「全部を賭けない恋がはじまれば」を枕元に置こう
初めて稲田万里さんの文章を読んだのは、noteにコスモ・オナン名義で書かれた「居酒屋で面接されバトンタッチされた事件」だ。
マッチングアプリで知り合った彼の元カノに、セフレとして合格がどうか面接される話。
荒唐無稽で理解を超えた。
フィクションなの?まさかノンフィクション?
知らない世界を見せてくれるオナンちゃん、
いっぺんで、いや一編でファンになった。
そのうちオナンちゃんは「日曜興奮更新」として小説を書きはじめた。
これがびっくりするほど面白かった!
彼女の非凡な才能を見逃さなかったのが田中泰延さんだ。
ひろのぶと株式会社の出版第一弾として、コスモ・オナン=稲田万里さんは『全部を賭けない恋がはじまれば』で作家デビューとなった!
さて『全部を賭けない恋がはじまれば』。
noteに書かれた短編に磨きをかけて、さらに書き下ろし一編を加え、編集というおめかしをされた18編の短編集。
エロとおもろさの中に、ピュアなのか繊細さなのか得体のしれない成分が入っている。
艶めかしい表紙。
濃い物語のわりにはそっけない短編のタイトル。
そのまま広告のコピーに使えるようなフレーズ。
困った時の稲田万里的名言の数々。
これは座右の銘にしたい。
正直で眩しい。
そしてどの物語も悲惨なのに明るい。
たとえば、初体験の相手から毎年誕生日にメッセージが来る「お誕生日おめでとう」。
一見ロマンチックな話と思いきや、とんでもない。
悲惨な初体験の後、おまじないのように唱えるあの1行は、全人類に捧げたい名言だ。
主人公のたくましさに涙がでる。
書き下ろしの「じゃがいも」。
心にズンとくる一行がある。
そうか、この本はまさにそれだ。
好きな人に振られたり、自分のダメっぷりに落ち込んだり、どうしようもなく寂しくなったりした時は、この本をにぎりしめればいいんだ。
くしゃくしゃになっても、ページが破れても、ここに書いてあることがきっと力をくれる。
泣いても、くじけても、逃げても、生きていていいと抱きしめてくれる。
最後にとっておき名言を紹介して終わろう。
ラブホの受付のおばあちゃんと内線電話で話をする「夜のコール」。
自業自得とはいえ悲惨な状況になった彼女にかけるおばあちゃんの一言。
生きるためには寝ることがだいじだ。
ひとりででも2人ででも。
そして枕元には『全部を賭けない恋がはじまれば』を置こう。
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