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♯1 ホームスパンとは?

ライターの佐藤春奈さんが手紡ぎ手織りの学校「Looms」の体験講座に参加した、ホームスパンのマフラーを一からつくってみたルポです。
講座の概要についてはこちら
今回からいよいよ体験が始まります!



「ホームスパン」とは何か。

今でも岩手でも、「何のパンをつくっているの?」と聞かれることがあると話す小山さんと原さん。

岩手でつくられている織物という印象が強い人が多いでしょうか。

講師・原さんが紡いだ糸

私が十数年前にホームスパンを知った時は、柳宗悦が好んで着ていたジャケットの生地というイメージが強く、地域のものづくりとして憧れはあるけれど、高価で、色合いも少し地味、普段使いに合わせるのは難しい印象がありました。買い求めずに岩手を後にしたと記憶しています。

それから数年、縁あって東北で暮らすようになり、こぎん刺しや南部菱刺し、紫紺染など、東北の手仕事に触れているうち、ウールでつくられたカラフルなストールや手袋などの小物に出会いました。「デザインも素敵で、かわいい。これもホームスパンなんだ」と印象がガラリと変わったことを覚えています。


そもそもホームスパンとはいったい何なのだろう。

もっと知りたいと思い調べるうち、むくむくと興味が湧いてきたのは、「ホームスパン」が、ふわふわの羊の毛を好みの色に染め、糸を紡ぎ、生み出されているものであること、なかでも羊毛は「衣」服になり、断熱材やゲルを覆う布として「住」をも賄う。肉や乳は「食」になり、脂は石鹸やろうになると知った時でした。

「羊すごい……」。東北で暮らす体が、自然の恩恵を受けて生み出すものや、ふんわりあたたかみのあるものを求めるようになっていたこともあるのかもしれません。「羊毛を紡いでみたい」と思うようになりました。

そんななか出合ったのが、Loomsのプレイベント『ホームスパンで自分だけのマフラーをつくる講座』。

この講座では、まず岩手の「ホームスパン」の工程をイラストにそって学びます。

「ひつじの毛がマフラーになるまで」の工程を、イラストを見ながら紹介。図は、『てくり別冊 HOMESPUN in IWATE』(まちの編集室)より。

ホームスパンとは、その名の通り、「ホーム=家で、スパン=紡ぐ」を意味しますが、今現在岩手でホームスパン作家と名乗る人たちは、作品・商品が「織物」であり、かつ、「経糸(たていと)・緯糸(よこいと)どちらにも羊毛を手紡ぎした糸」を使う時に、ホームスパンと表現しています。

一連の工程を学ぶと、高価である理由やその技術の高さに納得します。織るための糸をつくるまでに数々の熟練の手仕事が積み重ねられているのです。

このレポートでは、おおよその工程を紹介し、岩手のホームスパンがどうやって生み出されているのかを知る入り口になってもらえたらと思います。


工程① 毛洗い(精錬)

ホームスパン作家や工房の仕事は「毛洗い」から始まります。刈られた羊毛を購入し、専用の洗剤(モノゲンなど)で手洗いします。

毛質は、羊の種類で変わり、同じ種類でも育った環境や個体で異なります。そのため、自分の手で洗うことで、どんな作品・商品に適しているか、毛の質感を感じ取ったり、自分が紡ぎやすい程よい油加減に調整したりするのだそう。

中央のネクタイは、i-woolを使用した原さんの作品。たとえば岩手県産の羊毛i-woolは、これまで廃棄されていた食肉用の羊の毛をブランド化したもの。羊毛のために育てられた羊の毛ではなく、固めで弾力があり、マフラーやストールよりも小物や服地に使用されることが多い素材。作家は、洗いながら毛質を確認し、何をつくるかを決めていきます。


工程② 染色

羊毛を洗い終えたら干し、毛ほぐしやゴミとりをして「染色」を行います。

染色には、「化学染め」と「草木(植物)染め」があり、小山さんは化学染め、原さんは植物染めをメインに作品をつくっています。

どちらがいいか悪いかではなく、染織方法は作家の好み。

ほしい色に染めることができ、パキッとした色をつくることができるのが化学染の特徴。羊毛に対しての染料のパーセンテージで違う色をつくることができるのがおもしろさのひとつでもあるのだそう。

植物染めの染料は、くるみや栗の樹皮、玉ねぎ、コチニール(サボテンについている虫の体液)などさまざま。同じ染料でも、ミョウバン、スズなど何で媒染するか、また、採取する時期や、植物自体の元気さでも色の強弱が変わります。

原さんの色見本。何の植物で染めた時に出た色か一覧でわかるようになっています。


工程③ 毛ほぐし・毛玉とり

羊毛を染めた後、好みの色づくりのため「毛を混ぜる」作業を行います。毛の状態によっては再び手ほぐしを丁寧に行わないと綺麗に混ざらないこともあるのだそう。この際に、手洗いでは取れない小さなワラなどゴミも取り除きます。小物をつくるときは100g〜、服地をつくるときは約1kgの羊毛を使用します。(★講座では、毛玉とりも少しだけ体験しました)


工程④ カーディング(毛の繊維の向きを揃える・混ぜる)

毛ほぐしののち、「ハンドカーダー」や「ドラムカーダー」を使用し、ほぐした羊毛の繊維の向きをそろえます。

ハンドカーダーでは約1g、ドラムカーダーでは約20〜30gの羊毛の毛を一度に揃えることができます。さまざまな色の羊毛を混ぜ、違う色の羊毛をつくることができるのもカーディングのおもしろさです。(★講座では、さまざまな色の羊毛を混ぜる体験を行いました)

ハンドカーダーとミックスした羊毛。


工程⑥ 糸を紡ぐ

羊毛の準備が整ったら、いよいよ糸を紡ぎます。

羊毛を紡ぐ道具には、持ち運びできる「スピンドル」、足踏み式と電動の「紡毛機」があり、講座では、足踏み式の「紡毛機」で、マフラーを織る緯糸の糸紡ぎに挑戦しました。


工程⑦ 撚(よ)り止め

紡いだ糸は「大枠(おおわく)」と呼ばれる道具に巻き取り、切れたり撚りが戻らないように蒸す「撚り止め」を行います。


工程⑧ 「綛(かせ)あげ」に巻き取る

専用の道具「綛あげ」に巻き取り、紡いだ糸の長さや太さを測ります。綛は、1周で何メートルかが決まっているので、何回巻きつけたかで長さを測ります。ここで織るための糸がようやく完成です!


工程⑨ 整経

「整経台」と呼ばれる道具を使用し、経糸に必要な長さや本数、糸の順番を揃えます。


工程⑩ 機(はた)に糸をかける

「整経台」で整えた順番通りに機に糸をかけ、ようやく織る工程がスタートします。(★講座では、「卓上織機」を使用しマフラーづくりに挑戦します)


以上が織りはじめるまでの大まかな工程ですが(それでも10の工程!)、いくつもの手仕事を経て、ホームスパンが生み出されていることがわかります。この後に「織り」、「縮絨(しゅくじゅう)」など仕上げの工程を経て完成します。

今回の講座では全6回という時間のなかで、「カーディング」「紡ぎ」「織り」「縮絨」といった、工程の一部を体験しました。

まさに「手仕事」の工程を経てできるホームスパン。熟練の高い技術が評価され、受け継がれて行ってほしい。つくり手が育ち、支援される環境が整えられてほしい。そう感じることはもちろん、趣味として楽しめる要素も含んでおり、Looms の開校は、そうした人が増えることでファンが増え、裾野が広がり、一般に理解が広がっていくことも期待されます。

次回はいよいよ実践。ほぼ初心者4人が体験する「紡ぎの準備」の工程の一部をレポートします!

岩手のホームスパンについてもっと詳しく知りたいと思った方は、『てくり別冊 HOMESPUN in IWATE』(まちの編集室)で詳しく紹介されているので、ぜひ参考に!

てくり別冊 HOMESPUN in IWATE』(まちの編集室)



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