松井誠さん特別公演2019を観劇して

    知る人ぞ知る美しい女形の、松井誠さんの特別公演2019を見に行った。
ここ数年、毎年特別公演を見ている。わたくし如きが言うのも、おこがましいのであるが、今回の公演はここ五年間の中で、芝居もレビューも一番の出来である様に思った。
    松井誠さんは、女形では「生きる博多人形」と言われるほどの、容姿もさることながら、山田五十鈴さんの芸養子としても、名を連ねている芸達者でもある。
また、大衆演劇の世界においては、独自の品の良さを持ち合わせている、特異な存在感の人である。
    今回の特別公演も例年通り三部構成に分かれていて、第一部は「粋 男伊達」の立役。第二部は「芸者の意地」と言う芝居。そして第三部は「艶 豪華絢爛女舞」と言う女形のレビューだ。
    そしてその構成、演出、振付を全て松井誠さんが行なっているのも、見所の一つである。
    まずは第一部、男性陣の踊りからスタートし、四曲目には、お約束の「ブラジル音頭」、この演目は、松井誠さんがオカメとひょっとこのお面をつけて踊りながら、お面を交互に付け替えては、違った表情を見せて踊って行くという、手拍子が出る楽しい演目だ。こんなコミカルな演技も愛嬌たっぷりで、余裕で演じてしまうのである。
そして更に、メドレーで歌を歌いながら、客演者や下町かぶき組の座長の紹介をしたりと、後輩に花を持たせる場面もある。
いつもはここで、シングルカットした曲を歌うというパタンを、今回は違った見せ方をしている。
     第二部に入る幕間の展開時には、誠さんのトークタイムがある。お客様も心得ていて、客席からさっと、ペットボトルのお水を持ってファンが来る。汗拭きタオルも持ってくる。歌って踊って汗をかいた身体に、ファンのありがたさとともに、深く染み入ることだろう。ここでは、素の誠さん大爆発で、気取らないお人柄が垣間見える。
     第二部は第一部とはガラッと趣向を変えた人情物の芝居である。
芸者の仇吉に松井誠さん、妹芸者の歌奴に客演の速水映人さんを迎えた。運命に惑わされる芸者の意地を、美しい女形二人の共演で見せた。
いつもながらの、安定した芝居の誠さんに、若手の速水さんが、華のある演技を見せてくれた。
そして、二十分の休憩を入れての、第三部である。
     第三部は、いつもこれでもか〜と言うほどの早着替えで、美しい着物姿の松井誠さん三昧で、嬉しいのだが、大変だろうな〜と言う感がつきまとっていた。今回は若手の効果的な起用もあった。
   「道行華」と言う、誠さん歌唱のCDシングルのカップリング曲で、阿木耀子さん作詞、宇崎竜童さんの作曲に、Deep寿さんの編曲がドラマチックな曲。この曲に合わせての、若手の二人の舞踊は華があって、儚く悲しかったし、とても美しかった。
そして、ここから誠さんにバトンタッチしての「生きる博多人形」からの「お梶」、「娘道成寺」からグランドフィナーレに続く辺りは、松井誠の真骨髄と言えるほどの美しい舞台。圧感だった。
    この後、舞台の余韻が覚めないのに、誰よりも早く、舞台の中央から、会場の出口に来て松井誠さんご本人が、お客様をお見送りをしてくれる。
まさに、お客様のことを考えた、至れり尽くせりの演出が効いた、特別公演である。
    今回は良い意味での、力の抜き加減を随所で感じた。
今まで、一人で背負いすぎた感があって、悲壮感漂うような感じを受けた時もあった。
今回は良い若手にも恵まれ、芝居もいつにも増して、充実していた。
    来年は35周年とのことで、なんとご本人も、還暦を迎えると言うことである。来年の公演も楽しみである。さらなる飛躍をと、願ってやまない。