選挙演説のヤジの違法性

選挙演説へのヤジの違法性について、ほぼデマレベルのことを信じてる人がえらくたくさんいるので。

公職選挙法の選挙の自由妨害罪

第二百二十五条 選挙に関し、次の各号に掲げる行為をした者は、四年以下の懲役若しくは禁錮 又は百万円以下の罰金に処する。
一 選挙人、公職の候補者、公職の候補者となろうとする者、選挙運動者又は当選人に対し暴行若しくは威力を加え又はこれをかどわかしたとき。
二 交通若しくは集会の便を妨げ、演説を妨害し、又は文書図画を毀 棄し、その他偽計詐術等不正の方法をもつて選挙の自由を妨害したとき。
三 選挙人、公職の候補者、公職の候補者となろうとする者、選挙運動者若しくは当選人又はその関係のある社寺、学校、会社、組合、市町村等に対する用水、小作、債権、寄附その他特殊の利害関係を利用して選挙人、公職の候補者、公職の候補者となろうとする者、選挙運動者又は当選人を威迫したとき。

演説の妨害についての判例

最高裁判所第3小法廷 昭和23年(れ)第117号 昭和23年6月29日

衆議院議員選擧法第百十五条第二号にいわゆる演説の妨害とは、その目的意図の如何を問わず、事実上演説することが不可能な状態に陥らしめることによつて成立するのであつて、判示山内泰藏の演説の継続が不可能になつたのは、被告人と山内との口論にその端を発したものであるとはいえ、結局は、被告人の山内に対する暴行によつて招来されたものであるから被告人として固よりその罪責を免かれることはできない。
最高裁判所第3小法廷 昭和23年(れ)第1324号 昭和23年12月24日

しかし原判決がその挙示の証拠によつて認定したところによれば、被告人は、市長候補者の政見発表演説会の会場入口に於て、応援弁士林常治及び望月勘胤の演説に対し大声に反駁怒号し、弁士の論旨の徹底を妨げ、さらに被告人を制止しようとして出て來た応援弁士馬淵嘉六と口論の末、罵声を浴せ、同人を引倒し、手挙を以てその前額部を殴打し、全聴衆の耳目を一時被告人に集中させたというのであるから、原判決がこれを以て、衆議院議員選擧法第一一五条第二号(原判決文に「第一号」とあるのは、「第二号」の誤記であることが明らかである)に規定する、選挙に関し演説を妨害したものに該当するものと判斷したのは相当であつて、所論のような誤りはない。仮に所論のように演説自体が継続せられたとしても、挙示の証拠によつて明かなように、聴衆がこれを聴取ることを不可能又は困難ならしめるような所爲があつた以上、これはやはり演説の妨害である。
大阪高等裁判所 公職選挙法違反 昭和29年11月29日

しかし選挙演説に際しその演説の遂行に支障を来さない程度に多少の弥次を飛ばし質問をなす等は許容せられるべきところであるが演説の妨害となることを認識しながら他の弥次発言者と相呼応し一般聴衆がその演説内容を聴き取り難くなるほど執拗に自らも弥次発言或は質問等をなし一時演説を中止するの止むなきに至らしめるが如きは公職選挙法第二百二十五条第二号に該当すると解すべきである。

これをふまえても、非法律家とおぼしき人が独自の解釈をしているブログ(安倍首相の街頭演説中のヤジを朝日新聞が擁護⇒民主党時代はプラカードだけで排除 - 事実を整える)もありますが、法律家の見解を以下にいくつか挙げましょう。

演説妨害についての公職選挙法の法律家の解釈の例

ヤジの市民を道警が排除 安倍首相の街頭演説中 - 2019参議院選挙(参院選):朝日新聞デジタル

松宮孝明・立命館大法科大学院教授(刑法)は「判例上、演説妨害といえるのは、その場で暴れて注目を集めたり、街宣車で大音響を立てたりする行為で、雑踏のなかの誰かが肉声でヤジを飛ばす行為は含まれない」と話す。むしろ連れ去った警察官の行為について「刑法の特別公務員職権乱用罪にあたる可能性もある」と指摘。「警察の政治的中立を疑われても仕方がない」と話した。


乗り遅れたけど、総理の演説を野次ったら警察官に強制排除されるの暗黒すぎるな。ドン引きしたわ。揶揄とか抜きで、日頃ネットで表現の自由を擁護している人は何よりも怒るべき案件だろこれ。(なおあの程度の野次なら選挙の自由妨害罪に該当しないことは明らか)
千葉県弁護士会所属 三浦義隆  twitter 発言より


一人で安部帰れコールをした行為が公職選挙法225条2項「演説を妨害」に該当するとまで言えるかは大いに疑問があります。
山口貴士 twitter 発言より
RT 公職選挙法225条2号で犯罪になるのは、「演説を妨害し」たこと自体ではなく、「演説を妨害し」「もって」「選挙の自由を妨害したとき」なので個別的な事情を考慮し、選挙の自由を妨害したかどうかを判断しないといけません。
山口貴士 twitter 発言より
RT 大勢で野次を飛ばし、演説を聴衆が聴きにくい状態にするのと、演説する候補者に対し、一人が肉声で野次を飛ばしたのを同一視して、公職選挙法225条2号に問うのはおかしい。大原則は自由であり、市民には演説者、現職の公職者を野次る権利があり、公職選挙法は例外に過ぎないことを忘れてはいけない
山口貴士 twitter 発言より

上述のブログは「事実」を標榜していますが、独自解釈を正当化するなら、自説を支持する法律家をせめて最低1人連れてきてから述べるべきであろうというところです。

おまけ

法律家ではないが、現政権を叩くバイアスがむやみにかかっている心配の少ない産経新聞社の記事より

首相演説で妨害相次ぐ 聴衆に被害 公選法に抵触も

公選法は演説妨害を「選挙の自由妨害」として刑事罰の対象にする。個人のやじは該当しないとみられるが、集団で演説が聞き取れないほどの妨害行為を行った場合は同法が適用される可能性がある。

自分勝手にアクロバティカルな法解釈で事実主義の標榜するのに少しは恥を感じてほしい






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