社会の中で自分の居場所をつくるには、私よりそこに馴染んでいて、尚且つ私が怯えなくてすむ無邪気で無害な存在が必要だった。
私と社会をつなぐ肩書きに、橋渡しをしてもらう必要があった。

女の子同士の関わりは、そういうときあてにならない。
いざとなれば団結するけど、そうでもなければ簡単に、目先の利益を優先して裏切ったり裏切られたりできるから。
本当の本音はいつもわからない。

だから、この場合、私にとって有益なのは、◯◯くんの彼女、という肩書きだ。

学生の集いなんて単純で、惚れた腫れたがあればすぐに噂になるし、それをネタにして自分のキャラ(設定)を打ち出していくこともできる。
丸腰の私でいきなり勝負しなくてもよくなる。

私をほんの少しだけ丁重に扱ってもらえるし(それが興味本位だとしても)
共通の話題が最初にあることで、そこから先のつながりも少しは広げやすくなる気がした。

相手には私を守ってほしかった。
組織の中で私がどう見られているか、どう振る舞えばいいか教えてほしかった。
どの先輩に取り入って、どの人に注意しなければならないか、予め教えてほしかった。
そして、彼だけには、どんな時も絶対に私の味方でいてほしかった。
丸腰で人の世の中に飛び込むのは、本当にあまりにも不安すぎた。

私は自分でそのしくみに気づいてなかったけど、今思えば、すべてに合点がいく。

母に「男に逃げるな」と言われたこと。
それが妙に図星な気がしてこわかったこと。
いつも、付き合いがよくて裏表がない感じがする人に惹かれること。
それでいて、私が付け入る隙がありそうな、自信のなさが垣間見える人を選ぶこと。

我ながら、本当に狡猾だったと思う。
これをすべて無意識に計算していたとしたら。
本当にいやな女だなと思う。自分のこと。
きっとどこかで自分の計算高さにも気づいてて、
だからいつもバレないか不安で、怖くて、後ろめたかった。
いつか化けの皮を剥がされるんじゃないか、ひょっとするともう既にみんな私の正体を知っていて、うしろ指刺されているのに私だけ気づいていないんじゃないか。
考えるほど怖くて、余計に策略を巡らせた。
そしてそうするほどどこまでも自信がなく、自分が醜くて大嫌いになった。



実際、仮にそれらしき相手を捕まえたところで、相手が自分の思うとおりに動いてくれるはずもなく、その度私はパニックになった。
見捨てられ不安と、周りからどう見られているかわからない不安で疑心暗鬼になって、自滅するパターンの繰り返しだった。
毎回毎回ボロボロになって、母から牽制もされて、それでも、また碇になってくれる人を探さずにはいられなかった。

有り体に言えば、心の安全基地が全くなかったのだと思う。

ただ、私が探していたのは、そのとき生き残りを賭けて闘おうとしている小さなコミュニティの中で、あくまでその中だけで、うまくやってそうな人だったから、
そこから離れた世界に進んでいくと、自分にとってのその人が、何なのか全然わからなくなった。
恋愛感情の残り滓のようなものはあるのに、実際の相手に何を求めているのか自分でもわからず、かと言って離れる勇気もなく、発散しようのない苛立ちが募った。
そうなると母も、それ見たことかと、私や相手の分析(もどき)やダメ出しをして、自分の優位を見せつけようとする。
それがさらに苛立たしかった。

家と違うコミュニティに属したいと望むこと、それは即ち母と2人きりの地獄から抜け出したいと望むことだった。
それを察知して阻止されたようで不快だった。
あんたにはできっこない、と言われた気もして胸糞悪かった。
すかさず罪悪感を抱かせる文言で刺激されるし、あなたには私がいなきゃだめなのよ、とでも言うように干渉された。
私から逃げようとするからよ、と嘲笑われるようで(たぶん気のせいではない)
ひどく不快だった。
どこまでも、自尊心が損なわれた。悔しかった。

私は、自分の実家で経験できなかった、「ちゃんと機能している家族」というものを、この目で見て、学んで、再現したかった。
だけどいつも、所属する組織を離れて、自分と相手と、その家族も含めた、新たな単位で関わりを考えなおそうとすると、途端に気持ち悪く、強烈な違和感と抵抗が生じてしまっていた。

自分がいかに相手そのものと向き合っていなかったか、今なら嫌というほどわかる。
私がそうだったのだから、私に付き合う相手も然りだ。
関われば関わるほど空回りして、不安を直視せざるを得なくなり、互いにもしくは一方的に、空虚な感情をぶつけるしかなくなっていた。
そこからは私が育った家の中と同じだ。

限界になったら、相手を悪者にして、私も悪者になって、最初からなかったことのようにしてしまえば終わりだ。
そんなことを繰り返していた。
すごく空虚だ。


その頃のことを思い返すと、最近はずいぶん健全になったなぁと思う。
多少の駆け引きはあれど、フラットな気持ちで異性とも関われるようになったし、搾取されるのではないかと怯える気持ちも和らいだ。
当然、それがゼロになることはないけど、何かの条件を提示されたとして、それが私に提供できるものか、提供してそれに値する対価を得ることができるか、を冷静に判断できるようになった。

私が女性としての役割を求められるなら、それ相応の対価を求めてしかるべきだと思う。
私だって、これが生きるために使えるスキルのひとつだと把握しているし、それが錆びないように常に磨きをかけているつもりだ。
そんなに無償で垂れ流しはしない。

あなたは私に何ができるの?
私にそれを求める代わりに、どんな価値を提供してくれるの?
下衆でシビアな考えだけど、幾度となく搾取され擦り減った経験を経て身につけた処世術だ。
タダ働きなんてしてやらない。

話が大幅に逸れてしまったけど、要するに、
自分の力で闘えるようになるにつれ、いらないつながりに縋る必要もなくなったということだ。
碇なんてなくたって、私はこの足で大地を踏み締めて生きていける。
男みたいな体力とか、仕事に打ち込める安定した身体がなくたって、私に備わってる他の色々でどうとでも闘ってみせる。
別に私は何者でもないけど、そんな覚悟みたいなものが据わってきてて、この力強い感じを自信とか勇気と呼んだりするのかもしれないと思う。

とはいえやっぱり私は無力で、体力もなければ変化にも弱いので、いつかそんな私でも安心して寄りかかれるような、同士みたいな存在がいてくれたらいいな、と密かに願っている。

まとまりないけど、これも覚えがき。
明日もがんばるよー。